6本目(4)シン・チャラ男

文字数 1,212文字

「お疲れ様でした!」

 講堂の舞台袖に司が入ってきて、二人に声をかける。笑美が問う。

「どうやったかな?」

「いやいやいや、今回も最高でしたよ!」

「ほうか……それは良かった」

「ふう……」

 倉橋が座り込む。司が尋ねる。

「ど、どうだった?」

「……」

 倉橋が無言で俯いている。司が慌てる。

「ぐ、具合でも悪いのかい?」

「……じゃん」

「え?」

 俯いていた倉橋がガバッと顔を上げる。

「マジで最高じゃん!」

「え、ええっ⁉」

「ギャグがハマったときの笑い声! ボケとツッコミが上手く行ったときに起こる爆笑! 終わった時の拍手と歓声の渦! あれはマジで……たまんねえよ!」

 倉橋が司の両肩をガシッと掴む。司が戸惑う。

「そ、そうなんだ……」

「マジでヤバい、もう~ほんとマジで! マジ鳥肌立ちっぱなしだったわ」

「あ、そ、そう……」

「語彙力が低下しとるで……元からか?」

 笑美が笑みを浮かべながら、倉橋たちの様子を見つめる。

「いや~本当に……あれ?」

 倉橋がしゃがみ込む。

「ど、どうしたの⁉」

「いや、なんか急に立てなくなって……ちょっと、ツカサン、肩貸してくれよ……」

「え、ええ……?」

 倉橋が司の肩にすがりついてなんとか立ち上がる。

「はあ、はあ……」

「大丈夫、倉橋くん?」

「大丈夫、大丈夫」

「大丈夫ちゃうやろ」

「!」

 笑美が背後から膝カックンを仕掛け、倉橋は再び崩れ落ちる。司が慌てる。

「なにをするんですか⁉」

「下半身の力が抜けとんねん」

「! ど、どうして?」

「詳しくは知らんが極度の緊張からなるものやろ」

「そ、そうなんですか……それならこのまま休んでもらって……」

「いや、癖になるとマズい、治療すべきや」

「どこで?」

「僕の実家の病院だ……」

「屋代先輩!」

「フェリーまでは自分が運ぶっす!」

「江田先輩!」

 江田が倉橋を軽々とおんぶする。

「自分もよく言っている病院だから間違いはないっす!」

「そ、そうっすか……」

「まあ、様子見で1日入院かもな……」

「入院⁉」

「拙者のおすすめアニメ入りのタブレットを貸してあげるでござる」

「い、因島……」

「入院の退屈もそれで多少は紛れるでござろう」

「あ、ありがとう……」

「私たちは……ねえ、礼明ちゃん」

「ええ、祈ってあげるわ、怪我の快癒の為にね」

 礼明と礼光が目を閉じて両手を合わせる。倉橋が苦笑する。

「わ、悪気はないんだよな……」

「倉橋くん! これ、着替えのジャージ!」

「おおっ、ツカサン、気が利くなあ」

「……あの、こういうときにする話じゃないかもしれないけど……」

「ん?」

「今後もセトワラの一員として、活動を期待してもいいかな?」

「もち、いいぜ」

 倉橋のあっさりとした返答に司は目を丸くする。

「ほ、本当かい?」

「ああ、ここで俺は理想の『チャラ男』像に近づくことが出来そうなんだ。今後も頼むぜ」

 倉橋が江田におぶられながら、右手の親指をグッと立てる。

「ふふっ、『シン・チャラ男』の誕生かね?」

 笑美が笑いながら首を傾げる。
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