ゲーム /BERKASTET!!!/
文字数 1,592文字
「わっ」
カッツェンは思わず声を漏らした。
セロの部屋に入ると、そこにはさまざまな玩具が散らかり放題になっていた。
サイコロでゴールを目指すタブラ、駒を取り合うチャトランガ、知らないボードゲームの玩具が転がっていた。いろんな絵柄が描かれたカードも多種多様とある。うっかり踏みつけて壊さないよう、カッツェンは気をつけて歩いた。
「ごめんね、使いの者にはここに入るなって厳しく言いつけてあるんだ」
カッツェンならいいのだろうか。
よく見ると、床に円がいくつか描かれていて、円の中には数字が入っていた。何かの遊戯に使ったりするのであろう。
「それで、セロ。話なんだけど」
「カッツェン、このゲームを知ってる?」
木枠にはめて囲まれたテーブルに球がいくつもあった。その球のひとつを打った。打たれた球は木枠にぶつかり、他の球にぶつかり、そうやって球が台の穴に次々と入った。
「ビロルダっていうんだ、カッツェンもやってみる?」
「僕は話が」
「そして、このゲームも知ってる?」
手のひらサイズの小さな矢を持って投げた。壁にかけられたコルク製のボードに矢は刺さった。
「ダーツって言うゲームなんだよ」
「話を聞いて、セロ」
「そして、いまもうひとつゲームがあるんだ、それは……」
セロはビロルダのテーブルにある白い球を取った。
まだふざけるつもりかと思ったが、カッツェンはそこで気が引けそうなくらい仰け反った。
ふざけ半分だったセロが至極に真面目な顔をしたからである。
「もうひとつのゲーム、それは」
セロは大きく振りかぶり、白い球をダーツのコルクボードに投げつけた。
大きな音を立てて当たった拍子に、留め具がはずれ、コルクボードが落ちた。
「セロ……?」
「地上がこうならないようにするため、すべての人間が直面し、全員が命がけで取り組むゲーム」
相談したいとだけ手紙には書いた。具体的な話は言っていない。
ふふ、と言いながらセロはカッツェンの両肩に右腕を絡ませる。
「これを食い止めにカッツェンは、ボクに相談を持ちかけてきたんでしょ?」
平和条約を取り付けて欲しいとまでは言ったが、これ以上は言っていない。
セロはどうやら知っているようだ。この星が直面している危機に。
「大丈夫だよ、ボクはカッツェンの言いたいことは想像してたから」
「セロ……」
険しかった顔が崩れて、セロは鼻歌を歌い始めた。ドからシまでの十二音を余さず取り入れた鼻歌で、セロ自身が作曲した実験音楽のひとつだと思われる。
「ボクはね、ゲームがとても好きなんだ」
「ごめんセロ。もしかして、議会には参加してるよね?」
「してるよ。ついこの前まで摂政がボクの代わりに手腕を振るってたけど、もうボクも十七だ。さすがに議会には出てるよ」
少し不安になるけれど、カッツェンは、いまのところセロしか頼れそうにない。
「それで、平和条約の話なんだけど」
「ボクを楽しませてくれる、そんなカッツェンのことがボクは大好きだよ」
「えっ?」
カッツェンは血が足先から顔面にまでのぼり詰めてくるのを感じる。
「また赤くなった、カッツェンってやっぱりかわいいね」
「セロ!」
また子供みたいに大笑いして、セロは腹を抱える。
「ボクに任せて、まず第一歩として平和条約を取り付ければいいんだよね?」
「う、うん」
なんだかとてつもなく不安になってきたので、カッツェンはしつこく確認をするよう、目を光らせてセロに迫る。
「セロ、確認したいんだけど」
「うん、なあに?」
「セロはこの国の政治をちゃんと動かしてるよね?」
「大丈夫だよ。ボクはちゃんと国を治めるよう、これでも頑張ってるよ。それに何よりもさ……」
それに何よりも。
「国政はボクにとってゲームだからね」