第7話

文字数 1,094文字

 ブライトンゲームズに移籍してから七年が経とうとしていた。
 だが、会社の業績は伸びていない。むしろ受注は落ちている。ブライトンゲームズの売りはアクションゲームだった。だが、競合他社が革命的なゲームをどんどん発表しているなか、未だに差別化を図るゲームシナリオが生み出されていない。グループトップS社にしても、それに追従できない下請けは切り捨てざるを得ない状況にある。
 これは、シナリオライターである翔の責任だ。このままではいずれ自ら身を引かなければならないことは目に見えていた。  
 現状打開を図るための全体会議が開かれた。
 いつになく張り詰めた表情で、鬼原が、口火を切った。
「アクションにこだわる必要はない。ノベルとアクションの合体もありだ。あっと驚くシナリオを出してくれないか。このままでは会社は危ない」
 鬼原が翔に、チラリと視線を向けた。
 エモーション重視のゲームがアメリカから発信され、ノベルゲームが見直されてきたことは確かだった。翔にとっては、またとないチャンス到来だ。
 いつも脳裏を占めていることが、不意に口を衝いた。
「空手ノベル、というのはどうでしょうか?」
「空手ノベル――、初めて聞くジャンルだ。何かストックでもあるのか?」
 翔は、ドキッとした。
「いえ、空手漫画が好きなだけですが、何とかシナリオは起こせると思います」
 プランナーの星野が、真剣な眼差しを翔に向けてきた。
「それ、いけそうだね。三幕構成のシナリオを書いてもらえませんか。プロット分解は私が手伝います」
 鬼原が、幾分穏やかな表情で補足した。
「時間が限られている。先ずはシナリオだ。斬新な状況設定、手に汗握る葛藤、そして魂を揺さぶる解決、セオリー通りでいい」
 総川が、釈迦に説法ですがと、前置きしながら口を開いた。
「ゲームシナリオは難しい言葉を使っちゃだめ。ユーザーがサクサクと進んで行けるリズムとテンポが命。自分の書いた文章をユーザーがどうとるか、ここが重要。小説は読者が三者三様の取り方をしてもらってもいいという了解があるけど、ゲームは詳細な設計図どおりに進まないと、必ずユーザーに不満が残る」
 総川の話は、小説家出身の翔の弱点を的確に突いていた。
 鬼原が腕を組み、納得のうなずきを見せている。
「みな全力をつくしてくれ。スクリプト打ちは総川さんがカバーしてやってくれないか」
 スクリプト打ちとは、小説を映画化するには別に脚本を起こす必要があるが、同じようにゲームとして映像化する場合、シナリオをゲームに組み込むプログラムが必要となる。
 会議室は、これまで初めて見る緊張感と、生き残りをかけた熱気で渦巻いていた。
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