第94話 地の王の執着
文字数 1,878文字
「…… ーーラ、…… ーーラ!」
どこかの庭の花が咲き乱れる中、その美しい人の姿を見つけて、思い切り脅かすように飛びつく。
その人はビックリして、花よりも美しく咲いたように笑い、華奢な腕を大きく広げて自分を抱き上げた。
柔らかで豊かな胸も無いけれど、痩せてゴツゴツしてるけど、その美しい人は世界中で一番自分を大切に思ってくれる、そんな安心感に満ちている。
「いい子だね、…… ーン。さあ、お部屋に戻ろう」
「…… ーラ、ねえ、甘いお水が飲みたい!」
「あはは!…… ーンは…… が好きなんだ…… さあ…… へ行こうか 」
声が、遠く消えて行く。
待って!
僕はここだよ!
置いていかないで!…… ーラ!
行かないで!行かないで!…… ーラ!…… ーーラ! ガーーラ!!
「リューズ様、リューズ様」
少年の声が耳元にささやき、肩を軽く揺り動かされた。
目を開けると森の中。
遠くには鳥の声も聞こえる。
自分は…… 一体、どうしたのだろう ……
頭がぼんやりして記憶が無い。
自分の手を見ると、見たことも無い白い手。
サラリと顔にかかる髪は、木漏れ日を受けて金に輝く。
「リューズ様、お水をどうぞ。」
横にはべる黒い髪、黒い瞳の10歳前後の少年が、大きな葉っぱに汲んできた水を差し出す。
リューズはその葉を受け取り、水を覗き込んだ。
「この姿…… 」
水鏡に映し出された自分の顔。
整った白い顔に金の髪と緑の瞳。
年の頃は15,6か、リリスとあまり変わらない年頃に見える。
遠くから、もやの向こうから声が聞こえてきた。
『…… シエー……ル ……』
優しい声が、サラサラした金の髪が、自分と同じ緑の瞳が、近づいて、頭を撫でようと、手を差し出し…………
『お前を消し去る!』
突然、うりふたつのセレスの顔が浮かんでビクッと身体が震えた。
水がバシャンと波打ち、少年がその手に手を添えた。
「リューズ様、水がこぼれてしまいます。」
「お 前は?」
「あなたの下僕の生き残りでございます。
他は杖を失い皆消え去りました。
私はほら、あなたが水晶を核に作り出した物。」
そう言って、黒髪の少年が黒い服を緩めて胸を見せると、確かに自分が杖の先に使っていた水晶がその胸にある。
だが、作ったかどうか記憶が定かでは無い。
「私がお前を作ったのか?」
「はい、つつがなく。我が下僕にと。」
「名は…… なんと付けた?」
「まだ、でございます。」
「そうか、では、 ガーラと。」
「 ガーラ? だと? 」
黒髪の少年が、急に声を落とし眉をひそめた。
主の顔に向けて手を伸ばし、大きくため息をつく。
「不粋者が」
「え?」
言い捨てた瞬間、その手から閃光がはじけてリューズが弾かれるように倒れる。
それを冷え冷えとした視線で見下ろし、少年は気を失ったリューズの髪を掴んで顔を引き上げた。
「ガーラだと?まったく不粋な奴よ。
まだろくに自分を取り戻せぬお前が、その言葉を口にするのは早い。許さぬ。
ガラリアは、あれは、大切なわが伴侶である。
我が伴侶は神と並ぶ者、お前などあれの気を引く道具に過ぎぬ。」
ささやきかけて髪から手を離し、うち捨てる。
そして立ち上がり、森の木立の隙間から日の高さを見るとため息をついた。
「そろそろ頃合いだが、ルークどもが張った結界が厄介よの。
ニードは達者な術師よ、気をつけねばわしが忍び込んだことなど容易に知られよう。
さて、気がつかれず入るには、これの意識が無い内に行くが良いものか。
…… そうだ、地下から行こう。地の中は我が領域。誰にも干渉出来ぬ。」
チラリとリューズに視線を移す。
そしてそのかたわらに腰を下ろし、そのまま覆い被さり愛おしむように身体を抱きしめ頭を撫でた。
「ああ、お前がいてくれて良かった。
お前が消えたあとのガラリアの悲しむさまには、腹が立ったものよ。
お前の存在を疎ましくも思ったが、それが思わぬ結果を得た。
なんと孝行者よ、リュシエール。
あれはお前を殺すまで生きると言うた。
儚い人間の命に嘆いていた、わしのこの喜びがわかるか?
お前さえこうしていれば、ガラリアは死ぬこともなく永劫を共にしてくれよう。
わかるか、この喜びが。
あれは確かに、生きることを望むのだ、お前の為にと、老いも許さず美しいままに!
おおお、なんと素晴らしい!わしはあれの為ならどんな事でも苦では無い。
たとえ万を殺しても、あれ一つが生きておればそれで良い。
おお、我が子リュシエールよ、なんと良い子よ。
今すぐにも休みたかろう、だがもう一働きじゃ。それが済んだらまた眠るがいい。」
クスクス笑って少年はリューズの身体を抱きしめる。
そして2人はそのまま、地面に吸い込まれるように消えていった。
どこかの庭の花が咲き乱れる中、その美しい人の姿を見つけて、思い切り脅かすように飛びつく。
その人はビックリして、花よりも美しく咲いたように笑い、華奢な腕を大きく広げて自分を抱き上げた。
柔らかで豊かな胸も無いけれど、痩せてゴツゴツしてるけど、その美しい人は世界中で一番自分を大切に思ってくれる、そんな安心感に満ちている。
「いい子だね、…… ーン。さあ、お部屋に戻ろう」
「…… ーラ、ねえ、甘いお水が飲みたい!」
「あはは!…… ーンは…… が好きなんだ…… さあ…… へ行こうか 」
声が、遠く消えて行く。
待って!
僕はここだよ!
置いていかないで!…… ーラ!
行かないで!行かないで!…… ーラ!…… ーーラ! ガーーラ!!
「リューズ様、リューズ様」
少年の声が耳元にささやき、肩を軽く揺り動かされた。
目を開けると森の中。
遠くには鳥の声も聞こえる。
自分は…… 一体、どうしたのだろう ……
頭がぼんやりして記憶が無い。
自分の手を見ると、見たことも無い白い手。
サラリと顔にかかる髪は、木漏れ日を受けて金に輝く。
「リューズ様、お水をどうぞ。」
横にはべる黒い髪、黒い瞳の10歳前後の少年が、大きな葉っぱに汲んできた水を差し出す。
リューズはその葉を受け取り、水を覗き込んだ。
「この姿…… 」
水鏡に映し出された自分の顔。
整った白い顔に金の髪と緑の瞳。
年の頃は15,6か、リリスとあまり変わらない年頃に見える。
遠くから、もやの向こうから声が聞こえてきた。
『…… シエー……ル ……』
優しい声が、サラサラした金の髪が、自分と同じ緑の瞳が、近づいて、頭を撫でようと、手を差し出し…………
『お前を消し去る!』
突然、うりふたつのセレスの顔が浮かんでビクッと身体が震えた。
水がバシャンと波打ち、少年がその手に手を添えた。
「リューズ様、水がこぼれてしまいます。」
「お 前は?」
「あなたの下僕の生き残りでございます。
他は杖を失い皆消え去りました。
私はほら、あなたが水晶を核に作り出した物。」
そう言って、黒髪の少年が黒い服を緩めて胸を見せると、確かに自分が杖の先に使っていた水晶がその胸にある。
だが、作ったかどうか記憶が定かでは無い。
「私がお前を作ったのか?」
「はい、つつがなく。我が下僕にと。」
「名は…… なんと付けた?」
「まだ、でございます。」
「そうか、では、 ガーラと。」
「 ガーラ? だと? 」
黒髪の少年が、急に声を落とし眉をひそめた。
主の顔に向けて手を伸ばし、大きくため息をつく。
「不粋者が」
「え?」
言い捨てた瞬間、その手から閃光がはじけてリューズが弾かれるように倒れる。
それを冷え冷えとした視線で見下ろし、少年は気を失ったリューズの髪を掴んで顔を引き上げた。
「ガーラだと?まったく不粋な奴よ。
まだろくに自分を取り戻せぬお前が、その言葉を口にするのは早い。許さぬ。
ガラリアは、あれは、大切なわが伴侶である。
我が伴侶は神と並ぶ者、お前などあれの気を引く道具に過ぎぬ。」
ささやきかけて髪から手を離し、うち捨てる。
そして立ち上がり、森の木立の隙間から日の高さを見るとため息をついた。
「そろそろ頃合いだが、ルークどもが張った結界が厄介よの。
ニードは達者な術師よ、気をつけねばわしが忍び込んだことなど容易に知られよう。
さて、気がつかれず入るには、これの意識が無い内に行くが良いものか。
…… そうだ、地下から行こう。地の中は我が領域。誰にも干渉出来ぬ。」
チラリとリューズに視線を移す。
そしてそのかたわらに腰を下ろし、そのまま覆い被さり愛おしむように身体を抱きしめ頭を撫でた。
「ああ、お前がいてくれて良かった。
お前が消えたあとのガラリアの悲しむさまには、腹が立ったものよ。
お前の存在を疎ましくも思ったが、それが思わぬ結果を得た。
なんと孝行者よ、リュシエール。
あれはお前を殺すまで生きると言うた。
儚い人間の命に嘆いていた、わしのこの喜びがわかるか?
お前さえこうしていれば、ガラリアは死ぬこともなく永劫を共にしてくれよう。
わかるか、この喜びが。
あれは確かに、生きることを望むのだ、お前の為にと、老いも許さず美しいままに!
おおお、なんと素晴らしい!わしはあれの為ならどんな事でも苦では無い。
たとえ万を殺しても、あれ一つが生きておればそれで良い。
おお、我が子リュシエールよ、なんと良い子よ。
今すぐにも休みたかろう、だがもう一働きじゃ。それが済んだらまた眠るがいい。」
クスクス笑って少年はリューズの身体を抱きしめる。
そして2人はそのまま、地面に吸い込まれるように消えていった。