第5話 妹、降臨。
文字数 2,939文字
少し寂しげな日差しをした夕刻の時。桜の花が、舞い落ち、新芽が顔を出す並木道を二人、いや、ひとりと一神は、歩いていた。先に行くのは、この世の者とはいえ思えない、美しい少女の姿をした女神様だ。夕日に煌めく金髪と漆塗りを思わせる黒髪を同時になびかせ、上機嫌に体を弾ませている。今日のパチスロが、余程、お気に召したのだろう。俺は、そんな事を思いながら、女神様の後を追っていた。
「明日は、何を教えてくれるのじゃ?」
ふと、こちらを振り向き、女神様は、訊ねてきた。
「そうですね、今日は、アイム・ジャングラーを打ったので、明日は、同じシリーズのマイ・ジャングラーにでもしますかね」
そう、俺が応えた時、ひとつの疑問が俺の頭の中に浮かんだ。
「そう言えば、女神様。今日、帰る家なんかあるんですか?」
すると、女神様は、なぜそのような事を聞くのか、頭を傾げ、不思議そうな顔をして、答えた。
「今朝、天界から来たばかりじゃぞ。そんなものは、無いわ。」
「じゃあ、今日の夜は、どうするつもりなんですか?」
「そうじゃのう、手元に二万円もあるし、漫画喫茶にでも泊まろうかのう」
「そんなの絶対ダメです。女の子が、そんな事しちゃダメですって!」
「じゃあ、どうしろと言うのじゃ?まあ、ワシは、公園のベンチで野宿しても良いのじゃが」
俺は、改めて、この女神の常識のなさを痛感し、呆れながらも諭すように言った。
「野宿なんて、もっての他です。いいですか、今日は、俺の部屋に泊まって下さい。むさ苦しいとは思いますが、漫画喫茶よりかはましだと思うので」
「そうかの。まあ、そちがそう言うなら、そうしたら良い」
あっけらかんと女神様は、そう言うと、また、振り返り、前を向いて歩き出した。
「はあ」
こんな非常識な神様と一緒に過ごさなければならないなんて、俺の口から、思わず溜め息が漏れた。
ガチャリ
「?」
俺と女神様は、自分の部屋、安アパートの一室へと帰って来た。しかし、不思議に思ったのは、かけていたはずの鍵が、開いているのに気付いたからだ。
恐る恐る、玄関の扉を開いてゆく。
「あ、お兄ちゃん! やっと帰って来た」
そう言いつつ、奥の部屋から現れたのは、高校生くらいの可愛い女の子だった。髪をポニーテールに纏め、エプロン姿が良く似合っている。
「今日、来ること、メールで伝えていたのに、アパートに着いたら誰もいないんだもん。お母さんが、鍵を持たしてくれなかったら、路頭に迷うところだったわ」
「ああ、そうか、今日、だったっけ。俺、忘れていたわ」
「もう、しょうがないなあ」
こう、言った時、女の子が、俺の後ろにいた、美しい女神様に気付く。すこしキョトンとした顔になり、頭を少し傾げた。
俺は、それに気付いたが、どう説明したものか、少し、戸惑ってしまった。まさか、神様が降臨してらっしゃるなんて本当の事をいう事は出来ない。意を決して、俺は嘘を付き始めた。
「ええと、こちらは、セトさん。お兄ちゃんの彼女だ」
「ええええええええええええええええええええええ! 彼女?!」
女の子は、大袈裟に、驚いた様子だった。そのまま、固まる女の子。それを尻目に、俺は、女神様に、説明を始めた。
「セト様、この子は、俺の妹の『恵』です」
「様って・・・」
俺は、ついつい、セト様と言ってしまった。その『様』に、あざとくも違和感を感じた恵。
妹の恵は、固まった体を緩和させ、今度は、しげしげと、美しい女神を見ていた。
「それに、この人、まだ、子供じゃない?綺麗な人だけど、私よりも背も低いし。本当に、彼女なの?なんかおかしい」
「いや、彼女だって。子供のように見えるかもしれないけど、俺よりももっと年上なんだよ。『様』っていうのは、なんだ、尊敬しているからなんだ」
「尊敬ねえ・・・」
恵は、人差し指を顎に添えて、疑念の目を向けていたが、それ以上の追及は、踏みとどまっているようだった。
すると、女神様が動いた。
「もう、良いかの?ワシは、疲れたんじゃ」
そういうと、硬直した嘘攻防戦の中、無表情のまま、ズカズカと部屋の方に入って行ってしまった。
それを見届けた、恵は、無言で俺に向かい、再度、疑念の目を向けていたが、俺は、それに対し、ただ、半笑いを浮かべるしか出来なかった。
部屋の中に入ると、机の上に、二人分の夕飯の用意がしてあった。どうやら、妹の恵が、準備してくれていたようだった。
「ちょっと、待ってて。もう一人分、準備するから」
恵は、予想だにしていなかった、彼女(女神様)の出現に、急遽、対応し、もう一人分の夕食を用意してくれるらしい。
「ああ、ありがとう。悪いな」
「・・・・・・」
俺は、礼を言い、女神様は、黙っていた。
夕飯の準備が整うと、3人揃っての食事となった。
「いただきます」
3人同時に、そういうと、各々、目標のおかずに、箸をつついた。
「おお、この、里芋の煮っころがし、美味いのう」
「えへへ、それは、回胴家直伝の家庭料理なんです。おいしいでしょ~」
「うむ、美味じゃ。褒めてつかわす」
「ありがとうございます」
女神様と恵は、少し打ち解けたようであった。
食事は、和やかに続いたところで、しばらくして、恵から質問が出た。
「ところで、お兄ちゃん。えっと、セトさんとは、いつから付き合ってるの?」
「それは、だな。えーと、あーと・・・」
俺が、答えあぐねていると、女神様が答えてしまった。
「今日からじゃ」
「えええええええ!き、今日!?」
「そうじゃ、今日、初めて、出会った」
「えええええええ!今日、出会って、直ぐ!?」
恵の口は、あんぐり、開いた。また、目は、疑惑の目となり、それは、俺に突き刺さる。俺は、視線を逸らし、とぼける仕草をした。
「コホン(咳払い)、まあ、いいでしょう。突然、始まる恋もあるかもしれません。それが、ただ、今日だったということでしょう」
恵は、そう言い、俺は、胸を撫で下ろした。しかし、次の発言に、また、ピンチに追い込まれることになる。
「ところで、この後は、どうするつもりなの?」
固まる俺を気にせず、またしても、女神様が答えた。
「今日は、ここに泊まるぞえ」
これを聞いた時、恵の持っていた箸が、ボキリと折れた。怒りと嫌悪感を露わにした恵は怒鳴った。
「ダメェェェェェェェェェェェ!絶対!!!」
そう、恵は叫ぶと、いきなり俺の胸倉を掴み、激しく振り返した。
「なに考えてるの!おにいちゃん!今日、出会った人と、一晩過ごそうなんて!!!」
俺は、成すすべなく、上半身を、上下成すがままに身をまかせた。
「色々、事情があるかもしれないけど、今日出会った、男女が、ひとつ屋根の下で過ごすなんて、絶対にダメ。今日、おにいちゃんは、どこかの漫画喫茶にでも、泊まって来て!」
恵は、そう言うと、俺にサイフを投げつけて、俺は、俺の部屋から叩き出された。
「明日は、何を教えてくれるのじゃ?」
ふと、こちらを振り向き、女神様は、訊ねてきた。
「そうですね、今日は、アイム・ジャングラーを打ったので、明日は、同じシリーズのマイ・ジャングラーにでもしますかね」
そう、俺が応えた時、ひとつの疑問が俺の頭の中に浮かんだ。
「そう言えば、女神様。今日、帰る家なんかあるんですか?」
すると、女神様は、なぜそのような事を聞くのか、頭を傾げ、不思議そうな顔をして、答えた。
「今朝、天界から来たばかりじゃぞ。そんなものは、無いわ。」
「じゃあ、今日の夜は、どうするつもりなんですか?」
「そうじゃのう、手元に二万円もあるし、漫画喫茶にでも泊まろうかのう」
「そんなの絶対ダメです。女の子が、そんな事しちゃダメですって!」
「じゃあ、どうしろと言うのじゃ?まあ、ワシは、公園のベンチで野宿しても良いのじゃが」
俺は、改めて、この女神の常識のなさを痛感し、呆れながらも諭すように言った。
「野宿なんて、もっての他です。いいですか、今日は、俺の部屋に泊まって下さい。むさ苦しいとは思いますが、漫画喫茶よりかはましだと思うので」
「そうかの。まあ、そちがそう言うなら、そうしたら良い」
あっけらかんと女神様は、そう言うと、また、振り返り、前を向いて歩き出した。
「はあ」
こんな非常識な神様と一緒に過ごさなければならないなんて、俺の口から、思わず溜め息が漏れた。
ガチャリ
「?」
俺と女神様は、自分の部屋、安アパートの一室へと帰って来た。しかし、不思議に思ったのは、かけていたはずの鍵が、開いているのに気付いたからだ。
恐る恐る、玄関の扉を開いてゆく。
「あ、お兄ちゃん! やっと帰って来た」
そう言いつつ、奥の部屋から現れたのは、高校生くらいの可愛い女の子だった。髪をポニーテールに纏め、エプロン姿が良く似合っている。
「今日、来ること、メールで伝えていたのに、アパートに着いたら誰もいないんだもん。お母さんが、鍵を持たしてくれなかったら、路頭に迷うところだったわ」
「ああ、そうか、今日、だったっけ。俺、忘れていたわ」
「もう、しょうがないなあ」
こう、言った時、女の子が、俺の後ろにいた、美しい女神様に気付く。すこしキョトンとした顔になり、頭を少し傾げた。
俺は、それに気付いたが、どう説明したものか、少し、戸惑ってしまった。まさか、神様が降臨してらっしゃるなんて本当の事をいう事は出来ない。意を決して、俺は嘘を付き始めた。
「ええと、こちらは、セトさん。お兄ちゃんの彼女だ」
「ええええええええええええええええええええええ! 彼女?!」
女の子は、大袈裟に、驚いた様子だった。そのまま、固まる女の子。それを尻目に、俺は、女神様に、説明を始めた。
「セト様、この子は、俺の妹の『恵』です」
「様って・・・」
俺は、ついつい、セト様と言ってしまった。その『様』に、あざとくも違和感を感じた恵。
妹の恵は、固まった体を緩和させ、今度は、しげしげと、美しい女神を見ていた。
「それに、この人、まだ、子供じゃない?綺麗な人だけど、私よりも背も低いし。本当に、彼女なの?なんかおかしい」
「いや、彼女だって。子供のように見えるかもしれないけど、俺よりももっと年上なんだよ。『様』っていうのは、なんだ、尊敬しているからなんだ」
「尊敬ねえ・・・」
恵は、人差し指を顎に添えて、疑念の目を向けていたが、それ以上の追及は、踏みとどまっているようだった。
すると、女神様が動いた。
「もう、良いかの?ワシは、疲れたんじゃ」
そういうと、硬直した嘘攻防戦の中、無表情のまま、ズカズカと部屋の方に入って行ってしまった。
それを見届けた、恵は、無言で俺に向かい、再度、疑念の目を向けていたが、俺は、それに対し、ただ、半笑いを浮かべるしか出来なかった。
部屋の中に入ると、机の上に、二人分の夕飯の用意がしてあった。どうやら、妹の恵が、準備してくれていたようだった。
「ちょっと、待ってて。もう一人分、準備するから」
恵は、予想だにしていなかった、彼女(女神様)の出現に、急遽、対応し、もう一人分の夕食を用意してくれるらしい。
「ああ、ありがとう。悪いな」
「・・・・・・」
俺は、礼を言い、女神様は、黙っていた。
夕飯の準備が整うと、3人揃っての食事となった。
「いただきます」
3人同時に、そういうと、各々、目標のおかずに、箸をつついた。
「おお、この、里芋の煮っころがし、美味いのう」
「えへへ、それは、回胴家直伝の家庭料理なんです。おいしいでしょ~」
「うむ、美味じゃ。褒めてつかわす」
「ありがとうございます」
女神様と恵は、少し打ち解けたようであった。
食事は、和やかに続いたところで、しばらくして、恵から質問が出た。
「ところで、お兄ちゃん。えっと、セトさんとは、いつから付き合ってるの?」
「それは、だな。えーと、あーと・・・」
俺が、答えあぐねていると、女神様が答えてしまった。
「今日からじゃ」
「えええええええ!き、今日!?」
「そうじゃ、今日、初めて、出会った」
「えええええええ!今日、出会って、直ぐ!?」
恵の口は、あんぐり、開いた。また、目は、疑惑の目となり、それは、俺に突き刺さる。俺は、視線を逸らし、とぼける仕草をした。
「コホン(咳払い)、まあ、いいでしょう。突然、始まる恋もあるかもしれません。それが、ただ、今日だったということでしょう」
恵は、そう言い、俺は、胸を撫で下ろした。しかし、次の発言に、また、ピンチに追い込まれることになる。
「ところで、この後は、どうするつもりなの?」
固まる俺を気にせず、またしても、女神様が答えた。
「今日は、ここに泊まるぞえ」
これを聞いた時、恵の持っていた箸が、ボキリと折れた。怒りと嫌悪感を露わにした恵は怒鳴った。
「ダメェェェェェェェェェェェ!絶対!!!」
そう、恵は叫ぶと、いきなり俺の胸倉を掴み、激しく振り返した。
「なに考えてるの!おにいちゃん!今日、出会った人と、一晩過ごそうなんて!!!」
俺は、成すすべなく、上半身を、上下成すがままに身をまかせた。
「色々、事情があるかもしれないけど、今日出会った、男女が、ひとつ屋根の下で過ごすなんて、絶対にダメ。今日、おにいちゃんは、どこかの漫画喫茶にでも、泊まって来て!」
恵は、そう言うと、俺にサイフを投げつけて、俺は、俺の部屋から叩き出された。