第12話 リーノ
文字数 4,185文字
朝。
部屋の中心に置かれたちゃぶ台の上には、早朝に妹の恵が作ってくれておいた朝食があった。
それを挟んで俺と女神様は対座している。
目の前で女神様はまだ朝だというのに思春期の若者のようにガツガツとご飯を口の中にかき込んでいた。
俺の方は箸も持たず右手で顎を摘まみ、頭の中で悩ましく考え事をしていた。何を考えていたかと言うとそれは目の前の女神についてだ。
この女神、美しい幼女の姿とは裏腹に、兎に角、怒りっぽい。その怒りようは凄まじく、特にパチスロで負けた時などには、怒りにまかせて俺の股間を執拗に蹴り上げてくる。完全に八つ当たりのとばっちりである。
言うまでもなくパチスロの勝敗はあくまでも自己責任だ。打つか打たないかは自身が決めた事であり、その結果、いくら負けようとも自分の責任なのだ。
それをあろう事か、この女神は負けた要因を俺のせいだと決めつけ、男の急所目掛けて躊躇無くその足を蹴り上げてくる。
このままではいかん。このままこの女神が負け続けて、そのたびに俺の股間が痛め続けられたら、俺のいちもつは機能を失い、子供が産めなくなっちゃうかも。
そう考えに至り、俺はどうしたものかと目の前の美しくもドSの女神に目をやった。
すると、その視線に気付いたものか女神の動きがピタッと止まった。
「なんじゃい、おぬし。さっきから難しい顔して。
飯を食わんのか?
食わんのならワシが代わりに食ってやるぞ!」
そう言うと女神は、俺の前にあった俺用の目玉焼きを奪ってゆき、再び、ガツガツと飯を口の中に掻き込んだ。
それを見て俺が誰の為にこんなに悩んでいるのか、この女神は本当に分かっちゃいない事を痛感した。
「はあ~」
俺は大きくため息をつき、がっかりしつつ目線を下に降ろした。
するとその目線の先にみずみずしい真っ赤なトマトがひとつ。
それは妹の恵が忙しくスライスする時間がなかったのか、まるまるとそのままの姿で白い皿の上においてあった。
しばらくその赤いトマトを見やる俺。
・・・・・・。
しかし、あることを思いつき今まで沈んでいた俺の目は一気に爛々と輝いた。
そうだ、トマトだ。
トマトを揃えれば良いんじゃね!
「(と言うわけで)今日はこの機種を打って頂きます」
そう言いながら俺はパチンコ屋の中で一台のパチスロ台を示しながら堂々と宣言した。
見るとそのパチスロ台は液晶などはなくシンプルで下パネルには英語で『リーノ』と文字打ってあり、リールにはトマトを模した図柄がいくつか描かれているのがわかった。
「なんじゃ、また、新しい台かの? 前と違って勝てる機械なんであろうな?」
そう言った女神に俺は怪訝な視線を向けた。
全く持って本当にこの女神は、パチスロの本質というものが分かっていない。
勝てるか勝てないかは、所詮はその時の自分次第なのだ。
新しいい台であろうとそうでなかろうとそんなのは関係はない。
いいだろう。今日は、その辺のところを徹底的に思い知らせてやろうではないか。
「勝てるかどうかは、まあ、置いといてとりあえず打っていきましょうか」
俺は思いとは裏腹に出来るだけ表情を和らげ、とんちんかんな事を言う女神をリーノの前に座るように促した。
「良いですか、今日は、ちょっといつもとは違う打ち方で打っていきます。
いつもなら、リールを左、中、右の順で止めていましたが、今日は逆で右、中、左の順にリールを止めて行きます。
これを逆押しと言うのですが、何故そうするかと言うと、『トマトチャンス』というものを見抜く為です。
逆押しを続けていると右リールを止めた時、ほとんどはリール下段にトマトが止まるのですが、稀にリール上段にトマト図柄が止まることがあります。この時が、『トマトチャンス』となります。『トマトチャンス』が何であるかは、また、あとで説明しますが、まずは、それを目指してみて下さい」
「ふむふむ、右からリールを止めて上段にトマトが来たら、そのトマトなんちゃらになるという事じゃな。よし分かった、とりあえずそれを目指してみようかの」
女神はそう言うと早速、右、中、左とリールを止めて打ち始めた。
すると、右リールのトマト図柄は、かならず下段に止まっていたが、しかし、打ち始めてから95ゲーム目、何の予兆もなく突然、右リール上段にトマト図柄が止まった。
「あっ! 来ました。『トマトチャンス』です。
こう来たら、まずは、中リールを適当に止めてみて下さい。そうすると、トマトが水平か斜めかにテンパイします」
女神は言われた通り、中リールを止めるとトマト図柄が中断に止まり、斜めにトマトが2つ並んだ。
「さて、ここからが問題です。今、回っている左リールは、『黒バー』か『青7』か『コイン図柄』かを狙います。もし、それが正解であれば、トマト(or黒バー)が斜めに揃います。そうなれば、大当たり確率が大幅に高くなった連荘モードに突入します。なので、自分が正解だとおもう図柄を狙ってリールを止めてみて下さい」
「『黒バー』か『青7』か、それと『コイン』?
なんか良く分からんが、正解しないとその連荘モードに入らないという事か。
ふむ、ようは、その1/3を当てて見せよということじゃな。
うーん、どうしよう。とりあえず『青7』にするかの。何となくそんな気がするし」
そう言うと女神は左リールの『青7』を目掛けてリールを止めた。
しかしそこに『青7』は止まらず、ズルッと滑って下段にトマト図柄が止まり、斜めに3つのトマトが揃った。
「おめでとうございます。正解してトマトが揃いました。
これで、連チャンモードに入りました」
「ウハハハハ、ワシを誰じゃと思ってるんじゃ。
この世ものざる天界の女神じゃぞ。
三択問題なぞ朝飯前じゃい」
女神は、女神とは思えぬ下卑た笑いを晒しながら高らかに言った。
その後、その台は大当たりを5回連チャンして持ちメダルは1000枚近くなった。
「はあ~、やっぱりワシはパチスロの天才なんじゃなかろうか? こんな短時間で出玉がこれだけ出たぞ。
全く負ける気がせぬよな」
「女神様、女神様。そうは言ってももう大当たり後50ゲーム回して当たりが来ていません。
どうやら、連チャンモードを通過してしまったようです」
「なに? まことか?
まあ、そうだとしても、また、トマトを揃えれば良いのじゃろ?
そんなの簡単、簡単」
女神は、こう言ったものの次のトマトチャンスはなかなか来なかった。チャンスが来たのは、連チャンが終わり312ゲーム回した時、左リール上段にトマト図柄が止まった。
「はあ、やっと来おったか。なかなか、気を持たせてくれるでないか。
じゃ、ちゃっちゃとトマトを揃えるかの。
えーと、さっきは、『青7』だったから次は『黒バー』か『コイン』かな・・・。
なんて見せながら、まさかの連続『青7』狙いじゃい!」
誰にフェイントをかけているのやら、女神は勢いよく左リール『青7』を狙いボタンを押した。
だが、ビタッと『青7』がそこに止まりトマトは揃わなかった。
「クソッ! 『青7』じゃなかったか。
コンチキショウめ!」
その後も、452、512、632、753、843ゲーム目と5回もトマトチャンスはやってきたが、いずれも『青7』狙いで3択を外してしまった。
「なぜじゃ、3分の1で来るはずじゃろ。だとしたら、もう2回は来ててもよかろうもんじゃ。
いや、だが、来る!
必ず『青7』一本狙いをしていればトマトはいつかは揃うはずじゃ。
だから、次。
次は必ず『青7』が来るはずなんじゃ!」
トマトチャンスを6連続外した事により、女神は完全に頭にきていた。
イライラして、女神は爪を噛む。
とその時、963ゲーム目。
右リール上段にトマトが止まり、トマトチャンスがやって来た。
「『黒バー』狙いね」
俺と女神は思いがけないところで声をかけられ、その声のした方、後ろを振り向いた。
「お前は、紗栄子。何でこんなところに・・・」
そこにいたのはセクシーな黒いライダースーツを着こなす美女。最強の幸運を加護に持つ女、豪運寺 紗栄子であった。
「あら、私がどこにいようと私の勝手じゃないかしら。
まあ、たまたま通りがかったから覗きに来ただけなのだけれど。
それにしても、あなた、本当にこのちびっ子にパチスロを教えているのね。冗談だと思ってたのに」
俺が紗栄子の出現に驚いて呆然としているところにいきなり女神が割って入ってきた。
「今、おぬしは『黒バー』と言ったのか? 『青7』ではなく『黒バー』と・・・」
「ええ、そうよ。わたしだったら『黒バー』にかけるわ」
女神はその心情が分かり易く、頭を両手で抱えた。
「今までずっと『青7』で突っ張って来たのに、ここで『黒バー』じゃと。6回もスルーされて、今さら降りろというのか?
次こそは『青7』と思って育てて来たというのに・・・。
じゃが、この女の強運は本物じゃ。それは以前、目の当たりにしており疑いようはない。
だとしたら、ここはあ奴を信じて・・・。
良し! 決めた!」
女神は意を決してリーノに向き直り、左リール停止ボタンを思い切り押した。
狙ったのは、紗栄子が言った『黒バー』だ。
すると、左リールの黒バーはビタッと止まったかに一瞬、見えたような気がしたが、ズルッと滑り『赤7』がビタリと止まった。
トマト揃いはしなかった。
『黒バー』はハズレであった。
「あら、残念。ハズレちゃったわ」
紗栄子は、悪びれもなく愉しげに言った。
女神のセトはというと、額をパチスロ台に押し当てて、プスプスとまるで燃え尽きた灰のようになっていた。
なぜ、あの時、自分を信じず他人が言った事を信じてしまったのか。いくら後悔しても時間は巻き戻らない。
パチスロは全て自己責任。
今回ばかりは、わたるの目論見とおり、それを痛感するしかない女神であった。
部屋の中心に置かれたちゃぶ台の上には、早朝に妹の恵が作ってくれておいた朝食があった。
それを挟んで俺と女神様は対座している。
目の前で女神様はまだ朝だというのに思春期の若者のようにガツガツとご飯を口の中にかき込んでいた。
俺の方は箸も持たず右手で顎を摘まみ、頭の中で悩ましく考え事をしていた。何を考えていたかと言うとそれは目の前の女神についてだ。
この女神、美しい幼女の姿とは裏腹に、兎に角、怒りっぽい。その怒りようは凄まじく、特にパチスロで負けた時などには、怒りにまかせて俺の股間を執拗に蹴り上げてくる。完全に八つ当たりのとばっちりである。
言うまでもなくパチスロの勝敗はあくまでも自己責任だ。打つか打たないかは自身が決めた事であり、その結果、いくら負けようとも自分の責任なのだ。
それをあろう事か、この女神は負けた要因を俺のせいだと決めつけ、男の急所目掛けて躊躇無くその足を蹴り上げてくる。
このままではいかん。このままこの女神が負け続けて、そのたびに俺の股間が痛め続けられたら、俺のいちもつは機能を失い、子供が産めなくなっちゃうかも。
そう考えに至り、俺はどうしたものかと目の前の美しくもドSの女神に目をやった。
すると、その視線に気付いたものか女神の動きがピタッと止まった。
「なんじゃい、おぬし。さっきから難しい顔して。
飯を食わんのか?
食わんのならワシが代わりに食ってやるぞ!」
そう言うと女神は、俺の前にあった俺用の目玉焼きを奪ってゆき、再び、ガツガツと飯を口の中に掻き込んだ。
それを見て俺が誰の為にこんなに悩んでいるのか、この女神は本当に分かっちゃいない事を痛感した。
「はあ~」
俺は大きくため息をつき、がっかりしつつ目線を下に降ろした。
するとその目線の先にみずみずしい真っ赤なトマトがひとつ。
それは妹の恵が忙しくスライスする時間がなかったのか、まるまるとそのままの姿で白い皿の上においてあった。
しばらくその赤いトマトを見やる俺。
・・・・・・。
しかし、あることを思いつき今まで沈んでいた俺の目は一気に爛々と輝いた。
そうだ、トマトだ。
トマトを揃えれば良いんじゃね!
「(と言うわけで)今日はこの機種を打って頂きます」
そう言いながら俺はパチンコ屋の中で一台のパチスロ台を示しながら堂々と宣言した。
見るとそのパチスロ台は液晶などはなくシンプルで下パネルには英語で『リーノ』と文字打ってあり、リールにはトマトを模した図柄がいくつか描かれているのがわかった。
「なんじゃ、また、新しい台かの? 前と違って勝てる機械なんであろうな?」
そう言った女神に俺は怪訝な視線を向けた。
全く持って本当にこの女神は、パチスロの本質というものが分かっていない。
勝てるか勝てないかは、所詮はその時の自分次第なのだ。
新しいい台であろうとそうでなかろうとそんなのは関係はない。
いいだろう。今日は、その辺のところを徹底的に思い知らせてやろうではないか。
「勝てるかどうかは、まあ、置いといてとりあえず打っていきましょうか」
俺は思いとは裏腹に出来るだけ表情を和らげ、とんちんかんな事を言う女神をリーノの前に座るように促した。
「良いですか、今日は、ちょっといつもとは違う打ち方で打っていきます。
いつもなら、リールを左、中、右の順で止めていましたが、今日は逆で右、中、左の順にリールを止めて行きます。
これを逆押しと言うのですが、何故そうするかと言うと、『トマトチャンス』というものを見抜く為です。
逆押しを続けていると右リールを止めた時、ほとんどはリール下段にトマトが止まるのですが、稀にリール上段にトマト図柄が止まることがあります。この時が、『トマトチャンス』となります。『トマトチャンス』が何であるかは、また、あとで説明しますが、まずは、それを目指してみて下さい」
「ふむふむ、右からリールを止めて上段にトマトが来たら、そのトマトなんちゃらになるという事じゃな。よし分かった、とりあえずそれを目指してみようかの」
女神はそう言うと早速、右、中、左とリールを止めて打ち始めた。
すると、右リールのトマト図柄は、かならず下段に止まっていたが、しかし、打ち始めてから95ゲーム目、何の予兆もなく突然、右リール上段にトマト図柄が止まった。
「あっ! 来ました。『トマトチャンス』です。
こう来たら、まずは、中リールを適当に止めてみて下さい。そうすると、トマトが水平か斜めかにテンパイします」
女神は言われた通り、中リールを止めるとトマト図柄が中断に止まり、斜めにトマトが2つ並んだ。
「さて、ここからが問題です。今、回っている左リールは、『黒バー』か『青7』か『コイン図柄』かを狙います。もし、それが正解であれば、トマト(or黒バー)が斜めに揃います。そうなれば、大当たり確率が大幅に高くなった連荘モードに突入します。なので、自分が正解だとおもう図柄を狙ってリールを止めてみて下さい」
「『黒バー』か『青7』か、それと『コイン』?
なんか良く分からんが、正解しないとその連荘モードに入らないという事か。
ふむ、ようは、その1/3を当てて見せよということじゃな。
うーん、どうしよう。とりあえず『青7』にするかの。何となくそんな気がするし」
そう言うと女神は左リールの『青7』を目掛けてリールを止めた。
しかしそこに『青7』は止まらず、ズルッと滑って下段にトマト図柄が止まり、斜めに3つのトマトが揃った。
「おめでとうございます。正解してトマトが揃いました。
これで、連チャンモードに入りました」
「ウハハハハ、ワシを誰じゃと思ってるんじゃ。
この世ものざる天界の女神じゃぞ。
三択問題なぞ朝飯前じゃい」
女神は、女神とは思えぬ下卑た笑いを晒しながら高らかに言った。
その後、その台は大当たりを5回連チャンして持ちメダルは1000枚近くなった。
「はあ~、やっぱりワシはパチスロの天才なんじゃなかろうか? こんな短時間で出玉がこれだけ出たぞ。
全く負ける気がせぬよな」
「女神様、女神様。そうは言ってももう大当たり後50ゲーム回して当たりが来ていません。
どうやら、連チャンモードを通過してしまったようです」
「なに? まことか?
まあ、そうだとしても、また、トマトを揃えれば良いのじゃろ?
そんなの簡単、簡単」
女神は、こう言ったものの次のトマトチャンスはなかなか来なかった。チャンスが来たのは、連チャンが終わり312ゲーム回した時、左リール上段にトマト図柄が止まった。
「はあ、やっと来おったか。なかなか、気を持たせてくれるでないか。
じゃ、ちゃっちゃとトマトを揃えるかの。
えーと、さっきは、『青7』だったから次は『黒バー』か『コイン』かな・・・。
なんて見せながら、まさかの連続『青7』狙いじゃい!」
誰にフェイントをかけているのやら、女神は勢いよく左リール『青7』を狙いボタンを押した。
だが、ビタッと『青7』がそこに止まりトマトは揃わなかった。
「クソッ! 『青7』じゃなかったか。
コンチキショウめ!」
その後も、452、512、632、753、843ゲーム目と5回もトマトチャンスはやってきたが、いずれも『青7』狙いで3択を外してしまった。
「なぜじゃ、3分の1で来るはずじゃろ。だとしたら、もう2回は来ててもよかろうもんじゃ。
いや、だが、来る!
必ず『青7』一本狙いをしていればトマトはいつかは揃うはずじゃ。
だから、次。
次は必ず『青7』が来るはずなんじゃ!」
トマトチャンスを6連続外した事により、女神は完全に頭にきていた。
イライラして、女神は爪を噛む。
とその時、963ゲーム目。
右リール上段にトマトが止まり、トマトチャンスがやって来た。
「『黒バー』狙いね」
俺と女神は思いがけないところで声をかけられ、その声のした方、後ろを振り向いた。
「お前は、紗栄子。何でこんなところに・・・」
そこにいたのはセクシーな黒いライダースーツを着こなす美女。最強の幸運を加護に持つ女、豪運寺 紗栄子であった。
「あら、私がどこにいようと私の勝手じゃないかしら。
まあ、たまたま通りがかったから覗きに来ただけなのだけれど。
それにしても、あなた、本当にこのちびっ子にパチスロを教えているのね。冗談だと思ってたのに」
俺が紗栄子の出現に驚いて呆然としているところにいきなり女神が割って入ってきた。
「今、おぬしは『黒バー』と言ったのか? 『青7』ではなく『黒バー』と・・・」
「ええ、そうよ。わたしだったら『黒バー』にかけるわ」
女神はその心情が分かり易く、頭を両手で抱えた。
「今までずっと『青7』で突っ張って来たのに、ここで『黒バー』じゃと。6回もスルーされて、今さら降りろというのか?
次こそは『青7』と思って育てて来たというのに・・・。
じゃが、この女の強運は本物じゃ。それは以前、目の当たりにしており疑いようはない。
だとしたら、ここはあ奴を信じて・・・。
良し! 決めた!」
女神は意を決してリーノに向き直り、左リール停止ボタンを思い切り押した。
狙ったのは、紗栄子が言った『黒バー』だ。
すると、左リールの黒バーはビタッと止まったかに一瞬、見えたような気がしたが、ズルッと滑り『赤7』がビタリと止まった。
トマト揃いはしなかった。
『黒バー』はハズレであった。
「あら、残念。ハズレちゃったわ」
紗栄子は、悪びれもなく愉しげに言った。
女神のセトはというと、額をパチスロ台に押し当てて、プスプスとまるで燃え尽きた灰のようになっていた。
なぜ、あの時、自分を信じず他人が言った事を信じてしまったのか。いくら後悔しても時間は巻き戻らない。
パチスロは全て自己責任。
今回ばかりは、わたるの目論見とおり、それを痛感するしかない女神であった。