第10話 鼻先
文字数 797文字
六月二週、週末。
取手先輩の占いもあって、中原さんに会えないかと広場に来てしまった。
「お? なんや、太田君来たんか? それもウチに会いに」
中原は少しお道化る様な言い方が少し気になったが、事実なので頷く。
「う、うん」
「は?」
言った本人が素っ頓狂な声を上げたので、やや熱くなりかけた頬が一瞬でそれを忘れた。
「だから、中原さんに会いに来たって」
中原が顔を逸らす。
「ウチ、大き過ぎてみっともないで。それに他の子より全然かわいないし」
俯いたままブツブツと言っている。
「そうか? でも、スマートじゃないか。別に太っているわけでもないし」
中原は顔を上げる。目尻がやや下がっており、本人も悪い気はしていないようだ。
「フォロー、ありがとな。でもさ、服を買いに行ったりすると嫌でも思い知らされるのよ。普通の店じゃウチの着られる女物の服も無いし、制服だってそう。初めて作った特注サイズなんやて」
足元の小石を蹴った中原の笑みは自虐を含んでいて、見ている俺も少し辛い。
「それにな。ほら」
グイッと中原に詰め寄られる。突然の接近に俺は思わず半歩後退った。
「な? 後退りするやろ」
一方的な決めつけにカチンときた。仕返しというわけでは無いが、中原の言葉を否定するためにズイッとにじり寄る。
「ヒィッ!」
「誰だっていきなり近づかれたらビックリするだろ? あ……」
俺よりも背が高くても女の子なんだと再認識させられる。初めて会った時もこんな感じだっけ?
「ごめん。別に脅すつもりは無かったんだ」
若干涙目になった中原が首をふるふると振る。
「いや、謝らんで。最初に私がやったから、ほんまゴメン」
そのまま回れ右で中原さんは寮に向かって駆けていく。大きなスライドだが、足の回転は少し遅い。
「流石に何も言わずに鼻先に近寄るのはダメだよな。張り倒されても文句は言えないよな」
取手先輩の占いもあって、中原さんに会えないかと広場に来てしまった。
「お? なんや、太田君来たんか? それもウチに会いに」
中原は少しお道化る様な言い方が少し気になったが、事実なので頷く。
「う、うん」
「は?」
言った本人が素っ頓狂な声を上げたので、やや熱くなりかけた頬が一瞬でそれを忘れた。
「だから、中原さんに会いに来たって」
中原が顔を逸らす。
「ウチ、大き過ぎてみっともないで。それに他の子より全然かわいないし」
俯いたままブツブツと言っている。
「そうか? でも、スマートじゃないか。別に太っているわけでもないし」
中原は顔を上げる。目尻がやや下がっており、本人も悪い気はしていないようだ。
「フォロー、ありがとな。でもさ、服を買いに行ったりすると嫌でも思い知らされるのよ。普通の店じゃウチの着られる女物の服も無いし、制服だってそう。初めて作った特注サイズなんやて」
足元の小石を蹴った中原の笑みは自虐を含んでいて、見ている俺も少し辛い。
「それにな。ほら」
グイッと中原に詰め寄られる。突然の接近に俺は思わず半歩後退った。
「な? 後退りするやろ」
一方的な決めつけにカチンときた。仕返しというわけでは無いが、中原の言葉を否定するためにズイッとにじり寄る。
「ヒィッ!」
「誰だっていきなり近づかれたらビックリするだろ? あ……」
俺よりも背が高くても女の子なんだと再認識させられる。初めて会った時もこんな感じだっけ?
「ごめん。別に脅すつもりは無かったんだ」
若干涙目になった中原が首をふるふると振る。
「いや、謝らんで。最初に私がやったから、ほんまゴメン」
そのまま回れ右で中原さんは寮に向かって駆けていく。大きなスライドだが、足の回転は少し遅い。
「流石に何も言わずに鼻先に近寄るのはダメだよな。張り倒されても文句は言えないよな」