一 愛妻へ寝物語

文字数 705文字

 長月(九月)十日。夜四ツ(午後十時)
 石田屋の小夜の部屋で、石田は小夜(さよ)を抱きしめた。
「ああぁ、みつなりぃ~」
 小夜は石田に抱きついた。石田は小夜を抱きしめて柔肌を撫でて肌を重ねた。
「みつなりっ、来て~、小夜が受けとめ・・・」
 小夜は昇り詰めてさらに石田を抱きしめ、身体から力が抜けた。

「だいすき・・・、みつなりぃ・・・」
 小夜は石田の腕の中でまどろみ始めている。
「だいすきですよ。さよ・・・」
 石田はそんな小夜を腕枕して抱きしめ、背と腰を撫でた。

 小夜はこのまま眠るだろうと思っていると、
「ねえ、みつなりぃ・・・。お話ししてね・・・。そしたら、眠るね・・・」
「はい。わかりました。何の話が良いですか」
「藤堂様の御新造さんの八重(やえ)さんと、加賀屋菊之助(かがやきくのすけ)さんの御内儀さんの佐恵(さえ)さん・・・」
「小夜と同じに、武家の出だから、興味がありますか」
「うん、あるよ。二人とも木村多恵之介(きむらたえのすけ)を演じてたんだよね。武芸の心得があるんだね」
「そうですね。多少なりとも武芸の心得があらねば、打刀と脇差を帯びただけで腰がふらつきますが、多恵之介は堂々としていたようです。
 小夜は打刀と脇差を帯びても、ふらつきませんね」
 石田は小夜の腰を撫でた。
「はあい。しっかりしてますよお。八重さんが木村多恵之介に扮して、夜盗の捕縛に協力したお話をしてね」

 八重さんが木村多恵之介に扮したと言うのは、与力の藤堂八郎(とうどうはちろう)の御新造の八重と、八重の三つ子の妹で、加賀屋菊之助の御内儀の佐恵が、架空の従弟の木村多恵之介に扮して探りをかけ、夜盗一味を与力の藤堂八郎たちに捕縛させた話だ。

「はい、では・・・」
 石田は、夜盗の口入れ屋、山王屋の与三郎(よさぶろう)一味捕縛の経緯を話した。
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