第49話 生きていること

文字数 637文字

「それにしても、生きているんだよなあ」
「おうよ。おけらも、みみずも、あめんぼも」
「なんで生きているのか知らないままに」
「知ろうとするより、よほど潔そうだ」

「人間の知恵なんて、たいしたものじゃないね」
「鶴の足が、長すぎるからといって切る。亀の足を、短かすぎるといって付け足す。人間が考え、判断することは、それと同じで、無用なことばかりだ。何もしなくたって、木の実は成り、魚は泳ぎ、馬は走る。何かしなくちゃいられない人間は、哀れというより愚かだよ」

「貧富、賢愚、優劣の差別をつくり、何をしようとしているのかね」
「権力を握りたい人間がいることは間違いない。でも、権力を握った人間は、どんな善人でも悪に染まるらしい。たくさんお金をもって、節操のないことができる環境があるというのだ」
「プラトンは、選挙なんかで立候補する人間を認めなかったね。野心のない、こんな私じゃムリですよ、という人間をこそ、そういう立場に挙げたという」

「ユートピアなんか無いにしても、それに近づこうとするどころか、どんどん離れていく感じがする」
「まあ、よく分からないけど、こうなったのも自然といえば自然なんだろう」
「生きる意味なんか考えても仕方ない。といって考えなければ、それこそ何の意味もない…」

「誰もが笑顔で幸せに、なんていうのも虫酸が走る。こうでなくてはならない、なんていうのには、断固として従いたくないね」
「われわれのような人間は、生きていけるのだろうか」
「さあ。どうしたわけか、今、生きているからなあ」
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