第4話
文字数 5,104文字
-銀行外、警官隊-
「鈴木刑事、映像から犯人たちの面がわれました・・黒服の二人組みは【JJブラザーズ】金融犯罪、および中東でのテロ活動記録もあり、国際指名手配されています」
「おそーい、照合に何分かかっているんだ?」
「いや国内はともかく、国際指名手配者はスパコンにつなげるのに時間がかかりまして、
衛星料金もバカ高で・・・」
「それでも天下の警視庁か、だいたいあんな装備をもっているとは反則だぞ、完全に兵器じゃないか」
「対戦車砲をどうやって持ち込んだんですかね?」
「知らん!とにかくただの銀行強盗ではない、軍隊並みだ、警察の通常装備で踏みこめばやられる、特殊部隊(SWAT)はまだか?」
「あと10分で到着予定です」
「おそーい」
鈴木刑事は業を煮やした
「ちっ、警部の到着前に事件解決できれば少しでも出世の糸口になると思ったのに・・
被害が拡大すれば、お前は何やってたんだと糾弾されるばかりじゃないか」
「えーと声に出てますよ、鈴木刑事」
「あわわ・・」
「なんか実にふつうな出世意欲ですよね」(含み笑い)
「うるさいんだよ!どいつもこいつも普通、フツウ、と・・」
「いいじゃないか普通だって、そう思うやつが大勢だから平均っていうんだろ」
「ええと、ちょっとヤケ(自棄)になってませんか?」
「うるさいんだよ!」
-銀行内、支店長室-
床には気絶している支店長、
黒服のジャックは、机上のパソコン画面をもう一度確認すると、端末に差していたUSBメモリーを抜く
「それ・・お金を送金したってこと?」女学生はあいかわらず恐れずに言う
「ああそうさ、ざっくり2000億ほど送れたな」
「に、にせん億・・200億じゃなかったの?」
「一ケタ間違えたな(笑)よくあることさ」
「あるわけないでしょ!」
「ふふふ、それぐらいなんだ、この銀行は毎日1兆円も動かしていると言ったろ、電子取引は建物の大きさや札束のあるなしは関係ない、平屋の地方銀行でも100億くらい軽いもんさ。
だから2000億ぐらい当然といえば当然だ、一日の5分の1じゃないか」
「・・・・・」
「巨額マネーの送信許可も決済もこいつがやるからな、さすが本店支店長の端末だぜ」
ジャックは床に転がる支店長を見て端末をたたいた。
「まさかそのために銀行強盗したの?」
「悪いかい?でももう送っちまったからなあ、電子取引は一瞬だ、すぐにケイマンやパナマ経由で世界中に拡散するだろうな、世界中のコンビニで引き出しが進むだろうさ、はーははは・・」
「なんという悪どい送り子かしら、金融業がメチャメチャになってしまうでしょ」
「ありえないね、世界中で何十兆ドルの金が一日で動いていると思ってるんだ?そもそもこれは盗んだわけではない!この銀行の口座をもつ世界中のブラック企業、非合法組織、非正規団体、飲食代、温泉費、使わない税金、等々・・・を右から左へ動かしただけだ」
「そうゆうのをマネーロンダリングって言うんでしょ、全部犯罪がらみのお金じゃない!」
「そいつは言い過ぎだな『非』のつくものはみな犯罪なのか、非正規社員は犯罪者なのか?非常口は犯罪か?ちゃんとグレーゾーンと言えグレーと」
「最後の3つはどこの知事の話よ?」
「ジャック兄ぃ、日本に来たらオレも温泉行きてえなあ・・」
「ちょっとだまっててよ、混乱するじゃないの」
「ジャンク、用意しろ・・・」
アホな話は無視し、冷静になった痩せ男のジャックが言うと、ジャンクは大きなゴルフバックから何か黄色い塊を取り出した。
(あれは?)
撫子はちらりと見ただけだが、イヤな予感がよぎった。
ジャンクは支店長室を出ていった。
「いいかいお嬢さん、金そのものに良い悪いはないんだよ、オレらがやったことは外国に電子送信しただけさ、金庫の金には触れてもいない、だからこれは銀行強盗じゃない!ただの騒動『銀行騒動』とでもいう程度のしろものさ、ハハハハ・・」
「お客を拘束して、支店長脅して出血までさせてるでしょ!」
「たいしたケガじゃないんだろ、おまえが言ってたことだぞゲラゲラ」
「うーぐぬぬぬ・・・」
言い返すことができない撫子
「まあ支店長に関してはこの程度にしとくよ、どのみち責任はとらされるからな、銀行は特に厳しいぜ、くくくく・・」
ジャックは笑いが止まらない。
しばらくしてジャンクが戻ってきた、そしてジャックに向かってサムアップのサイン、ジャックはうなずき
「さてと・・・じゃあマジにオイトマするとしよう」
ジャックはスーツの内ポケットからボタン付きソケットのようなものを取り出した。
支店長と撫子のそばを離れ、部屋の出口までゆくと・・・
「では、お疲れ様です、お嬢さん・・・」撫子の方に向けながら
カチッ、と
-銀行外、警官隊-
ドドドーーン・・・閃光と同時に銀行の横の壁が吹き飛んだ、ビリビリという振動と轟音、
警官隊は直撃は免れたが、壁やガラスの破片などが舞い上がる・・・
「状況---爆発、防げー盾!」
「何ごとだ~?」叫ぶ鈴木刑事
「銀行内で爆発です、建物横の壁が吹き飛びました」爆煙の中巡査長の声が聞こえる、と同時に破片が降ってきた。
「なぜ爆発を?ひょっとして自爆テロ?イテテ・・」
-銀行内、支店長室-
煙の中
「ゴホゴホ・・・煙でよく見えないわ・・JJブラザーズは?」
爆発音と共にJJブラザーズは消えた。
「おじょーおおおぉぉ・・」遠くからムホーマツの声が聞こえる。
「ムホーマツ、再起動したの?わたしはここよー」叫ぶ撫子
「おじょーおおお、ご無事でしたか?」煙の中から現れたのはムホーマツだった。
「あなたもよく抜け出せたわね」
「先だっての爆発で手錠をかけてたパイプがはずれやしたんで自由になれやした、あとはセンサーで見ながらここまで来やした」
「了解、状況は?」
「お客さんと行員さんは、一か所に集中していたので爆発には巻き込まれやせんでした、轟音と煙が行内にまん延して、建物の横に大きな穴が空いてやす、犯人たちは今のところ見あたりやせん」
「そう、よかった人質は無事なのね」ホッ、と撫子はむねをなでおろす。
「では、ムホーマツは熱感知センサーでお客さんと行員のみなさんの手錠と鎖を切ってきて、それぐらいならできるでしょ、車なんだから」
さっそく撫子は次の行動を起こす。
「そりゃできますけどね、お嬢は?」
「JJブラザーズはどこよ?あの状況からいって逃げたわね、このままじゃすまさないんだから」
「根にもってやすねー」
「あれだけコケにされて黙ってられないわ、仕事じゃないけど逮捕よタイホ!」
「へいへい(かなわんなー)」
ムホーマツは感情ソフトのせいかあきれ声で煙の中へ消えていった。
残された撫子は着物袖から携帯を取り出してかける。
トゥルルルル・・・
「通信回復したわ、携帯だけど雲ジイ聞こえる?」
「ブルー、大丈夫か?状況は?」
「コード05(まるごー)事件は継続中よ、これから犯人たちを追跡するところ!」
「どうやら無事なようじゃな」
「あたりまえでしょ、JJブラザーズを逮捕します、急いで銀行周辺の街頭カメラを洗ってちょうだい」
「マンホール(地下)ははずすのかの?」
「彼らは強制送り子でテロリストよ、そういう
「了解、羽田か成田か?港なら東京港、カワサキかヨコハマ?こころあたりはあるかの?」
「JJブラザーズは籠城すると見せかけてすぐ逃げたわ、予想と逆のことをするのがパターンなのかも、だから普通の検問には引っかからないでしょう、でも速度を重視するなら一番近いのは・・・」
-銀行外、警官隊-
「鈴木刑事、行内から人が出てきました」
「何、犯人か?」
「いえ、行員の服を着ている人もいるので人質だった方たちと思われます」
「爆発にまぎれて逃げ出したのか?」
「何人かパラパラと出はじめておりますので、解放されたのかと・・」
「
「わかりません、しかしこれは救出のチャンスかもしれません」
「確かに!それに建物倒壊の危険性もあるしな・・・」
「鈴木刑事、SWAT隊(特殊部隊)が到着しました」別の警官が報告する。
「ようし、いきなりだがそのまま突入せよ、犯人を捜せ、他は周りを囲んでカバーせよ、ネズミ一匹見逃すなよ、それと人質の安全確保を最優先」
「了解」
警官たちは隙間なく左右正面からぞくぞくと銀行の周りを取り囲んでいった。
-銀行内-
「それじゃあ、私たちも逃げるわよムホーマツ」
人質を解放したムホーマツは戻ってきた。
「へえっ、ナゼでがす?わてら助かったのでは?」
「ここにいたら『助かった人たち』ということでテレビにインタビューされちゃうでしょ、
午後の授業サボったことがバレちゃうじゃないの、かつ私の仕事がら世間に顔が出るのは極力さけたほうがいいでしょ!」
「最初の理由が一番重要ってことでやんすね・・」
「うるさいわねー」
「それで、あんたのダッシュボードに入っているのは何だったの?」
「今ごろでやんすか?」
「備品の確認よ、追跡するんだから」
パカン、とムホーマツの小物入れを開けてのぞく撫子
「ハンコ!こんなところに、それと車検証、非常用発炎筒2コ、脱出用窓ガラス割りハンマー・・・」
「車の必需品でやんすから」
「JJたちは?」
「いませんでした、銃もバックも何もありやせん、ただ壁にまた穴がありやした・・」
「どこなの、そこは?」
ムホーマツが見つけたのは、奥の倉庫のような室内、窓もない壁にいきなり穿かれた穴だった、穴は大きくはなく、人一人が通れるくらいだろう、ただ場所が・・その先はどこにも続いてはいなかった、穴の先を見た撫子は?
「何よこれ?外じゃない・・」
そこは銀行裏手の土手壁そのものに開いた小さな穴だった、下をみればちょっと引くわ、くらいの高さだ。
しかし撫子は、下を見て前を見て、上をみて「ふーん」と言っただけだった。
「わかったわ、じゃあムホーマツは駐車場に戻って車のふりをしていなさい、隙を見て脱出したら、力車と一緒にわたしを追いかけてくればいいわ」
「へえい、そうしやす」ムホーマツはそう言うと、心配言も言わずカシャカシャと戻っていった。
撫子は室内に戻ると、おもむろに穴を向き、短距離走のクラウチングスタートの構えになりかがんだ
ブウンンッ・・・音が鳴り、撫子の
「跳躍半靴(ブーツ)起動、対岸まで15メートル・・・」
顔を上げ前を向く撫子、そこは空中だ、川の上だ
「レディ・・」
「GO!」
撫子は光の中へと飛び出す・・・
-銀行外、警官隊-
警察ロボットはムホーマツと同じ万能型の一種である、人型で大きさも1.8~2m程度の物があり、頑丈で対人地雷も平気である。
SWAT隊は数台のロボットを先頭に突入、バラけて熱センサーを頼りに捜索していった
「支店長・行員及び人質だった人たちはほぼ確保しました」巡査長が報告する
「ほぼ、とは?全員じゃないのか」
鈴木刑事が疑問の目で言った。
「女学生の人質がいたはずなのですが、まだ確認がとれていません」
「ああ、さっきの・・・客の中に紛れているのではないか?」
「たぶんそうでしょうが・・・」
そのとき捜索隊からの報告を伝える警官がかけこんできた。
「鈴木刑事、建物裏側の壁に新たな穴があいていました!」
「なんだと?」
鈴木刑事たちは急いで現場に向かう
「こ、これは?外は川じゃないか・・」
ゴウッという空気の抜ける音がして鈴木刑事は少し
人一人通れるほどの穴は銀行裏の土手壁に直接開き、建物壁面と繋がった垂直数十メートルの真下には川が流れている、激しい流れではないが飛び込んで逃げるにはいささか危険と思われる、対岸へも15メートルはあるだろうか、
(これは・・・無理だ?)
「未確認の船か、ゴムボート等の報告は?」
「ありません・・・今のところ」
「じゃあ犯人たちはどうやって逃げたというのだ?」
ガラッ・・鈴木刑事の足元のかけらが崩れ、数秒かけて水に落ちていった。