第2話

文字数 9,774文字

[二人の対話]

ー首相官邸ー

朝方から首相官邸の執務室では日本国総理大臣、矢部新三(やべしんぞう)総理が秘書官の報告を聞いて頭をかかえていた。
「ミサイルが歩いてきた、とはどういう意味かね?飛んできた、の間違いだろう?寝ぼけているのか」
早朝にいきなり警視庁と財務省から似たような報告があがってきたのだ。
財務省からは新東京港税関職員が核兵器上陸の可能性を言い、警視庁からはミサイルが移動中だと言う?正直よくわからない、核ミサイルを積んだトラックか何かが都内に入ったということだろうか?首相は次第に機嫌が悪くなりはじめた。
「いったいわが国の検査体制はどうなっているのだ、核の水際阻止は厳にしろ、と歴代内閣の昔から命じているはずだが・・・」
「申しわけありません、休日でおよそありえない場所をつかれたようです」
秘書官は謝りながら言う。
「いずれにしろ核物質か核兵器が都内に入ったのは確かなんだな?」と総理
「まだその確率が高い、ということです」
「で、いったいどこの国のしわざなんだ、あるいは国内の組織団体か?」
「不明です」
「対応は?」
「とりあえず警視庁が緊急対策本部を立ち上げました・・・」
「警視庁?防衛省ではないのか」
「都内で軍隊が大勢で動きまわるより、警察が警備態勢を引くほうが都民はパニックを起こしにくい、との判断からです。さらに都内各所にある監視・防犯カメラの映像は警視庁の管轄で全て集まってきます、警察が動いたほうがスムーズだからでしょう」
「では、警視庁にはくわしく情報収集をして至急報告せよ、と命じろ」
「はい」秘書官は一礼をすると急いで執務室から出て行った。

「たいへんな事になりましたね・・・」
少し離れた所に立っていた若い男性議員がつぶやく。
首相はその声を聞いて落ち着きをとりもどした、そもそもこの議員と総理が話していたときに秘書官がとびこんで報告にきたのである。
その議員とは、党では青年局長をつとめ、国民の人気も高く、政府内でも頭角を表してきた
大泉新次郎(おおいずみしんじろう)議員だった。
最近、災害対策・復興庁政務官を任命された若きホープでもある。
政治家一族の出身だが政治の才能はなかなかのもので、さらにイケメンで女性ファン・・・いや支持者も多い、男性支持者もやはり多いが、ごく一部では「リア充めえ」「爆発しろ」などと心もとないアンチファンも存在する。

「総理、すぐに災害・復興大臣を呼んできましょうか?」と大泉政務官は言った
「いやそれにはおよばない、大臣たちの緊急招集はすでに官房長官に命じてある、だからこっちは今のうちにできる奥の手を用意しておこう・・・」
「奥の手、とはなんですか?防衛省の即応集団部隊のことですか?」
大泉政務官は不思議そうな顔で聞く
「キミも内閣に入り災害対策政務官になったことだし、そろそろ知っておいても良いだろう、私はこれから世界統合政府準備機構〔World Government Preparation Organaization〕 略称―WGPOへ連絡を入れるつもりだ」
「世界政府の準備機構?そんなところに連絡してどうするのですか」
政務官はますます不思議そうな顔をしている。
「核テロへの対応だよ、もし核兵器だったなら、東京は核ミサイル攻撃を受けているのと同じことだろう、世界的大事件じゃないか、万一のときを考えて世界機構に相談や救援を求めるのは自然なことじゃないかね?」
「それはそうですが・・あの、基本的なことを質問するかとお思いでしょうがWGPOなんて役にたつのですか、機能しているという話を聞いたことはないのですが?恥ずかしながら、自分は現在のWGPO本部がある場所さえ知らないのです」
「ふーむ」矢部総理は少しニヤけてうなった。
「確かニューヨークの国連ビル跡地に間借りしているとかどうとか?昔の話です、立ち消えになったという噂でしたが・・・」
「ははは・・・それで良いのだよ、そういう風にあいまいにボカされているのだから、そういう知識で正しいんだ」
「?」
「しかし、それは一般に流布(るふ)されている意図的な知識なんだ」
「一般?」
「どうやらはじめから説明したほうがよさそうだな、歴史から・・・」
そう言うと、総理は政務官にとつとつと語り出した。それは一部の政治家でしか知らないことであった。この後、大泉政務官は驚きの事実を知らされることとなる。


~桜田門、警視庁~

キキーッ、バタン、バタン、がしゃがしゃん・・・
(あわただ)しく止まった水素自動車パトカーから降りた、大勢の警官と数台の警察ロボットたち・・その中で目立つワゴン車タイプの警察車両の後ろドアが開かれ、ヌオォーと出てきたのは中年のいかつい大男である。
でっぷりとした身体にLLサイズのスーツ、しかし身だしなみはキチンとしている、眼光は鋭く、にらまれただけで、たいていの人は萎縮してしまうだろう。
ザッザッザッ・・と階段と廊下を急ぎ足で歩く大きな男、身長も高いが横も広い、威厳もありそうだ。彼こそノンキャリアで現場からたたき上げ、警部までのしあがってきた男、それが吉田警部である。
大勢の取り巻きが後からぞろぞろとついてくるが別にはべらせているわけではない、数々の事件解決の功績から自然とこういう形になってしまった、ひとえに警部の人徳である。
『都市型テロ対策本部、別室』
と掲げられたシンプルな部屋に通された警部は周りを見回すと開口一番に言った。
「対策本部長どのはどこにおる?」
ギロリと傍らの補佐官をにらむ警部、それだけで補佐官は震え上がった。
「は、はい、午前中から首相官邸にこもりきりでして、現場での指揮は吉田警部に一任すると・・・」
「ふん、あいかわらず現場には出てこんのか」
つまらなさそうに言う警部
「本部長は官邸からの指示に徹する、とおっしゃっていました」
要するに政府からの伝言役だけをすると言っているのだ、
「まったく情けない、いつから警察官は政府の伝言板に成り下がったんだ?」
「そういうわけでは・・・」
「事件は官邸で起こっているわけではないのだぞ、現場で起こっているのだ!
最も現場に近い場所に指揮官が来んでどうする?」
「はあ、ごもっともですが、本部長といいますか官邸からはもう一つ伝言で・・もしものときはすごい助っ人を送るから大丈夫だろう、とも言われておりまして」
それを聞いてますます不機嫌になる吉田警部。
「何だと!まかせると言いながらワシでは能力不足だとでも言いたいのか?矛盾してないかね」
「いえ、それは政府の上のほうから聞いた話だと・・」
「だったら自分でここにきて指揮すれば良いではないか、だいたいこんな別室につれてきてどうするつもりだ?本部長に面通しするのかと思ったからついてきたが・・」
「はあ・・」困り果てる補佐官
「本部長もそうだが、最近、国の上層部のていたらくはどうなっているんだ?都市型テロの可能性が大なのに、なんだかやる気がなさそうにみえる」
「そんなことは・・」弱弱しく答える補佐官
「もういい、対策室の中枢へ案内しろ!」
吉田警部はそう言うと、部屋をドカドカと出て行ってしまった。


~首相官邸~

「そもそものはじまりは今世紀初頭のオバーマ亜米利加大統領の時代まで遡る(以下アメリカ)」矢部総理はそう言って昔を思い出す遠い目をし、大泉政務官に語り始めた。
「あのころはリーマンショックをはじめとする経済の不況、失業率、軍事費の維持、バブル、世界各地での紛争鎮圧・・等々で超大国アメリカといえども、その力はだんだんと弱くなってゆき、アメリカは国内問題にばかり向かう政策を採るようになった。さらにオバーマ大統領は“アメリカは世界の警察ではない”と宣言してしまったことだ。
今まで良い悪いは別にしても、何とか世界の均衡(きんこう)を保つ警察機構として機能していた国家が、それをやめてしまったのだから世界は混乱した。その後のトラップ大統領時代にコロワウイルスによる世界的パンデミックと経済ショックがダメ押しだった。
グローバル化に向かうと思われた世界は国内で手一杯で、自国ファーストとなり、グローバル化どころか内政ブロック化の方へ舵を切った・・・これは何かに似ていないかね?
まるで第一次世界大戦後、世界恐慌で自国のためと、独裁・ブロック化に進んだあの頃、はたして民族紛争や暴動などが表面化し、世界はまた同じ轍を踏むかと思われた。
つまり戦争や治安維持を超大国が中央集約的に力で管理する時代ではなくなってしまった、ということだ」
「それでどうしたのですか?」
「各国は集団的自衛権を拡大して世界的規模で自衛・および治安維持をしていこう、という流れになった」
「世界的に、そんなに簡単に決められるのですか?」
「集団的自衛権は国連憲章第51条に明記されている、1945年からな・・・」
「なんですって!そんな昔から?」
「日本は遅すぎたんだよ。まあカビのはえたような憲章だったがね、それでも当時の国連で認められていたことだし、使えそうでもあったから各国はそれをわれ先に求めた。
そうして世界は複数の自衛権を行使する大きな地域ブロックと化したのだ」
政務官「でも、それは・・・」
首相「いっけん良さそうに思えるがね?これらの危険性は、もしどこかの小国が戦争を起こした場合、集団的自衛だから他の国々がイヤでも戦争に引っ張られる、ということだ」
「戦争の拡大・・ですね」
「そう、ささいな紛争であっても世界大戦に拡大するかもしれない危険・・・そしてそれは起きてしまった」
「第三次世界大戦・・」
「そう、はじめは第三諸国の小競り合いだった・・が、集団的自衛によって瞬く間に戦闘は拡大し、国連の常任理事国までもが戦闘に参加せざるを得ない状況にまで追い込まれてしまった。
これを回避するために常任理事国は解散、他の各国も脱退が相次ぎ、国際連合はその機能を停止したのだ。国連はもうボロボロになってしまった・・それでもまだ戦争は終わらず、中小規模の戦争は世界中で続いていたのだよ、始まってしまった戦争はなかなか終わらない、アメリカも手が回らず、いや何もできなかった、というのが正しいか?」
「・・・・」無言で聞いている大泉政務官
「焦ったG7およびシックスアイズ諸国は国連に代わり緊急会談を開きどうしようかと悩んだ、日本ももちろん入っている、とにかく戦争の拡大阻止が喫緊(きっきん)の課題だった、まだ世界に核ミサイルの雨は降ってはいない、まだ間に合うと・・・」
「どうしたんですか?」
「そもそも各地域が自衛権をもっているから利害が対立するのだ、これをもっている限り、公正な判断は下せない、だから第三者機関のようなものをつくってそれに任せよう、というのが結論だった」
「その第三者機関のようなものが・・」
「ああ『世界統合政府準備機構』の前身となったものだ。初めは『国際独立自衛権機関』と呼ばれた」
「そこに『自衛権を預ける』と、G7とシックスアイズが署名し緊急に設立された。
国際独立自衛権機関は、ほぼ廃墟と化した国連ビルの一角を借り、世界中の情報と実力者をかき集め、各国の紛争、暴動鎮圧に向かわせたのだ、武器使用もG7は許可した。そのさい『実力者』と呼ばれた者は、国籍、民族、人種、階層、人間、であるかどうかについては問われない、文字通り稀有(けう)な者を選抜して戦闘回避に向かわせたのだ・・・」
「ち、ちょっとまってください、人間であるかどうか?とはどういう意味です」
政務官は驚き聞き返した
「私もよくは知らない、警察犬とか軍用犬とかの意味だろう?当時出はじめていたロボットも何か使えるなら、と許可されたから」
「そ、そうなんですか?(汗)」
「そのかいあって大規模なミサイル核戦争はなんとか回避された、しかし通常規模の紛争はまだまだ続いていたので国際独立自衛権機関はそのまま存続することが確定してしまった」
「以来47年間、名前も変え、規模も改変しながら世界中の紛争解決や治安維持を昔のアメリカの代わりにやっている、というわけだ。国際機関なので国連の代わりでもある、場所も変えたようだし、今も影ながら世界をささえる縁の下の力持ち、というわけだ」

大泉政務官は少し考えてから言った。
「質問ですが(影ながら)なのはどうしてですか?第三次大戦以降47年もたつのでしょう?平和を守る治安維持機構なら世界に堂々と宣言し、世界中から代表者を募るべきじゃないのですか?国連の代わりというならなおさら・・・」
「それだと国連の二の舞になる、もともと各国の利害でもめないように第三者機関として創ったのだから国の代表は不要だろう、それに人材が知れるとワイロや誘拐など、各国の関連組織に狙われる恐れもある、そのため徹底的に秘密主義をとっている。日本はG7主要国のひとつではあるが、私もWGPOの内情はよく知らない」
「そ、そんな・・・」
「知っていることは事務総長や各国代表のような者はおらず、各ブロックを受け持つ『管理者』と呼ばれる者の下に下部組織、秘密実行組織があるということと・・・
その秘密実行組織をGFP (Global Federal Police)『世界連邦警察』と呼ぶことぐらいだ」
「警察なんですか?」
「われわれが想像している『警察』とは違うがね」
「その警察は公式なものなのですか?つまり逮捕権とか、逮捕状はどこが発行して…?」
「そうだな、まだ公式なものではない。しかし準備機構が使っているのだから公式な組織である」
「えっ?わけがわかりません」
「だからこそ秘密なのだ、世界でこの事をおおまかだが知っているのはG7(先進国)の首脳だけだったが、設立して47年間、人の口に戸は立てられないのでネットや噂ではすでに出回りつつある。特に各国治安組織、警察関係者の上のほうは知っているだろう、現実にGFPの職員を見ているわけだからな、しかし現場でいくら活躍しても、どの政府も活躍を認めたことはないのだ。政府が認めないのだから公式ではない、ということになる
「認めないのにどうやって治安を守るのです?」
「その時だけ指揮権を移譲して既存の組織を使えば良い、警察だったら地元警察、警視庁、軍隊だったら国家、これらを横につなげ縦割り行政や範囲を超えて縦横無尽に駆使すればどんなもめ事だって解決できるだろう、日本の警察など縦割りすぎだからね。
国はWGPOに問題を委託する、その後はWGPOの仕事だから国は知らないし認めない!だからずっと非公式で秘密のままなんだ」
「軍隊って?それは国家の主権放棄じゃないですか!」
慌てる大泉政務官
「G7が合意した革新的な世界システムだよ、なぜ合意に至ったかは私も政界に入る前でわからないがね、それにこのシステムは国際的大事件か危機のときぐらいにしか発動せんよ。初期は戦争危機ぐらいしか発動しなかったが、よく考えたら自衛権は経済もふくむ、よってIMFも統合、さらにはWFP、IOC、FIFA・・時代が下るにつれて増えていった、だからもう世界政府と呼ぶしかないだろう」
(最後のほうは関係ないと思うけど・・・)政務官はひとりごちた
「これが集団的自衛権の発展・進化した形なんだ、そしてその参加国が多数広まったのが現在であり、その各国自衛権を統括しているのが世界統合政府準備機構なのだ」
「ありえません、信じられません」
「ありえるし、信じられるさ、実績が物語っている。現に大戦後の47年間、世界中で戦争と呼ばれるものは起こってはいない。唯一の例外が第七次中東戦争だと言う者もいるが、あれは「紛争」とも呼べない戦争未遂事件で終わったじゃないか「戦争」なんてマスコミが使ってるだけだ。当事国は二国とも領土も増えていないし、賠償もない、国境線もなんら変わってはいない」
「それが・・・WGPOの真相なんですか?」
総理の長い話を聞いて、大泉政務官は驚きと疲労顔でつぶやいた、災害対策の政務官として全然知らなかった、いや、にわかには信じられない話ばかりだった。

「そうだ、だからその機構にこれから連絡をしようというのだ」
矢部総理は切り替えて、少し元気な口調で言った。
「いったいぜんたいどうやって?」政務官はまだ信じられない顔である。
「ここでできるよ、じゃあやってみようか・・」
矢部総理は簡単に言うと、おどけるように執務室の机の引き出しから銀色の鞄のような金属ケースを取り出した。政務官は
(あれはブリーフケース型テレビ電話か?開くとノートパソコンのように上半分が画面になっているやつだ、でも外側は昔のアメリカ大統領が持ち歩いていた、核ミサイルの発射命令カバンみたいだ)とも思った。
「そこで見ていたまえ、WGPOへの連絡は日本では首相と官房長官しかできないのだ」
言いながら総理はいつも持ち歩いているらしき小さなカギを金属ケースのカギ穴に差し込んだ、カチャリ、とカギがはずれケースが開く・・・
金属ケースの中はやはり上半分が黒い画面で下半分の右側にはカギ穴と数字のキーと手のひら形をしたタグ判別機、左側上には双眼鏡ののぞき穴のようなものと、その下は黒い平面パットだった。
「大きな画面で見よう」
そう言いながら総理は執務机の正面にある壁を開いた。
80インチはある大きな液晶画面が現れた、この時代の首相執務室には大画面の壁面テレビがあり、各国の首脳や政治家たちとオンラインで電子的会談もできるのである。総理はケースの数字キーの上にあるカギ穴に先ほどのカギを入れ回した、
電源が入り画面が明るくなってくる、同じく壁面の80インチ画面も明るくなってくる、同時リンクしているようだ。
総理は数字キーに、ある番号を打ち込むと手のひら形のタグ判別機に手を置き双眼鏡のようなのぞき穴に顔をあてる、ノイズの80インチ画面に何かが映ってきた、やはりテレビ電話だったのだ。

それは、紋章のような背景のうえに「WGPO」の文字がある画面、威厳はありそうだ
RRRRR・・・執務室のスピーカーともリンクしているらしく呼び出し音が響く
「…Yes, World Government Preparation Organaization」
ちょっと間をおき英語で女性の声が聞こえた、案内オペレーターだろうか?
でも顔は出てこない
「こちらは日本の総理大臣です」とひとこと総理が言った
「・・・回線確認しました、ご用件は?」
オペレーターの言葉が日本語になった、どうなっているのだろう?
「国家非常事態―A級案件」
それでも案内らしき女性の声は落ち着いたもので
「少々お待ちください」と言っただけである。
ほんの一呼吸ののち、画面が変わり紋章は消え大きなブロックノイズの状態になった
さきほどの女性の声がかぶる
「第一象限・極東地区筆頭管理官がお出になられます、なお、名前はお教えできません」
(一国の首相が連絡しているのに管理官が対応かよ、事務総長とかじゃなく?)
大泉政務官は少しムッとした、日本をなめてるのか?とも思った。だが、いち政務官のそんな考えは初めて見る光景に忘れさられた。
世界政府への連絡なんてめったに立ち会えることじゃない、だいたい準備機構の電話番号も知らないし、ましてや機構の人間なんて見たこともない、本当にあるのかどうかさえ疑わしかったのだ。

ブロックノイズは次第に小さくなり集まって人の形を形成する、そして綺麗な8K映像になった、そこには上半身だけ映った年配の東洋人らしき男性がいた、背景はうすいグレー一色だった、人物は白髪で顔には偏向型のゴーグルみたいな左右つながりのメガネをかけているので表情はわからない、服装はスーツではなく民族衣装でもないので国籍もわからない、銀色のつなぎみたいな、軍服のような、首まで包む一体型のような服を着ている、平たく言えば未来的というよりオールドフューチャー的だと思った、そんなことを考えていると総理が喋った。
「はじめまして、日本国総理大臣、矢部新三(やべしんぞう)です」
白髪の男は静かに言った
「はじめまして、名のれない無礼をゆるしてほしい、矢部総理どの、規則でね」
と流暢な日本語で答えた、だから日本人じゃないのかと政務官は思った。
「わかっております」総理は落ち着いて答える。
「私のことは《03(ゼロスリー)管理者》と、もしくはただ《管理官》と呼んでいただいてもけっこうだ。03というのは序列ではない、単なる人数番号だから気にしないように、何番まであるのかという質問には答えられないけどね」
深みのある渋声だった、どこかの政治家じゃないか、とも思った。
「では管理官どの、現在、日本の東京は核テロリズムの危機に瀕しております、正確には
その可能性がかなり高い状況に陥っております、日本の首相としてこの危機的状況を看過することはできません、よって日本国は世界連邦憲章第9条の執行を依頼いたします」
少しの間を置き・・・管理官は答えた
「了解、日本国首相の声紋、指紋、光彩パターンを確認、管理者権限により、この案件は認可された(記録―消去不可設定)」
「ありがとうございます」
「では署名を・・・」契約書のような画面に変わる
「はい・・・」
黒い平面パッドに指で署名する矢部総理、書き終えると画面は元に戻った。
そして総理は言った
「終わりました、ではこれで・・」
「そ、それだけなんですか?」
思わず割り込みしゃべってしまった大泉政務官
「す、すいません」
慌てて謝ったが手遅れだった、総理と画面の管理官はこちらを見ている
「わたしは最終的な承認を得るために連絡しただけさ」と総理
「そう、状況はもうほとんどわかっているのだよ、大泉政務官」と画面の管理官が言った
「えっ、なぜ?」政務官は驚きと怪訝(けげん)そうな顔で言う
「なぜキミの名がわかるのか?疑問に思うだろう、それはわれわれが世界中の現政府閣僚および関係者を皆知っているからさ、最新のをね」と答える管理官
(おそらくあのゴーグルのような偏向メガネの内側に詳しい内容が出ていたのだろう、メガネ型ディスプレイと同じか?)
「われわれだって政府なんだ、目立たないがちゃんと存在しているのだよ」
管理官は諭すように言った。
「彼はまだ若いので表情が出てしまうのですよ」
「私も昔はポーカーフェイスが苦手でね、でも経験をつめば貫禄だって出てくるものさ・・・」
見えないけれど03管理官の顔は少し笑ったように思えた。
「大泉政務官、総理がこの会見にキミを同席させたことを忘れないでいてほしい」
「えっ、あ、はい・・」わけがわからずも答えてしまう政務官
「ではこれで、後はGFP捜査官がうまくやってくれるだろう、ごきげんよう日本の総理どの」
「ごきげんよう管理官どの」
言い終わると同時に管理官の映像はモザイクになった、モザイクはだんだん大きくなり黒い四角が大きくなったと思ったら消えた、10分も経ってはいない、わずかな時間だった。

ハアハアと動悸が高まる政務官「そんな・・これが・・・」
「WGPOなんだ・・」矢部首相も緊張が解けたように、ふーと息を吐く。
「あのプレッシャーは何ですか?あの管理官という人物、全てをわかっているような、見透かされているような・・・メガネで顔は見えないはずなのに、もう皆知っているような口ぶりで、何ともいえない不気味さを感じます」
「そうだな、ひょっとしたら当事者のわれわれよりも知っているのかもしれないな、向こうから言うことはないけれど」と矢部総理も認めた
「それにしても・・本当だったんですね、世界政府って・・看板だけかと思っていました」
大泉政務官はそう言って汗をぬぐった、冷や汗だった。

                         ~つづく~
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登場人物紹介


大和撫子(おおわなでしこ)
17歳 出身地-京都

この物語の主人公。この春、瑞穂学園の編入試験にパスし京都から東京に出てきた美少女

親せきの大おじの家に下宿させてもらっている。実家は旧家で格式ばった厳しい家だったらしく、その反動から東京ではハメをはずしっぱなしである。性格は明るく活動的(言い変えればジャジャ馬)思いこんだら即実行するタイプ




ムホーマツ(WE45_HO-MM2)

人力車牽引ロボット〔45年製〕万能タイプ、ハンダオートマトン株式会社マルチタイプモデル2という意味

撫子が所有する個人用人力車の車夫である人型ロボット。ロボットが引くので“ロボ力車”とも呼ばれる。地上でしか使えないが、移動には便利なので重宝する。最高速度は時速30km(それ以上出ないようプログラムされているはずだが、撫子はリミッターをはずしている)アルコール燃料で電動部は燃料電池&太陽光で補う、俥の部分と分離できるので万能タイプといわれる



JJブラザーズ

ジャックとジャンクと呼ばれる二人組みの犯罪者コンビ国際指名手配(わるいやつ)リストDクラス、常にコンビで行動、黒服、黒帽子サングラスを着用、通称ブラックメン、主に金融犯罪を得意とする。ジャックの方は軍隊経験者



鈴木刑事

フツーの警視庁のフツーの刑事、中肉中背、視力体力→平均、身体能力→標準、顔→フツー(自称ややイケメン)苗字も一番多い「スズキ」、可もなく不可もなく・・(もうやめてくれー!本人)



吉田警部

警視庁でノンキャリで叩き上げできた警部、現場主義&実力主義者だけど、身だしなみには厳しいタイプ。身体も大きい、こわいけど部下の信頼は厚い、でも警察上層部からは煙たがられている、まあどんな組織でもそういうものです



矢部総理大臣

歴代長期政権の一つである日本の首相(誰かに似てるかもしれないけど気のせいです)問題はあったけど、雇用と株価を上げたのは紛れもない事実。アイコンがあってよかった!そもそも問題のない首相なんて今までいたっけ?だからこれで“いいんです”(川平ふう)



大泉議員

衆議院議員、将来有望な若手のホープ、のちに環境大臣となる、俳優の兄弟がいる(誰かに似てるかもしれないけど別人ですよ)干されたり落ち目の時期はあったけど、政治家なら皆な通る道、数十年後は世界大統領になれるかもしれないし、なれないかもしれない。


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