第5話

文字数 5,917文字

[爆弾ロボット]

「本部長が言ってた強力な助っ人というのは、キミのことだったのか」
鈴木刑事が、やっとわかったというふうに言った。
いっぽう女学生は、にこやかな笑顔で若者のフランクさに変わった。
「本部長は知らないけれど、爆弾ロボット事件の解決依頼は受けたわよ、矢倍(やべ)っちに」
(まあ直接じゃなく、本部の指示を受けただけなんだけどね)
「矢倍っち?」
「ひょっとして矢倍首相のことなんじゃあ?」原田が小さな声でつぶやいた
(なんだとー!)全員びっくり
ヒソヒソ・・周りの警官たちは顔を見あわせる
(一国の首相を芸能人のごとく呼ぶとは?)
(なんという上から目線)
(やっぱりGFPだな)
(でもかわいいから許す)
メラメラ~[背景に炎](ふん、世界政府の犬め!)
(警視庁はどこの手下だっけ?)

〔GFPは基本的に各国の防衛・警察組織とは相性が悪い、こんなふうに突然やってきて指揮権を奪うのだから現場はたまったものではない。特に軍隊なら指揮官とトラブルになりそうであるが、WGPOの選ぶ捜査官は結果的には解決に導くことが多い、ケガや病気や戦死で指揮系統が混乱しそうな時にやってくることもあるから(だから疫病神なんだけど)または指揮官が不得手な分野を補完するときもある、科学的情報や難しい機器を手段とする解決法もあるからだ、女の子なら疑問視・軽く見て、ボトムアップで上手くいく場合もある、要は解決できれば何でもアリなのだ。(それらを選ぶWGPOの方が不思議で不気味なのだが)〕

警察官たちのさまざまな思いがとびかった、しかし女学生はどこふく風という感じだ。
「ちなみに私の入庁記録は12時間で消えるから、コピーも出来ないからよろしくね」
「ええっ!?」驚く栗元
痕跡は残さないらしい、徹底している。
「ネットの都市伝説で見たことがある・・・」
そう言ったのは原田だった。
「GFPの捜査官と呼ばれる者は老若男女、年齢、人種、階層、などには左右されない、
どういう選抜方法かは知らないが、何かに秀でた能力がある者がなれる、と、
そしてそれは一般人にまぎれこみ普通に生活しているからわからないとも・・キミが・・」
「あなた、それ以上喋ると教育省に呼び出されますよ」ピシャリと言う女学生
「あわわ・・」両手で口をつぐむ原田
「不必要な情報源はパージ対象にされますの、突然行方不明になるかもしれませんし、富士山の森で発見されるかもしれませんわねえ~」
(それって樹海じゃあ・・・)
「まあ、冗談ですけどぉ」オホホと笑う女学生
(目が笑ってねーよ)青ざめる一同
「機密によりいろいろと言えないこともあります、わたくしのことは《ブルー捜査官》もしくは《青猫さん》とお呼びください」
ニッコリと微笑む女学生、いやブルー・キャット

「源氏名だろ?」吉田警部がまたボソリと言った
「コードネームよ、コ・オ・ド・ネーム!!」
警部の方へ、怖い顔をしながら訂正する女学生、よほど気になるのか?
「作戦中はカッコよく呼んでほしいのよね、カワイイじゃなくてカッコよく・・」
「中身は、よくいる女学生とかわらんなあ」
「うるさいわね、ティーンエージャーなのは本当よ、近くにいたのが私なんだからしょうがないでしょ」(ぷんぷん)と横を向く
(いや、あのー怒るポイントはそこじゃないのでは?)
鈴木刑事は止めようとするがツッコミきれない。
さらに吉田警部は言う
「でも日本人ではあるんだ?」
「そりゃ日本人の中にだってGFPはいるわよ、ミシュランの調査員だって日本人はいるでしょ、それと同じよ」
その他一同(ああ警部もなかなかやるなあ、対等というか捜査官がべらべら喋っている、
GFPの捜査官って皆こんななのか?いや、あの捜査官がソコツ者なのか、あんまり優秀な捜査官じゃないのかな?)
鈴木刑事は思った、周りの皆も同じような疑いの目でみている、これはマズいかも?

「はいはい、わかりましたからブルー捜査官どの・・」
がまんできないとばかりに、冷静な感じを装い鈴木刑事が割り込む。
「あら2.5枚目の刑事さん、お願いなら普通に聞いてあげてもよくってよ」
(フツウって言うな!それに2.5枚目って何だよ?)と心の中でツッコミをいれたが、
「いま最優先の問題は、ロボットを止めることでしょう?」落ち着いて話をもとに戻す
「まあそうよね」
「ブルー捜査官どののお手並みを拝見したいのですが」
お返しだ、というように鈴木刑事はわざとらしく丁重に言った。
「それはいいけどぉ、わたし爆弾処理のことは詳しくないしぃ、皆さんの協力が必要ですのよ」
と、女学生言葉でなさけないことを言うブルー捜査官
「えっ!」
「捜査官だからいろいろできるんじゃないの?」
ざわめく鈴木刑事とその他一同。
「捜査官だからって何でもできるわけじゃないのよ、得意なものはあるけどね」
ヒソヒソ・・(やっぱり、おちこぼれの捜査官なんじゃ・・)
「そこ、聞こえてるわよ!」
「はわわ!」と口をつぐむ一同
ブルー捜査官は説明をはじめた。
「GFPは国家警察の皆さまと協力して事件解決にあたるのがモットーです、私だけでは装備といい、人員といい、急ごしらえはできませんからね。まあトータルの指揮はとらせて頂きますけど・・」
「要するに国家警察(オレタチ)は下僕ってことかよ」
「おほほほ、まあ面白い例えですこと、私が女王様だなんて」
(言ってない言ってない、そんなことは言ってない)一同手をふる
「あくまで現場は国家警察側(みなさま)が主役です、手柄(てがら)も出世もボーナスも、皆さまがたのものですよ、だって私たちは秘密の存在なんですから・・」
「そうなのか栗元?」鈴木刑事が聞く
「ああ、政府の発表で今までGFPに触れたことはない、そういわれている」
「・・同じく失敗した時の責任と被害と数百万都民の生命と財産もみなさまの責・・」
「だーっ、もういいわかったよ、やるから・・」
鈴木刑事は聞きたくない、とばかりに耳をふさいだ。
「誤解なさっているようですが、GFPはべつに国家と敵対するわけではありません、
あなたがたは私を利用しても良いのです、この事件解決に国家的束縛はなくなりました、
必要ならイージス艦でも空母でも2,3隻用意できますよ。東京は警視庁管轄ですが、人手が足りないようでしたら北海道や沖縄から警官を動員しましょうか?
近隣諸国や米軍を動かすこともできます、国の許可を取る必要はありません、何でもおっしゃってください、即断即決いたします。使える装備も通常兵器までは無制限です、捜査官が来たとはそういうことになるんです」
「す、凄え!」
原田は聞いただけで震えている、軍事オタクに刺さるらしい。

鈴木刑事はさっきから女学生を見ていた、刑事だから観察眼はあるようだ、
(ときどき光るように見えるあの左目は何だろう、なぜ左目だけ?オッドアイなのか?)
栗元はそれを察したのか、イスで鈴木刑事に近づきささやく
(あの子はさっきから判別機の前を離れようとはしてない、手は端末近くにずっと置いている)
(なんだって?)
(なぜなら、この室ではネットに有線以外では接続できないが、判別機端末は外部からの確認をとるためネットとは常に繋がっているからだ)
(それじゃあブルー捜査官は今もどこかと話している、というわけか?)
(たぶんそうだと思う)
(携帯メガネもイヤホンも装着はしていないように見えるけど・・・)
(コンタクトですよ)
とつぜん原田が同じようにわりこんできた。
(陸自の特殊部隊で使う予定という、試作品を見たことがあります、メガネ型ブラウザーの進化型「ブラウザー・コンタクト」と説明されました。
ブラウザーの背景色で、見た目がカラーコンタクトみたいだって・・・)
(もう使われているのか?)と驚く栗元
(音声はたぶん骨伝導でしょう、耳の中にブルートゥースでつながるイヤホンが装備されていると思われます)
(ハイテク兵士みたいだな)と鈴木刑事
(ええ、見た目にごまかされてはいけません、と言うかGFP捜査官は戦闘もできる、という噂ですから)
(あの子が?)
(そんなふうには見えないけどなあ)
ブルー捜査官はどうみても和服姿のハイカラ女学生だ、まあ強い女子はいるだろうが彼女はそうは見えなかった、脚や腕の筋肉を見れれば多少推測もできるが、和服なのでよくわからない
原田(実はなんちゃって女学生じゃないですかね?女性の年齢はわからないから)
栗元(う~ん、そうかな・・)
と、くだらない話になりかかったところで・・・

「それじゃあ始めましょうか」とブルー捜査官はおもむろに言った。
「さっそくですが、鈴木刑事!」
「えっ、はい」鈴木刑事は突然呼ばれてびっくりした。
「あなたはさきほど捜査から帰ってきたところでしたね、報告をお願いします」
「あっ、はい・・」
(なんでいきなり名前で呼ばれたんだ?)鈴木刑事は不思議に思ったが、もともとそのつもりだったわけで、あわてて自分の仕事を思い出した。
本来なら対策室に戻ってきた時点で報告しなければならないのだが、鈴木刑事が召集され聞き込みに向かったときには、まだ吉田警部も来ておらず、他のメンバーも各部署から召集途中であった。
見知った顔は同期の栗元と原田くらいなもので、対策室に機材搬入している途中に「第一通報者に聞き込みしてこい」と本部長から言われたのだ。
戻ってくれば対策本部長ではなく鬼の吉田警部がいるし、他部署の経過報告に時間をさかれるし、あろうことかGFPの捜査官まで来ているし、てんやわんやの状態だ。だからすっかり忘れていた、GFPが動き出したということは、この事件はマジで都市型核テロ事件、ということを示している。正直なところ鈴木刑事は、単なるデマか愉快犯による情報撹乱騒動くらいにしか思っていなかったのだ。

鈴木刑事は少し緊張して喋りはじめた。
鈴木「えー…その、本官はさきほど第一通報者である新東京港税関職員の聞き込みをしてきました。今朝方(けさがた)休日出勤した2名の検疫部調査課の職員と1名の警備部職員です」
「調査課職員の話では、AM9:00過ぎ、仕事をはじめた矢先に(へい)レベル警報が発令されました。これは税関ゲートを未確認の検閲品が通ったということで、警報でいえば下級のレベルです」
「何で下級レベルなんだ?未確認の品は下級レベルなのか?」栗元が懐疑の目で聞いた
鈴木「検閲のゲートを通ったわけではないからです、正確にはその横の職員用出入り口を通ったからです」
原田「じゃあ大きくはないんだね、ミサイルのようなものでは・・・」
栗元「核物質じたいならそんなに大きいものじゃないよ、フランスから強奪されたのは30kgだ、大型のバックなら持ち込めるよ」
鈴木「いえ、そうではなく職員用出入り口を通ったのは人型のロボットだったわけです、ゲートの記録映像にこんなものが映っていたそうです」
そう言って鈴木刑事はゲートを通った黒い影が映っている映像記録のUSBを差し出す、
皆は栗元が再生する映像を大型テレビで見た。
鈴木「不思議なことは、中から外へ出た、ということです」
吉田警部「それじゃあロボットが海から泳いで来たとでもいうのか?」
鈴木「まあかいつまんでいえば、そうとしか考えられなくもないようなあるような」
原田「どっちなんだよ?」
「海からだとして、税関の敷地内に上陸した理由がわからないわ」と、ブルー捜査官
栗元「都内沿岸部海底には航路の安全のため、そこかしこにソナーや探知機が敷設されている、それを回避するなら、おのずとルートが決まってくるのでしょう?」
ブルー「なるほど、その可能性はあるわね」
(本当は知らなかったけど、さも知ってたふりで答える撫子、いやブルー捜査官)
原田「これは新兵器じゃないのですか?つまりロボット魚雷とでも言うべきもので、内陸部に進行できるハープーンと魚雷とミサイルのいいとこどりのような仕様ですね」
鈴木「武器商人みたいな喋り方だな、次の映像を見てください。税関の敷地に隣接する場所にも行ってきました」
次の映像
「これは第三管区海上保安部十参号信号所のカメラに映っていたものです」
そこには暗い海上と夜の空しか映っていなかった、かすかに都内のあかりが漏れ光っている程度だ。
鈴木「カメラから700mは離れてはいるのですが、見てください」
カシャ、拡大、さらに拡大する、カシャカシャ・・
鈴木「人型のような黒い影が、税関の岸壁テトラポットをあがってきているところが映っています、8K映像でもこれ以上は解像度をあげられません、なんせ暗いもので」
そこにはシルエットではあるが人型の大きなものがテトラポットの上を這っているのが映っていた、10秒程度の一瞬ともいえる間だった。
鈴木「画面に映っていたのも奇跡ですよ、フツウは対岸に向けませんからね」
原田「じゃあなんで映ってたんだ?」
鈴木「夜勤のカメラオペレーターが居眠りして、気づいたら海側を向いていたそうで」
一同「あ・・・」
 (おバカ職員)
 (最近たるんでるよな)
 (人のこと言えんのかよ)

「シルエットの形から照合しましたが・・・」
たちまちロボットに詳しい宮川が、端末を見ながら言った。
「現在歩行中のロボットと合致しました、機種はオオマツ社製土木用2足歩行型オートマトン、通称『よいまとけ1号』・・を改造したものです」
吉田警部「海からきたロボットで確定だな」
「初期型ですね」と栗元
原田「初期型じゃあロボットの認証タグはまだついてないよ」
鈴木「製造コード板金も、たぶん削られているだろうし」
吉田警部「じゃあ出もとも照会できないのか?」
宮川「初期型は昔、世界中の主に発展途上国に開拓用として輸出されました、砂漠やジャングルの開墾用なので頑丈に造られています、一部では対戦車地雷撤去用としても使われたくらいで・・・」
鈴木「つまり戦車並みに堅牢だと?」
宮川「まあジャングルを拓くのに、戦車が突き進むのもブルドーザーが突き進むのも似たようなものです、だから土木用ロボットの装甲は軍用でも工事用でもあまり違いはありません」

クラン・・カラン・・カラカラ
歩行ミサイルは粛々(しゅくしゅく)と都内奥へと向かってきている・・・

                               ~つづく~
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登場人物紹介


大和撫子(おおわなでしこ)
17歳 出身地-京都

この物語の主人公。この春、瑞穂学園の編入試験にパスし京都から東京に出てきた美少女

親せきの大おじの家に下宿させてもらっている。実家は旧家で格式ばった厳しい家だったらしく、その反動から東京ではハメをはずしっぱなしである。性格は明るく活動的(言い変えればジャジャ馬)思いこんだら即実行するタイプ




ムホーマツ(WE45_HO-MM2)

人力車牽引ロボット〔45年製〕万能タイプ、ハンダオートマトン株式会社マルチタイプモデル2という意味

撫子が所有する個人用人力車の車夫である人型ロボット。ロボットが引くので“ロボ力車”とも呼ばれる。地上でしか使えないが、移動には便利なので重宝する。最高速度は時速30km(それ以上出ないようプログラムされているはずだが、撫子はリミッターをはずしている)アルコール燃料で電動部は燃料電池&太陽光で補う、俥の部分と分離できるので万能タイプといわれる



JJブラザーズ

ジャックとジャンクと呼ばれる二人組みの犯罪者コンビ国際指名手配(わるいやつ)リストDクラス、常にコンビで行動、黒服、黒帽子サングラスを着用、通称ブラックメン、主に金融犯罪を得意とする。ジャックの方は軍隊経験者



鈴木刑事

フツーの警視庁のフツーの刑事、中肉中背、視力体力→平均、身体能力→標準、顔→フツー(自称ややイケメン)苗字も一番多い「スズキ」、可もなく不可もなく・・(もうやめてくれー!本人)



吉田警部

警視庁でノンキャリで叩き上げできた警部、現場主義&実力主義者だけど、身だしなみには厳しいタイプ。身体も大きい、こわいけど部下の信頼は厚い、でも警察上層部からは煙たがられている、まあどんな組織でもそういうものです



矢部総理大臣

歴代長期政権の一つである日本の首相(誰かに似てるかもしれないけど気のせいです)問題はあったけど、雇用と株価を上げたのは紛れもない事実。アイコンがあってよかった!そもそも問題のない首相なんて今までいたっけ?だからこれで“いいんです”(川平ふう)



大泉議員

衆議院議員、将来有望な若手のホープ、のちに環境大臣となる、俳優の兄弟がいる(誰かに似てるかもしれないけど別人ですよ)干されたり落ち目の時期はあったけど、政治家なら皆な通る道、数十年後は世界大統領になれるかもしれないし、なれないかもしれない。


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