第4話

文字数 5,003文字

[捜査官、来たる]

《前回までのお話し-講談ふう》
『突如現レ出マシタルノハ東京湾イズコヨリ上陸シタル身元不明ノロボツト一体(べんべん-張り扇で叩く)
驚クベキコトニ、ナカニハ爆弾ガシカケラレテイルカノウセイガアリトワカリ(そうろう)、ソコヘコレマタ突如アラワレタルハ見目麗シキ女学生(べん)捜査官ト名ノリマスガアニハランヤ、
鬼ノヨウナ警部モソロイ、対策本部ハテンヤワンヤデゴザイマス』(べんべん)

ー対策本部ー

クラン・・カラン・・クラン・・カラカラ・・・

中身がからっぽのような音をたてながら、身の丈3メートル近いロボットはゆっくりと歩を進めて本郷通りに入った。丸みを帯びた胴体は、どこかユーモラスな感じである。
だが警視庁『都市型テロ中央対策本部』は慌しさの真っ只中だった・・・。
「えっ?国会議事堂をめざしているのじゃないのか?」
自称、ややイケメンの鈴木刑事がモニターに映るロボットを見ながらつぶやく、ここ対策本部には、都内各所の監視カメラの映像がつぎつぎと送られてきて、リアルタイムで動きがわかるのだ。

「おい、公安からの情報は本当なんだろうな?」
各部の報告を聞いた後、年配でかっぷくのいい吉田警部はどなるように言った。
情報担当者の栗元は、パソコンを操作しながら答える。
「間違いありません!高純度プルトニウム30kgが、一ヶ月前フランスで強奪されています。日本の原発から出たもので、再処理施設への移送中に襲われました」
「それで・・ロボットからプルトニウムが検出されたのか?」
「いいえプルトニウムは検出されていません、されたら大変ですが・・・・そうじゃなくて α(アルファ)線が検出されたんです」
「えーっと、それは?」
警部はよくわかってはいないようだった。
「α線が検出されたということは、α崩壊しているってことです」
「・・それで、そのアルファくんが崩壊するとどうなるのだ?」
「質量数が減ります」
「それで・・・」
「言い方を変えれば・・」
「うん・・・」
「核分裂反応によって減ります」
「つまり、どういうことだ?」
「残念ながら、あのロボットの中には核分裂の爆弾がある可能性が高い、ということです」
「!!(声にならない声)」
吉田警部は、その巨体を小刻みにゆらした
「そ・・それは、げげげ・・原子爆弾とと・・言うヤツかか??」
警部は震える口でろれつが回らない
「略して原爆って言います」
「知っとるわーい、そんなこと!」
今度は叫んだ、大きな地声で、
しかし栗元は冷静に、他人事のように言った
「状況からみてプルトニウム型の原爆ですね、たぶんそう、いや間違いなくそう・・」
「アホかおまえは、原爆が都内をうろついてるのに落ち着いていられるか!」
「原爆がうろつく、って変な表現じゃありませんか?」
鈴木刑事は妙なところに突っこんだ、これで平静を装っているつもりだろうか?
「現にうろついているだろうが、他に言い方あるか!」
口から泡をとばして叫ぶ警部
「なんでミサイルじゃないのですかね?ICBMでもトマホークでも、そっちのほうが速いのに?」
そう言ったのは、鑑識から来ていた原田である。
「確実に内陸まで進攻させるためか?または単なる愉快犯か・・・?」
栗元は危機感があるのかないのか、わからない言い方だ。

たちまちテロ対策室は蜂の巣をつついたようになった。初めて知った伝達の人々は一斉に出て行く。
吉田警部「通常の爆弾テロとはレベルが違う、官邸へは伝えたんだろうな?」
栗元「税関からの報告後に、緊急機密電話で伝えましたけど、具体的な返事はまだきていません、とりあえず情報収集に努めよ!というだけで、いまやっているところです、警部はさきほど着いたばかりでしょう」
原田「状況から見て、原爆の可能性が高い?というだけで、まだ証拠はとれてませんから。
せめてロボットの内部をMRIかミュー粒子線で調べられれば・・・」
栗元「いまわかっていることは・・」
栗元はひとりごとのように喋りつづける。
「原子力の先進国はフランスと日本ですが、再処理に関して先んじているのは世界でもフランスだけです、もともと日本のプルトニウムなのでそっちで何とかして、オヴァ~(さよなら)だそうです」
「強奪されたのはフランス国内でだろう?」
警部は不満そうに言う。
栗元「それがその~、現場の怠慢で受領のサインはまだしてない、忘れてた(てへぺろ)とかで、書類的にはまだ日本の管轄だそうで・・・」
「ぐぬぬ~国際的に日本からの核を日本に返しただけ、と知らぬふりを決め込むつもりだな」
吉田警部は顔を真っ赤にしている
「まあトラブルを背負い込みたくないからでしょうね」
鈴木刑事はまぜかえす。
「それにしても公安といい外務省といい、重要な情報を隠しおって」
警部は毒づいた。
「最近はフランスも日本も管理体制の甘さは目にあまるものがあります」
栗元もフツウなことのように言う。
「くっそうフレンチトーストめ、マジノ線を粉砕してやるー!」バンバンッ、
とカッカした吉田警部は机を厚い書類で叩いた。

「でもねー、フランスパンは意外といけるものよ、カタいのが問題だけど・・」
いきなり若い女性の声が聞こえた
「おわっ!な、なんだ小娘、まだいたのか?」
見ると横の席には、さっきの見た目女学生が座って、左手の爪をやすりで手入れをして
いる、ハイカラ姿で・・・たしか追い出したはずだが?
「おいどうなっているんだ?部外者なら立ち入り禁止だと言っただろう」
警部は周りに向かって叱責する
「あら、だって婦女子は身だしなみが大切でしょう、お仕事の前には・・」
「仕事だと?着替えてもおらんじゃないか、ここは限られた者しか入れんはずだが?」
女学生は手入れを終えて、フーフー息をふきかけている。

レトロブームとはいえ少女はたしかに女学生に見えた。着物に海老茶の袴、長い黒髪とブーツを履いている和風の美少女、年齢は16、17くらい、
高校生なのだろうが今の流行(はやり)言葉でいえば「女学生」(JG)なのである。
場違いなのは一目瞭然だが。

「わたしは協力するために、ここへ来たのよ」
女学生は思いがけないことを言う。
また追い出そうとする吉田警部に情報担当の栗元が耳打ちした
「警部!この少女は通行認可タグを持っています、入ったときの記録がありました」
「なにっ!われわれと同じようにか?」
「それが・・ちょっと似ているようで違うようで・・・」
「何を言っとるんだおまえは?」
そして女学生はポツリと決定的なことを言った
「わたしはGFPの捜査官です」

「ジ、GFP?・・・だとー!」
一瞬間をおき、全員が驚愕した。

『世界連邦警察』〔GFP〕(Global Federal Police)は
世界政府準備機構、略称ーWGPO直属の執行組織である。GFPは各国の警察の上に位置し、どんな場所にも入れる権限を持つ、政治家の逮捕権もあり、大統領さえ例外は認められない。もし政治家が逮捕されたら、WGPOより副首相や副大統領の任命指令が出され、その者は残りの任期を勤めなければならない。たいていは副大統領か副首相だが、たまに一介の議員が選ばれるときもある、なぜかWGPOは有能な政治家を知っているのだ。当事国はそれに従わなければならない、そういう強制任命権も持っている。
この時代、国家という力は衰退し、世界は統一化へと進んでいた、今はその過度期なのである。
警察官が警察手帳を見せて、いろいろな場所に入れるように、捜索中は鉄道やタクシーにフリーで乗れるように、現代では警官や査察官は「認証手帳タグ」を身体の中に埋め込んであった、これで捜査中は駅でもバスでも手をかざすだけでICカードと同じように通れた。その人自身の生体電場を使うので偽造は不可能、コピーも不可能、絶対に正確な身分証ともいえる電子的な警察手帳、それが「認可タグ」である、「認識票」と呼ぶこともある。
ただGFPのことは一般人にはあまり浸透はしていない、政府が発表しないからである。
世間の認知度はとても低いのである、政府が公式見解しないから、マスコミがいくら取材しても、それはキワモノ記事であり噂であり、年末のUFO特番みたいに思われている。
結局そこに落ち着いたようで、街中でインタビューをすれば
「ああ聞いたことぐらいはあるけど、キミ信じてんの?ふーん・・・」
と特別天然記念物を見る目で返されるような話である。

「ええと、それが本当ならお嬢さん、こちらのタグ判別端末に触っていただけますか?」
自称イケメンの鈴木刑事がていねいに言った。入り口で、カラ揚げ弁当食べていた女学生みたいな子が?・・信じられないという顔つきだったけど
「ええ、よろしくてよ」
そういって女学生は鈴木刑事の傍らに立ち、黒い平面パッドのような判別端末に手をかざした・・・
端末上部のモニターには、紋章のような威厳のある背景の上に、ゴールドの『GFP』の文字、その下に小さくB/Cの文字が現れた、本名や特徴を書いた項目は出なかった。
偽造不可能な認可タグが表示された以上、ニセ者ではありえない。
「こ、こんな画面はじめて見た・・GFPの捜査官、本当にいたんだ!」
原田は興奮している。
「ゴールドの認識票‼首相官邸からホワイトハウスまでフリーパスですよ」
栗元が驚いて言う。
「ほんとうか?」
吉田警部はまだ信じられないようだ
「どうりでセキュリティが反応しないわけだ」
と鈴木刑事

この時代、たいていの場所にはICタグによるセキュリティゲートがあったが、GFP捜査官にかかればフツウの自動ドアである。そもそもGFPは、世界的規模の犯罪や事件または戦争、それに類する事象なこと、でなければ動かないはずなのだ。
そしてここにいる面々はGFPについてこの程度のことは知っていた、現場の者は会うわけだから・・・その点は政治家や一般の人たちよりも詳しい。しかしなぜか現場からは誰も政府に報告しないので、政治家はあまりGFPのことは知らないのだ。
それに良いことばかりではなく、捜査官が来た現場はマイナス情報とイヤな噂も知ることになるのである。なぜイヤな噂かと言うと、GFP捜査官が来れば、そこは自動的に最前線となり、戦争中の場合は真っ先に狙われる場所となるからだ。
そもそも捜査官を見た!という国は、たいてい紛争か大事故、他国との緊張が高い状況の国であり、政情不安、テロ、経済破綻寸前、等々がオマケでついてくることが多いのである。ゆえに捜査官は現場では、いらない子、疫病神、貧乏神、大魔神・・・などと揶揄されることもあった。
この室にいる者は、仮にも警視庁テロ対策本部に詰めているのだから、警視庁ではエリートの範疇に入る。多かれ少なかれ、上記のようなことはネットと噂、業界のコネクションで見たり聞いたりしたことがあるものが大勢だったのだ、それゆえに全員に緊張が走る。

つまり「捜査官」が「都市型テロ対策本部」に来た!ということは・・・


判別機から手を下ろすと女学生は前の画面を向いたまま言った、
「皆さん、これは自動歩行オートマトン(ロボット)による核テロリズム事件です。
NBC兵器によるテロ、都市ジャックは国際A級犯罪案件です。
本日、一二五○(ヒトフタゴーマル)時、日本政府からWGPOに救援要請が発せられました、だから対策本部であるここへ、わたくしが来たのです。
現時点より統合指揮権は日本政府からGFPに移譲されます・・・質問は?」

そういわれて皆とまどった、いきなりこちらにふられても、どう答えたらいいのか?
「じ、人員は、キミ一人なのか?」
吉田警部がたどたどしく聞いた。
「はい、そうです」
前をむいたまま答える
「どう見ても女学生にしか見えんがなあ?」
後ろから警部はボツリと言った。

「わたしはGFP極東管区、秋津島(あきつしま)エリア捜査官の一人・・・
コードネームは“青い猫”(ブルーキャット)!」

そう言ってふりむいた女学生は、左目だけが青かった。


                           ~つづく~
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登場人物紹介


大和撫子(おおわなでしこ)
17歳 出身地-京都

この物語の主人公。この春、瑞穂学園の編入試験にパスし京都から東京に出てきた美少女

親せきの大おじの家に下宿させてもらっている。実家は旧家で格式ばった厳しい家だったらしく、その反動から東京ではハメをはずしっぱなしである。性格は明るく活動的(言い変えればジャジャ馬)思いこんだら即実行するタイプ




ムホーマツ(WE45_HO-MM2)

人力車牽引ロボット〔45年製〕万能タイプ、ハンダオートマトン株式会社マルチタイプモデル2という意味

撫子が所有する個人用人力車の車夫である人型ロボット。ロボットが引くので“ロボ力車”とも呼ばれる。地上でしか使えないが、移動には便利なので重宝する。最高速度は時速30km(それ以上出ないようプログラムされているはずだが、撫子はリミッターをはずしている)アルコール燃料で電動部は燃料電池&太陽光で補う、俥の部分と分離できるので万能タイプといわれる



JJブラザーズ

ジャックとジャンクと呼ばれる二人組みの犯罪者コンビ国際指名手配(わるいやつ)リストDクラス、常にコンビで行動、黒服、黒帽子サングラスを着用、通称ブラックメン、主に金融犯罪を得意とする。ジャックの方は軍隊経験者



鈴木刑事

フツーの警視庁のフツーの刑事、中肉中背、視力体力→平均、身体能力→標準、顔→フツー(自称ややイケメン)苗字も一番多い「スズキ」、可もなく不可もなく・・(もうやめてくれー!本人)



吉田警部

警視庁でノンキャリで叩き上げできた警部、現場主義&実力主義者だけど、身だしなみには厳しいタイプ。身体も大きい、こわいけど部下の信頼は厚い、でも警察上層部からは煙たがられている、まあどんな組織でもそういうものです



矢部総理大臣

歴代長期政権の一つである日本の首相(誰かに似てるかもしれないけど気のせいです)問題はあったけど、雇用と株価を上げたのは紛れもない事実。アイコンがあってよかった!そもそも問題のない首相なんて今までいたっけ?だからこれで“いいんです”(川平ふう)



大泉議員

衆議院議員、将来有望な若手のホープ、のちに環境大臣となる、俳優の兄弟がいる(誰かに似てるかもしれないけど別人ですよ)干されたり落ち目の時期はあったけど、政治家なら皆な通る道、数十年後は世界大統領になれるかもしれないし、なれないかもしれない。


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