第15話 第1回 チキチキ・パチスロ勝負
文字数 4,478文字
俺と女神は指定された時刻の少し前、パチンコ屋の前に着き、そこに佇んでいた。なぜなら、そこには誰もおらず店のシャッターもしまっていたからだ。
そうなのだ。
今日は本来、定休日で店は休みのはずであった。
定休日と書かれた紙を貼り付けたシャッターの前でどうしたものかと思考を巡らす。
すると突然、ガチャンと音がするとギーとシャッターが上に開いていった。
シャッターに隠れていた自動ドアが現れ、そしてそのドアが開く。
そこに黒マントを翻して颯爽と登場したのはこの世のものとは思えない美貌の男、堕天使ルシファーである。
「お待ちしておりました。賭事を愛する使徒よ」
ルシファーは、これまた美しい舞のようにこちらにお辞儀をして見せた。
「誰も賭事なぞ愛しておらんわ。
ただ、ワシはパチスロの神になりにきただけじゃ。
この戯け者め」
女神がそう返してもルシファーの優美な仕草は少しも変わることはなく、上半身だけを元の姿勢に戻した。
「そうですか。
やはり、そのパチスロの神になるという野望、なにかの間違えではないようですね・・・。
いいでしょう。
では、その進退を賭けて、いざ尋常に勝負しようではありませんか」
またもや翻したマントの後ろから一人の男が現れた。
ボーボーに伸ばした髪にだらしないジャージ姿。小太りで無精ひげをはやした男。
「あれは・・・」
俺はいつのまにかに呟いていた。
全く見たことのない人間ではない。どこかで会った事のある人だ。
「紹介しましょう。
今日、あなた方の対戦相手となる山田さんです」
山田と紹介された男は、特に挨拶をするでもなくそのジャージからはみ出たお腹をボリボリとひとつ掻いた。
だが、俺はこの男を知っていた。
このパチンコ屋でいつも何故だかメダルを積んでいる。そんな男がこの山田という男だった。
今回、この勝負に店側の選手として出るあたり、どうやらこの山田という男は店側の関係者ということを示唆していた。
考えられるのは、いつもは客のふりをして設定の良い台に座り、いかにもこの店は出しますよと見せかける、いわゆる『サクラ』というやつだ。
今日も当然、高設定の台がどこであるかは教えられているのだろう。高設定の台に座れれば高確率でこの勝負に勝利できるはず。
いわばこの勝負は出来レースなのであった。
「さあ、こちらは山田さんが相手です。
そちらは誰が出場しますか?
女神のセト様? それとも回胴わたるさんですか?」
「えーと、それについては、ちょっと待ってもらえませんか?
もう少しで・・・」
俺がそう言いかけた時。
ヴォンヴォーン
アクセル音がなり、次に道路とタイヤの磨耗したキキーといったブレーキ音がなった。
その音の方を振り返ると、そこには、バイクに跨がり黒いライダースーツを身にまとったセクシーな女性がヘルメットを脱いでいるところであった。
「待たせたわね」
産まれながらにして超幸運の加護を持つ女、豪運寺 紗栄子。
今日のパチスロ勝負を必勝とするべく俺が呼んでおいた助っ人であった。
「それでは今日のルールの説明をします」
パチンコ屋店内に入った4人を前にルシファーは言った。
「まず、対戦は一対一の出玉勝負。午後5時までの収支で決着をつけます。
対象となる機種は、『マイ・ジャングラー』。
それ以外の機種は対象外とします。
12台ある『マイ・ジャングラー』であれば台移動可能としますが2台掛け持ち打ちなどは禁止とします。
また、人の入れ替えもなしで、今日のプレイヤーはお一人様でということでお願いいたします。
ここまで、よろしいでしょうか?」
俺は、納得はいかないがしぶしぶ頷いた。
そしてそれをルシファーは確認した。
「では、チキチキ・パチスロ勝負第1回戦・・・、スタート!」
ルシファーがそう宣言した途端、悪魔サイドの山田という男はその体型に似つかわしくなく素早く走り出し、マイ・ジャングラーの奥の角台に座った。
恐らくその台が当たり台で高設定なのだろう。
一方、紗栄子はどれに座るか、台を迷っていた。
「どの台も座る気にならないわね・・・」
紗栄子はそう言いつつも仕方なく、適当な1台に座りパチスロを回し始めた。
一時間後。
出玉は一方的であった。
山田の回している台は大当たりを7回もしていた。設定6を上回る確立である。出玉は軽く1000枚を越えていた。
それに対して紗栄子の台はまだ1度たりとも大当たりを引いてはいなかった。
おかしい。
紗栄子の引きの強さであれば設定が悪くてもその強運で大当たりをこの時間まで引き当てないとは考えられない。
俺は女神を見ると女神は俺の思考を察し、コクリとひとつ頷いた。
その女神の手を握り、マイ・ジャングラーの黒い小窓を覗き込む。そして何かを確認した俺は再び女神の顔を見て頭を横に振って見せた。
「やっぱり、居ません。あの、ちっさい黒いおっさん」
「やはりのう。
あの小悪魔が居らなんだら、この機械は大当たりしないようになってるんじゃろう。
堕天使めが、昨日の内に小悪魔を台から抜き去っているにちがいない。あの山田とかいう男が打っている台以外はな」
そう言うと女神はルシファーを睨みつけた。
ルシファーはその視線に気付いたものか顔にいやらしい笑みを浮かべる。
「どうしましょうか。このままだと勝負に負けてしまいます」
すると女神のセトは胸の前に腕組みしながらしばしの間、難しい顔をした。
「そうじゃな。このまま手をこまねいていてもどうにもならん。
とりあえず、中に入ってみるかの」
「えっ?! 入るってこのパチスロの中にですか?」
「そうじゃ。それしかあるまいて。中に入ってあのちっこいおっさんを探すのじゃ」
女神は「では行くぞ」と言ったかと思うと片手に拳を握りグーで思い切り俺の鳩尾にパンチしてきた。
いきなり殴られた俺は白目をむきそのまま床に崩れ落ちていった。俺の体が目の前に転がっていく。俺は呆然とその様子を見ることができた。なぜなら、なんと俺は幽体となってそれを見ていたのだ。
殴られたことにより無理矢理、からだ本体と分離させられ、幽体となった事に動揺していた俺。
その腕をガシッと掴まれいきなり引っ張られた。
「早よう行くぞ! このウスノロ!」
腕を引っ張ったのは、いつのまにか同じく幽体となった半透明化した女神のセトだった。
そのまま引っ張られパチスロの台にぶつかる寸前、俺と女神の体は急に小さくなり筐体中央の黒い穴に吸い込まれていったのだった。
黒い穴の中に入るとそこは、黒い壁に覆われ畳のひかれた室内であった。ちょうど俺の住んでいる狭い安アパートとどこか雰囲気が似ている。
「ちょっと散らかってますね」
俺が思わずそう口にすると女神はこう答えた。
「そんな事はどうでもいいのじゃ。
あの黒い小悪魔がどこに行ったのか、まずはその手がかりを探すのじゃ」
俺と女神は早速、その黒い室内の探索を始めた。
部屋の中央にある小さなちゃぶ台、ぐちゃぐちゃになって端によけられている布団、畳に散乱している空の酒瓶。どれも、中年のダメ人間を連想させる有り様だった。
「女神様、ダメですね。どこに行ったかわかるようなものがありません」
俺がそう言うと女神は「クソッ!」とひとつ悪態をつき、何もない壁をドンッと叩いた。
と、その時。
ガチャリ
部屋のドアが開いた。
そこにいたのは紛れもない小さい黒いおっさんであった。
しばし俺達と目があうおっさん。
そして何事もなかったかのようにそのままドアを閉めた。
その刹那、女神が豹のごとく動いた。
凄まじいスピードでドアのところまで走ると、ドアを開け、動揺している小さいおっさんの首根っこを掴み部屋の中まで引きずり込んだ。
「ギャー!
何なんだよ~ん。痛いんだよ~ん」
そうなげくおっさんなぞ少しも気にせず、女神は落ちていたビニール紐でおっさんを動けないようにぐるぐる巻きにした。
「あ、あんたらいったい何者なんだよ~ん」
動けなくなり床に転がったおっさんは言った。
「ワシ等の事はどうでもいいんじゃい。
それよりもお前はどこに行っておったんじゃ?」
「わては、今日、ルシファー様に休みをもらったから、競艇場に行ったんだ~よ。それで財布を忘れたから取りに帰って来たんだよ~ん」
「そうかそうか、競艇場ねえ・・・」
そう言った女神の口元が下世話に上につり上がった。
「いいか、良く聞け。
ワシらは、そのルシファーからの命令を伝えに来たものじゃ。
だからこれから言うことに従うのじゃ」
女神はデタラメなことを言い始めた。
「今日の休みは中止ー!」
「なんですと~、今日、休みじゃなくなったったてことかよ~ん?!」
「その通りじゃ。
じゃからこれからちゃっちゃと働くんじゃ」
「1ヶ月ぶりの休みだと思ったのに・・・。
休みを取り消すなんてやっぱりブラック企業なんだよ~ん」
ちっこいおっさんは涙を流しながらも、大嘘に騙されしぶしぶ従ったのだった。
その後の展開は凄まじいものであった。
紗栄子が100ゲームも回さない内にピカピカとピカリランプが点灯し、あっと言う間に箱にメダルが積まれていった。
しかし、山田も順調に大当たりを積み重ね、どちらが勝っているかは見た目では分からなくなっていた。
PM5:00
「終了です」
ルシファーがパチスロ勝負の終了を告げた。
見た感じだと、両者同じくらい箱を積んでいてどちらが優勢とも言い難い。
勝負はメダル計測機による結果待ちとなった。
まずは、女神チームの紗栄子から計測。
結果、メダル4230枚。
次に、悪魔チームの山田とかいう男。
結果、メダル4275枚。
つまり、俺達は敗北したのだった。
「くそー、あと少しじゃったのにー!!」
女神は悔しがって、頭をかきむしった。
「まあ、打ち始め700ゲームハマりましたからね。あれがなかったら完全にこちらの勝ちだったんですけど」
俺は女神に諭すように言った。
「クックック、残念でしたね女神のセトよ。
45枚差といっても負けは負け。
あと、1回負ければ敗北を認めパチスロの神を諦めて貰いますよ」
本日のパチスロ勝負に勝ち、憎たらしい表情で言うルシファー。
「分かっておるわ、このトンチキ!
要はあと2回連勝すれば良いだけじゃい!
首を洗って待っておれ」
女神はそう負け惜しみを言ったが、この時はまだ勝てる見込みを俺は持っていなかった。
そうなのだ。
今日は本来、定休日で店は休みのはずであった。
定休日と書かれた紙を貼り付けたシャッターの前でどうしたものかと思考を巡らす。
すると突然、ガチャンと音がするとギーとシャッターが上に開いていった。
シャッターに隠れていた自動ドアが現れ、そしてそのドアが開く。
そこに黒マントを翻して颯爽と登場したのはこの世のものとは思えない美貌の男、堕天使ルシファーである。
「お待ちしておりました。賭事を愛する使徒よ」
ルシファーは、これまた美しい舞のようにこちらにお辞儀をして見せた。
「誰も賭事なぞ愛しておらんわ。
ただ、ワシはパチスロの神になりにきただけじゃ。
この戯け者め」
女神がそう返してもルシファーの優美な仕草は少しも変わることはなく、上半身だけを元の姿勢に戻した。
「そうですか。
やはり、そのパチスロの神になるという野望、なにかの間違えではないようですね・・・。
いいでしょう。
では、その進退を賭けて、いざ尋常に勝負しようではありませんか」
またもや翻したマントの後ろから一人の男が現れた。
ボーボーに伸ばした髪にだらしないジャージ姿。小太りで無精ひげをはやした男。
「あれは・・・」
俺はいつのまにかに呟いていた。
全く見たことのない人間ではない。どこかで会った事のある人だ。
「紹介しましょう。
今日、あなた方の対戦相手となる山田さんです」
山田と紹介された男は、特に挨拶をするでもなくそのジャージからはみ出たお腹をボリボリとひとつ掻いた。
だが、俺はこの男を知っていた。
このパチンコ屋でいつも何故だかメダルを積んでいる。そんな男がこの山田という男だった。
今回、この勝負に店側の選手として出るあたり、どうやらこの山田という男は店側の関係者ということを示唆していた。
考えられるのは、いつもは客のふりをして設定の良い台に座り、いかにもこの店は出しますよと見せかける、いわゆる『サクラ』というやつだ。
今日も当然、高設定の台がどこであるかは教えられているのだろう。高設定の台に座れれば高確率でこの勝負に勝利できるはず。
いわばこの勝負は出来レースなのであった。
「さあ、こちらは山田さんが相手です。
そちらは誰が出場しますか?
女神のセト様? それとも回胴わたるさんですか?」
「えーと、それについては、ちょっと待ってもらえませんか?
もう少しで・・・」
俺がそう言いかけた時。
ヴォンヴォーン
アクセル音がなり、次に道路とタイヤの磨耗したキキーといったブレーキ音がなった。
その音の方を振り返ると、そこには、バイクに跨がり黒いライダースーツを身にまとったセクシーな女性がヘルメットを脱いでいるところであった。
「待たせたわね」
産まれながらにして超幸運の加護を持つ女、豪運寺 紗栄子。
今日のパチスロ勝負を必勝とするべく俺が呼んでおいた助っ人であった。
「それでは今日のルールの説明をします」
パチンコ屋店内に入った4人を前にルシファーは言った。
「まず、対戦は一対一の出玉勝負。午後5時までの収支で決着をつけます。
対象となる機種は、『マイ・ジャングラー』。
それ以外の機種は対象外とします。
12台ある『マイ・ジャングラー』であれば台移動可能としますが2台掛け持ち打ちなどは禁止とします。
また、人の入れ替えもなしで、今日のプレイヤーはお一人様でということでお願いいたします。
ここまで、よろしいでしょうか?」
俺は、納得はいかないがしぶしぶ頷いた。
そしてそれをルシファーは確認した。
「では、チキチキ・パチスロ勝負第1回戦・・・、スタート!」
ルシファーがそう宣言した途端、悪魔サイドの山田という男はその体型に似つかわしくなく素早く走り出し、マイ・ジャングラーの奥の角台に座った。
恐らくその台が当たり台で高設定なのだろう。
一方、紗栄子はどれに座るか、台を迷っていた。
「どの台も座る気にならないわね・・・」
紗栄子はそう言いつつも仕方なく、適当な1台に座りパチスロを回し始めた。
一時間後。
出玉は一方的であった。
山田の回している台は大当たりを7回もしていた。設定6を上回る確立である。出玉は軽く1000枚を越えていた。
それに対して紗栄子の台はまだ1度たりとも大当たりを引いてはいなかった。
おかしい。
紗栄子の引きの強さであれば設定が悪くてもその強運で大当たりをこの時間まで引き当てないとは考えられない。
俺は女神を見ると女神は俺の思考を察し、コクリとひとつ頷いた。
その女神の手を握り、マイ・ジャングラーの黒い小窓を覗き込む。そして何かを確認した俺は再び女神の顔を見て頭を横に振って見せた。
「やっぱり、居ません。あの、ちっさい黒いおっさん」
「やはりのう。
あの小悪魔が居らなんだら、この機械は大当たりしないようになってるんじゃろう。
堕天使めが、昨日の内に小悪魔を台から抜き去っているにちがいない。あの山田とかいう男が打っている台以外はな」
そう言うと女神はルシファーを睨みつけた。
ルシファーはその視線に気付いたものか顔にいやらしい笑みを浮かべる。
「どうしましょうか。このままだと勝負に負けてしまいます」
すると女神のセトは胸の前に腕組みしながらしばしの間、難しい顔をした。
「そうじゃな。このまま手をこまねいていてもどうにもならん。
とりあえず、中に入ってみるかの」
「えっ?! 入るってこのパチスロの中にですか?」
「そうじゃ。それしかあるまいて。中に入ってあのちっこいおっさんを探すのじゃ」
女神は「では行くぞ」と言ったかと思うと片手に拳を握りグーで思い切り俺の鳩尾にパンチしてきた。
いきなり殴られた俺は白目をむきそのまま床に崩れ落ちていった。俺の体が目の前に転がっていく。俺は呆然とその様子を見ることができた。なぜなら、なんと俺は幽体となってそれを見ていたのだ。
殴られたことにより無理矢理、からだ本体と分離させられ、幽体となった事に動揺していた俺。
その腕をガシッと掴まれいきなり引っ張られた。
「早よう行くぞ! このウスノロ!」
腕を引っ張ったのは、いつのまにか同じく幽体となった半透明化した女神のセトだった。
そのまま引っ張られパチスロの台にぶつかる寸前、俺と女神の体は急に小さくなり筐体中央の黒い穴に吸い込まれていったのだった。
黒い穴の中に入るとそこは、黒い壁に覆われ畳のひかれた室内であった。ちょうど俺の住んでいる狭い安アパートとどこか雰囲気が似ている。
「ちょっと散らかってますね」
俺が思わずそう口にすると女神はこう答えた。
「そんな事はどうでもいいのじゃ。
あの黒い小悪魔がどこに行ったのか、まずはその手がかりを探すのじゃ」
俺と女神は早速、その黒い室内の探索を始めた。
部屋の中央にある小さなちゃぶ台、ぐちゃぐちゃになって端によけられている布団、畳に散乱している空の酒瓶。どれも、中年のダメ人間を連想させる有り様だった。
「女神様、ダメですね。どこに行ったかわかるようなものがありません」
俺がそう言うと女神は「クソッ!」とひとつ悪態をつき、何もない壁をドンッと叩いた。
と、その時。
ガチャリ
部屋のドアが開いた。
そこにいたのは紛れもない小さい黒いおっさんであった。
しばし俺達と目があうおっさん。
そして何事もなかったかのようにそのままドアを閉めた。
その刹那、女神が豹のごとく動いた。
凄まじいスピードでドアのところまで走ると、ドアを開け、動揺している小さいおっさんの首根っこを掴み部屋の中まで引きずり込んだ。
「ギャー!
何なんだよ~ん。痛いんだよ~ん」
そうなげくおっさんなぞ少しも気にせず、女神は落ちていたビニール紐でおっさんを動けないようにぐるぐる巻きにした。
「あ、あんたらいったい何者なんだよ~ん」
動けなくなり床に転がったおっさんは言った。
「ワシ等の事はどうでもいいんじゃい。
それよりもお前はどこに行っておったんじゃ?」
「わては、今日、ルシファー様に休みをもらったから、競艇場に行ったんだ~よ。それで財布を忘れたから取りに帰って来たんだよ~ん」
「そうかそうか、競艇場ねえ・・・」
そう言った女神の口元が下世話に上につり上がった。
「いいか、良く聞け。
ワシらは、そのルシファーからの命令を伝えに来たものじゃ。
だからこれから言うことに従うのじゃ」
女神はデタラメなことを言い始めた。
「今日の休みは中止ー!」
「なんですと~、今日、休みじゃなくなったったてことかよ~ん?!」
「その通りじゃ。
じゃからこれからちゃっちゃと働くんじゃ」
「1ヶ月ぶりの休みだと思ったのに・・・。
休みを取り消すなんてやっぱりブラック企業なんだよ~ん」
ちっこいおっさんは涙を流しながらも、大嘘に騙されしぶしぶ従ったのだった。
その後の展開は凄まじいものであった。
紗栄子が100ゲームも回さない内にピカピカとピカリランプが点灯し、あっと言う間に箱にメダルが積まれていった。
しかし、山田も順調に大当たりを積み重ね、どちらが勝っているかは見た目では分からなくなっていた。
PM5:00
「終了です」
ルシファーがパチスロ勝負の終了を告げた。
見た感じだと、両者同じくらい箱を積んでいてどちらが優勢とも言い難い。
勝負はメダル計測機による結果待ちとなった。
まずは、女神チームの紗栄子から計測。
結果、メダル4230枚。
次に、悪魔チームの山田とかいう男。
結果、メダル4275枚。
つまり、俺達は敗北したのだった。
「くそー、あと少しじゃったのにー!!」
女神は悔しがって、頭をかきむしった。
「まあ、打ち始め700ゲームハマりましたからね。あれがなかったら完全にこちらの勝ちだったんですけど」
俺は女神に諭すように言った。
「クックック、残念でしたね女神のセトよ。
45枚差といっても負けは負け。
あと、1回負ければ敗北を認めパチスロの神を諦めて貰いますよ」
本日のパチスロ勝負に勝ち、憎たらしい表情で言うルシファー。
「分かっておるわ、このトンチキ!
要はあと2回連勝すれば良いだけじゃい!
首を洗って待っておれ」
女神はそう負け惜しみを言ったが、この時はまだ勝てる見込みを俺は持っていなかった。