十二 口入れ屋捕縛

文字数 823文字

 騒ぎを聞きつけ、青葉屋の主の青右衞門が店の表に出てきた。その後から主を追って佐恵が出てきた。青葉屋の周りは同心と捕り方が囲んでいる。

 青右衞門は慌てて番頭の吉二が居る中村屋の飯屋に入った。佐恵は青右衞門の背後に居る。青右衞門は与力の藤堂八郎の腰にある十手を見ると、藤堂八郎に訊いた。
「これはこれは御役人様。私は口入れ屋の青葉屋を営んでおります、主の青右衞門です。手前どもの番頭の吉二がいかがいたしましたか」

 藤堂八郎は青右衞門を睨みつけ、番頭の吉二を顎で示した。
「私の連れを拐かそうと声をかけてきた」
 青右衞門は、町人に扮した藤堂八郎を岡っ引き程度だと思ったらしく、
「奉公先を斡旋しようと、商売気を出しただけでしょう」
 と馬鹿にしたように言った。 

「私は北町奉行所の与力の藤堂八郎だ」
 藤堂八郎がそう名乗ると、青右衞門の顔がいっきに青ざめた。
「よおく聞けっ。江戸屋敷詰めの武家が奉公先を必要とするなど有り得ぬっ。
 此奴(こやつ)も引っ立てろっ」

 藤堂八郎がそう言うや、青右衞門の後ろに居る佐恵が懐から捕縛縄を取り出し、青右衞門を後ろ手に縛り上げた。
「何だ、お前はっ」
 青右衞門は驚いた。
「そのお役人の手助けをしているだけさ。この口入れ屋も、とんだ悪徳だったんだね」

「そう言う事だ。拐かしと人売りで、死罪は免れまい。
 さて、紀州屋との悪事を話して貰おうか。連れ去った女たちは何処に居るか答えろっ。答えねば、その腕、この場で叩き折るぞっ」
 藤堂八郎は青右衞門の肩を十手で叩いた。藤堂八郎の十手は岡っ引きたちの十手の二倍の長さで太い。青右衞門は震え上がった。
「紀州屋の地下の座敷牢に・・・」
 主の青右衞門がそう言うや藤堂八郎が指示した。
「青葉屋の奉公人を、皆、しょっ引けっ」

 ただちに同心たちは口入れ屋の青葉屋の奉公人と下女を全て捕縛した。
 罪は全て連帯責任だ。若い女たちを売り飛ばしたのが紀州屋であっても、女たちを紀州屋に送りこんだ青葉屋の主も番頭も同罪だ。
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