第6話

文字数 4,179文字

[着弾点1]

鈴木「ところで「オートマトン」と「ロボット」ってどう違うんだ?」
鈴木刑事は細かいところが気になるようで、栗元に聞いた。
栗元「オートマトンとは一般的に自動機械のことを指す、だから洗濯機もエアコンも自動ドアもオートマトンではある、ロボットもその中の一つだよ。ロボットは人型や動物型、昆虫型の形をしているってだけさ」
原田「このロボットの形…長崎型原爆(ファットマン)を小さくして手足をつければこんな
ロボットになる感じだ」
鈴木「じゃあファットマンロボと呼ぼう」
栗元「やめろ縁起でもない、長崎からクレームがくるだろ」
鈴木「《よいまとけ》はいいのか?」
原田「年末の歌番組?で歌ったくらいだからいいんだよ!それに通称だし・・」
妙な議論が始まってしまった。
「お前ら、くだらないことを喋ってるんじゃない!ロボットの呼び方は《よいまとけ》で
良い、そのほうが一般的ならな」
吉田警部が混乱を制した。
パンパンと手をたたき、注目を集めるブルー捜査官
ブルー「はーいはい、みなさん、経過はわかりましたしロボットも確定しましたので
進めましょう・・・」
ブルー「じゃあ、次はロボット本体を調べちゃいましょう」
鈴木刑事「えっ、どうやって?」
ブルー「【探査球(スパイボール)】を出そうと思うのですが、ありますか?」
栗元と原田に向かって言うブルー
栗元「ああ、警視庁にも一応あるけど…」
ブルー「2台対角でお願いするわ、ロボットの中を調べるのよ」
栗元「そうか、なるほど!」
原田「2台操作か?まかせろ」
と映像分析の原田、ゲームで鍛えた腕の見せどころと思っているらしい。

注※(球形型無人探査ドローン〔別名スパイボール〕はこれの進化型です↓)
https://www.youtube.com/watch?v=XkAJjjhNisw

直ちに、警視庁の屋上から黒く丸いボールのようなものが放たれた、直径は60センチくらいだろう。操作は対策部室内から原田の机の上でできる。彼はキーボードから二個のゲームパッドのようなものに持ち替え、右手と左手で同時に操作している、なかなか上手いようだ。
栗元「警視庁屋上からならすぐに着くぞ!」

ロボットの周りは、すでに交通管理の新藤によって規制が始まっていた。といってもロボットを止めるわけではなく、進行先に車や障害物がないか確認して取り除くことである。
ロボット自体は、今はムホーマツのような数多くのロボットが都内を歩いているので、珍しい物ではない、見かけ上は土木用車両が移動するのと何ら変わりはない。

原田「《よいまとけ》ロボは、今どこに?」
新藤「交差点の赤信号で止まっています」
栗元「えっ?」
新藤「ロボットは初めから歩道を歩き、赤信号では止まるのです、 周りを「認識」している
証拠です」
栗元「ミサイルのように勝手に進んでゆくわけじゃないんだな?」
ブルー「・・・・・」
新藤「だから強制的に止めたり、コンテナに詰め込んだりしたら何が起こるかわからないのです、今は先導するしかありません。」

スパイボールはたちまち現場上空に着いた、そして降下する
ブルー「ロボットを(はさ)むように配置してください」
原田「了解、半径5mで対じする」
ロボットは別に攻撃する様子もなく、何もないかのように歩き続けている。
ブルー「片方を受けにして、みゅーレントゲン照射、放射線も分かりますか?」
栗元「わかるよ、ただ解析に時間がかかるのが問題で…」
ブルー「解析は亜米利加(あめりか)のYBMスーパー量子コンピューターを使いましょう」
那稀博士「なんじゃと?」
栗元「ええっ?あれって使用料20分で1千万円で、予約が2年先まで埋まってて・・」
ブルー「いいから、今使えるようにしました。量子コンだから一瞬で回答出るから大丈夫よ」
「・・・・」栗元は何も言えなかった(やっぱりGFPハンパない)
鈴木「ロボットからカランカランと鳴る音は何だろう?」
原田「どこか部品が壊れてるんじゃないの?古い型なんだし」
宮川「当時の造りでは、胴体にエンジンと制御コンピューターと燃料が入っているはずですが?」
スパイボールは歩いているロボットの周りを衛星のようにゆっくりと回転し、ミュー(μ)粒子によってロボットの中を3次元的に調べる。ミュー粒子は昔、エジプトのピラミッドの中を調べるのにも使われた実績ある技術だ、その際レントゲンのように粒子を放射する側と受信する側は対象物をはさんで、一直線上にならねばならない。動く物体にスパイボールを使うのは、うってつけだった。

栗元「胴体部分に照射した。まもなく解析結果が来る・・・はずだ」
原田「早いなあ、フツウなら順番待ちで3日くらいかかるんじゃなかったか?」
ピコン…!と栗元のPCに返信を知らせるランプが点くと、数枚のレントゲンのような写真と解析データが現れる。モノクロだったが、鮮やかにロボットの中が写っている、解析は三次元データで、PC上でどんな方向にも動かせる。
栗元「来た!本当に米YBMから来やがった・・」少しふるえる栗元
ブルー「あたりまえでしょ」
原田「まだ10分もたってないのですけれど・・」顔がひきつる原田
だがしかし「こ、これは!」画面を見ていた栗元は青ざめた
栗元「ない・・」
ブルー「?」
原田「えっ、何が?」
栗元「ない・・ないんだ、胴体の中が」
原田「データーがトんだのか?バグか?」
栗元「違う!胴体の中にエンジンも、コンピューターも燃料も・・・何も・・ない!
空っぽなんだ」
原田「そんなバカな、じゃあどうやって動いているんだよ?」
栗元「本当だよ、胴体の中は筒状に仕切られたチャンバーだけで燃料タンクも電子部品のカケラもない、ただのガランドウだ!」
ザワザワザワ・・・対策室は一瞬ざわついた。
栗元「このロボットの丸い腹に原爆はない、腹がからっぽだからジョイント部の音が中で響いて”カランクラン”と鳴っているんだ!」

原田「いや、ありえない」
鈴木「確か税関ゲートでアルファ線が検出されたのだから、どこかに核物質があるはずでしょう?」
栗元「それはそうだけど、この写真と3次元データではそうなっているんだよ」
ブルーは大画面のそのデータを見ながらアゴに指をあて「うーん」と考えている(本当に考えているのかは、わからないが)
「那稀博士いかがでしょう?」同じように見ている博士に原田は聞いた、ここは専門家の意見が必要だろう。
「うーんむむむむ・・・」と唸りながら博士は両手をやや広げるしぐさをして見せた。
ブルー「あっ、そうね!栗元さん照射範囲を拡大してもう一度やってみて」ブルーは何か気づいたようだ。
栗元「そ、そうだな・・」栗元もわかったらしくパソコンにもう一度向かう。
10分後・・BUuuunと再び返ってきたデータには?
栗元「あった!」
そこにはロボット全体の透視図が現れた、がらんどうの胴体の上部、頭の部分には電子機器が映っている。さっそくロボットに詳しい宮川が言った。
宮川「本来なら頭部には、カメラだけが入っている構造ですが・・・」
栗元「改造されているな」
宮川「ハイ、これは小型カメラとレーザージャイロ、こちらはGPSとINSと制御系の機器類ですね、後はほぼバッテリーが占めています」
宮川は拡大した大画面に映る透視図を、指し棒をあてながら説明する。
原田「頭にバッテリーがあるなんて変な作りだなあ?」
ブルー「小さくてシンプルね、体は大きいけど」
栗元「まあ昔だって携帯にPC並みの能力詰め込めたわけだし、地上をゆっくり歩く程度ならこんなものだろう。つけ加えるなら爆弾ってだいたいそういう造り、だったな・・」
皆の背中に悪寒が走った。

鈴木「・・あのーINSって何?」鈴木刑事はよくわからなかったようだ。
原田「慣性航法装置(Inertial Navigation System)GPS以前の技術だよ、衛星に頼らず自分の中にあるジャイロと速度で計算して現在位置を決める。GPSより精度が悪いけど、潜水艦では今も現役だ、水中で電波は通じないからね」
軍事に詳しい原田が説明する。
ブルー「地上ならハッキングはできるのじゃない?」
栗元「・・無理だ、完全なスタンドアローンの独自プログラムで動いているはずだ、GPSはあるが今は機能していない。おそらく上陸した直後、埠頭で一度だけ現在位置を修正したはずだ、そこを基準としてその後もINSで移動している、やはり潜水艦と同じだ、地上ならふつうGPSを使うのだけど」
ブルー「効率悪そうね」
栗元 「まあそうだが、軍事的には良い考えだ、外からジャミングできないからな、ハッキングもできないということだ」
「あれは何かしら?」
ブルーは手足の方にある筒状の部分を指さした、薄い影があり固体のように見える。
ブルー「何か入っているみたいね?」
「あれが・・本体じゃ!」那稀博士がとうとつに言いはなった。
一同「えっ?」
博士「正確には原爆の核物質、その物じゃ」
一同「・・・」
博士「あの筒状のものと腹内の筒は同じ太さじゃろ、おそらく高純度プルトニウムを分割し、手足に分けて配置し、起爆時に腹のチャンバー中心でかち合わせて核分裂爆発させる爆縮炉方式・・長崎型じゃ」
一同「ひええぇぇ…」大体全員の血の気が引く
博士「つまり、あのロボットは原爆の構造その物がロボットの形をしている、ということじゃ、まさに歩く爆縮炉(原爆)と言って良いしろものじゃ・・」
「実にユニークな構造じゃのう」ニヤニヤと笑っている那稀博士
原田(何か面白がってないか?この人)
栗元(頭がナビして脚のオートマトンがカラ炉心を運んでる図だな、小型化の極致だね)
鈴木刑事(やっぱり歩く原爆で正解じゃん)
ブルー(形は丸くてカワイイのに・・・)

博士以下、少数の恐れを抱いてない思惑の人がいるようだ。

                            ~つづく~


注※本当は『ヨイトマケの唄』なのですが、「よいまとけ」の方が(いん)が良いので、
このまま『よいまとけ』ロボットでいきます(作者)
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登場人物紹介


大和撫子(おおわなでしこ)
17歳 出身地-京都

この物語の主人公。この春、瑞穂学園の編入試験にパスし京都から東京に出てきた美少女

親せきの大おじの家に下宿させてもらっている。実家は旧家で格式ばった厳しい家だったらしく、その反動から東京ではハメをはずしっぱなしである。性格は明るく活動的(言い変えればジャジャ馬)思いこんだら即実行するタイプ




ムホーマツ(WE45_HO-MM2)

人力車牽引ロボット〔45年製〕万能タイプ、ハンダオートマトン株式会社マルチタイプモデル2という意味

撫子が所有する個人用人力車の車夫である人型ロボット。ロボットが引くので“ロボ力車”とも呼ばれる。地上でしか使えないが、移動には便利なので重宝する。最高速度は時速30km(それ以上出ないようプログラムされているはずだが、撫子はリミッターをはずしている)アルコール燃料で電動部は燃料電池&太陽光で補う、俥の部分と分離できるので万能タイプといわれる



JJブラザーズ

ジャックとジャンクと呼ばれる二人組みの犯罪者コンビ国際指名手配(わるいやつ)リストDクラス、常にコンビで行動、黒服、黒帽子サングラスを着用、通称ブラックメン、主に金融犯罪を得意とする。ジャックの方は軍隊経験者



鈴木刑事

フツーの警視庁のフツーの刑事、中肉中背、視力体力→平均、身体能力→標準、顔→フツー(自称ややイケメン)苗字も一番多い「スズキ」、可もなく不可もなく・・(もうやめてくれー!本人)



吉田警部

警視庁でノンキャリで叩き上げできた警部、現場主義&実力主義者だけど、身だしなみには厳しいタイプ。身体も大きい、こわいけど部下の信頼は厚い、でも警察上層部からは煙たがられている、まあどんな組織でもそういうものです



矢部総理大臣

歴代長期政権の一つである日本の首相(誰かに似てるかもしれないけど気のせいです)問題はあったけど、雇用と株価を上げたのは紛れもない事実。アイコンがあってよかった!そもそも問題のない首相なんて今までいたっけ?だからこれで“いいんです”(川平ふう)



大泉議員

衆議院議員、将来有望な若手のホープ、のちに環境大臣となる、俳優の兄弟がいる(誰かに似てるかもしれないけど別人ですよ)干されたり落ち目の時期はあったけど、政治家なら皆な通る道、数十年後は世界大統領になれるかもしれないし、なれないかもしれない。


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