第9話

文字数 776文字

 ウィークリーミーティングが始まった。
 今日は少し長くなると前置きし、鬼原の訓示が始まった。
「ゲーム業界全体が低迷している。我々のような弱小企業は益々淘汰されていくだろう。何としても、差別化できる新作を生み出さなくてはならない。今のぬるま湯ではそれは不可能だ。団塊が生き抜いた時代を想像するのだ。彼らは欠損を武器にして闘ってきた」
 鬼原が、段階世代を持ち上げるのは初めてだった。相当な窮地なのかもしれない。
「け、欠損、ですか」プログラマーの細谷がつぶやいた。日夜バグと戦い、完成度が命の彼の仕事にとっては違和感を覚える言葉だったに違いない。
「そうだ。ハンディと言ったほうが聞こえはいい。要は、どうしても乗り越えなければならない壁だ。そこで人間は強くなる。ゆとり世代と言われる君たちの多くは、みな平等だとか言って、まやかしの和を求める。そんな世界で、心が打ち震える物語などできやしない。共感は、ボロボロになるまで己を突き詰めてからの話だ」
「団塊は違うと――」星野が口を開いた。
「そのとおり。以前、社会の上層部を占めていた団塊はなりふり構わず突き進んだ。だが、団塊の世代にも言い分はある。戦後のどさくさに生まれた団塊は、競争を煽られ、友情や兄弟までを捨てざるを得なかった。彼らが生きた時代そのものが大きな欠陥を抱えていた。彼らは、人間として救いようのない劣等感を持ちながら、それに負けないように闘った。昔、抗争の現場に黒装束で向かったヤクザがいたそうだ。命がけの戦いでは、流血を悟られたほうが負けるからだ。団塊は、自分の欠陥を正確に見極め、それを隠しながら戦い抜いた」
 会議の場が静まり返った。
「すまない、今日はどうかしていた。メインテーマに戻ってくれ」
 鬼原も、追い詰められているのかもしれない。会議室を去っていく後姿に、これまでにない孤独が滲んでいた。
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