7本目(3)ネタ『メイドの適性』

文字数 2,004文字

「はい、どーも~2年の凸込笑美で~す」

「1年の厳島優美ですわ!」

「同じく1年の小豆忠厚です……」

「『セトワラ』、今回はこの三人でお届けします、よろしくお願いしま~す」

「よろしくお願いしますわ!」

「お願いします……」

 借りた講堂内に大きな拍手が起こる。ひと呼吸おいてから笑美が話し出す。

「え~二人は1年生っていうことやけれども……どう? 学校生活はもう慣れた?」

「そうですわね、まず通学が……」

「ああ、この島以外の人はフェリーで通学やもんな。なかなか慣れへんよな~」

「いえ、わたくしはヘリで通っていますわ」

「ヘリ⁉」

「ええ、厳島家所有のプライベートヘリです」

 驚く笑美に対し、小豆が頷く。

「プ、プライベートヘリか……スケールでかいな……お昼休みはどうかな?」

「お昼休みですか?」

 笑美の問いに優美が首を傾げる。

「そうそう、学食とか購買部とかいつも混んでるやん」

「ああ、食事はいつもこちらの小豆に用意してもらっておりますので」

「え⁉ そうなん⁉」

「僭越ながら……」

 小豆が頭を小さく下げる。

「よ、用意してもらうって、例えばどんなのを用意してもらってんの?」

「そうですね……もっぱらステーキですわね」

「ス、ステーキ⁉」

「ええ、小豆の焼くステーキは絶妙な味わいですわ」

「へ、へえ……そうおっしゃってるけど?」

「恐縮です」

 小豆が再び頭を下げる。

「なにかコツとかあんの?」

「そうですね、優美お嬢様はウェルダンがお好みなので……」

「ウェルダン? あ~わりとまんべんなく焼く感じやったっけ?」

「ええ、そうです」

「内面にもしっかりと火を通して……」

「そうですね」

「肉をひっくり返したりして……」

「はい、プライベートヘラで」

「なんやプライベートヘラって! オフィシャルのヘラあんのかい!」

「いつも美味しいですわよ」

「……お褒めに預かり光栄です」

 優美の言葉に小豆は微笑をたたえながら頭を下げる。

「ふ~ん……」

「どうかいたしまして?」

 腕を組む笑美に優美が尋ねる。

「……ウチもお昼にステーキ食べたいな」

「え?」

「お願い! ウチにもステーキちょうだい!」

「と、おっしゃっていますけど、小豆?」

「良いですよ」

「あ、ええんや? 言ってみるもんやな~」

「ただし条件があります」

「条件?」

「はい、我らが厳島家のメイドになっていただきます」

「メ、メイド⁉」

「そうです」

「……わ、分かった」

「適性があるかどうか見てみましょう。こちらへどうぞ」

「はいよ」

 笑美が優美と小豆の真ん中に立つ。小豆が口を開く。

「まず、お嬢様が朝お目覚めになられました……」

「? あ、ああ、シミュレーションかいな。え、えっと、お召し物をお取替え致します……」

「お願いね」

「はい……」

「駄目ですね」

「え、何が?」

「お嬢様は鉄製のコルセットを装着してお休みになられております。それではコルセットを落としてしまいますよ」

「どんなコルセットやねん! 余計負担かかるやろ!」

「姿勢を矯正するためですから」

「どんだけ姿勢悪いねん!」

「……朝食を終え、お出かけになられます」

「ああ、登校の準備やな……お嬢様こちら、お鞄になります……」

「また駄目ですね」

「え? ああ、忘れ物が無いよう、きちんとチェックせなアカンのやな?」

「その必要はありません、教科書類は全て学校に置いてありますから」

「そっちの方が駄目やろ!」

「通学の時間です」

「……お嬢様、ヘリにお乗りください」

「またまた駄目ですね」

「ええ?」

「ヘリは空中にいますから、そこから垂らした縄はしごに飛び乗って下さい」

「トム〇ルーズなん⁉ オタクのお嬢様⁉」

「エベレストに旗を立てますわ」

「『ミッション〇ンポッシブル』か! 通学でいちいち大げさやねん!」

 右手の親指をグッと突き立てる優美に対し、笑美が突っ込みを入れる。小豆が呟く。

「残念なお話ですが……」

「何よ?」

「このヘリは三人乗りなのです」

「ス〇夫みたいなこと言うな! え? ウチはどうやって学校に行ったらええの?」

「縄はしごは垂らしたままにしますから、それになんとかしがみついて……」

「アカン、死ぬ! メイド死んでまう! たかが通学で!」

「小豆!」

「は……」

 優美の合図に小豆は一旦袖に下がり、素早く戻ってくる。笑美が首を捻る。

「え? 何、何よ?」

「こちらをどうぞ……」

「わあ! こ、これはステーキ⁉」

「どうぞお召し上がりください」

「うわあ、美味しそう!」

「これが本当の……」

「「冥土の土産」」

 優美と小豆が妙なポーズを決める。笑美が声を上げる。

「やかましいわ! なにを上手いこと言っとんねん!」

「まあ、適性はあるようね。合格で良いのじゃないかしら?」

「優美お嬢様がそうおっしゃるのなら……こちらをどうぞ、オフィシャルのヘラです」

「オフィシャルのヘラあった! って、もうええわ!」

「「「どうも、ありがとうございました!」」」

 笑美と優美と小豆がステージ中央で揃って頭を下げる。
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