第2話 ああ↓女神さま

文字数 2,288文字

 場面は変わり、安アパートの部屋の中。
 俺は正座し、先ほど股間を蹴り上げてきた美少女と向き合っていた。美少女は、俺が用意した、三段重ねの座布団に、胡座をかき、明らかに嫌そうな顔をして、そっぽを向いている。

「えっと、あの、神様の使いなんですよね?」

 俺は、なんとも間がもたず、美少女に聞いてみた。すると、美少女は、顔をこちらに向けて、怒鳴るように言った。

「ああん!誰が神の使いじゃと?そんな低俗の者じゃない! わしが神なんじゃ! 崇高な女神なんじゃい! 見ればわかるじゃろ!」

「わかります、わかります。間違いました、見ればわかりました、女神様。それで、えっと、パチスロの件で来られたんですよね?」

 女神は、ぐっと歯をくいしばり、苦虫を噛んだような顔をして応えた。

「そうじゃ、その通りじゃ。おぬしに、パチスロの事を習いに来たんじゃ」

「それにしては、その、なんて言うか、凄く嫌そうな気がするんですが・・・。」

 すると、目を、カッと見開いて、女神は言った。

「ああ、嫌じゃ嫌じゃ。なんでワシが、悪魔の作った機械の事を習わなくちゃならないんじゃ。そもそも、ワシは、そんなチンケな物に関わるような神ではない。古くは、アトランティスが存在していた頃には、そこの神として、盛大に信仰されておったもんじゃい。」

「ええっ!すごい!アトランティスは、本当にあったんですね?」

「そうじゃ、あったとも。じゃが、水没してしまったがの」

「・・・、えーと、アトランティスが水没した後は、どうしていたんですか?」

「次は、古代ローマ帝国じゃ。そこでも、ほとんどの者が、ワシを強く崇めておった。まあ、滅亡してしまったがの」

「・・・、えっと、じゃあ、最近、最近は何の神様だったんですか?」

 女神は、こう、問われると、急に俯いて、小さくなった声で応えた。

「洗濯板じゃ」

「え?」

 俺は、聞き間違えをしたのかと思い、疑問の声をあげてしまった。
 すると、女神は激怒し、大声で怒鳴った。

「だから、洗濯板! 洗濯板の女神じゃ!!!」

 俺は、この応えに思考がついていけず、口を開けたまま、ポカーンとしていた。
 女神は、それを見かねたのか、話を続けた。

「ワシもなんでこうなったのか、よう分からん。分からんけど、何かの神に成る度に、対象そのものが消滅していったんじゃ。成るもの、成るもの、無くなってゆき、それで、気付けば、洗濯板じゃった。じゃが、その洗濯板も、もう全滅寸前となり、神の必要性がなくなった。そこで、白羽の矢が当たり、パチスロの神となるように命が下ったということじゃ」

 つまりは、今まで、いろんなものの神になって来たが、その度に、そのもの自体が消滅して来て、洗濯板に至ったと言うことらしい。俺は、これを聞き、パチスロの神にして良いのか、少し戸惑った。もし、この女神がパチスロの神となったら、パチスロも消滅してしまうのではないかと。

「あの~、そんなにパチスロの神様に成るのが嫌なのだったら、他の神様に代わってもらえばどうですかねえ?」

「そんな事、出来るならとっくにやっとるわ! 
 良いか、心して良く聞け。
神と言っても、それぞれの神は信仰の対象になるものを必ずひとつ以上持っておる。そして、その対象への信仰心が、神の存在理由にして、神の持つ力そのものとなるのじゃ。信仰心が、大きければ大きいほど、その神の起こせる奇跡は強いものとなる。逆に信仰心を多く集められなければ、その力は弱いものとなり、信仰心が全く無くなれば、神そのものが、消滅してしまうのじゃ。
それを踏まえて、今のワシを見ると、実体もおろそかに、存在自体が風前の灯火じゃ。是が非でも、次の信仰の対象となるものが必要なんじゃ。
 そこで、神の上位にあたる五体神のジジイ共に呼ばれ、言い渡されたのは、パチスロの神になれという命令じゃ。ワシは、そんな悪魔の作った機械なぞ、絶対に嫌じゃと断った。じゃが、散々、信仰対象を滅亡させてきたワシへ用意出来るものは、もう他に何もないと言われてしもうた。つまりは、ワシの持つ選択肢はパチスロの神になるしかなく、もし、ならなければ、消滅してしまえと言うことなんじゃ。」

 俺は、この女神が、パチスロの神にならなければいけない理由を聞き、とても可哀想に思えてきた。今、目の前にいる少女が消えてしまうなんて、絶対に許してはならない事だ。それこそ、パチスロの未来を心配する以上に。

「女神様、そうパチスロのことを毛嫌いしないで下さい。この日本には、パチスロを愛し、パチスロをする人は、何百万人といるんですから」

 こう聞いた女神の眉毛が、ピクリと動いた。

「何百万人? 今、何百万人と言ったのか?」

「はい、恐らくパチンコを含めれば、何千万人かになりますよ」

「何千万!? そんなにいるとは! もし、それらが、ワシへと信仰心を持ってくれたなら・・・。」

「ええ、恐らく、凄い力になるのではないかと」

 それを聞いた女神は、俯いて、座布団の上でゆらりと立った。

「ふ・ふ・ふ・・・。ふふ、ふ・・・」

「?」

 すると女神は、上半身をのけ反らして、狂気じみた笑い声を上げた。

「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーー、ハッハッハッ!!!
やろう! やってやろうではないか、パチスロの神を。
 例え、この身が悪魔に成り果てようとも!」

「いや、ダメでしょ、悪魔になっちゃ!」

 俺は、始めて神様につっこみをいれた。
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