第13話 マゾリスク《絆》
文字数 4,861文字
時間は午前を過ぎ、丁度お昼を過ぎた頃。
「お兄ちゃん、そろそろお昼ごはんにしたいのだけど・・・」
土曜日で学校が休みであった恵は私服にエプロンという格好で困った顔で俺に向かって問いかけた。
それに対して俺は「う~ん」と唸り声をひとつたて、腕を前に組み同じように困ってしまった。
何故なら、お昼ごはんにするには食卓となる机をひとつ設けなくてはならない。只でさえ狭い6畳一間のこの部屋に恵の引っ越し用のダンボールが積み重ね、机が置ける場所は部屋の中心部しか他はなかった。
しかし、今、部屋の真ん中には一枚の布団がひかれ、その布団を頭から被り籠城さながら引きこもっている者がひとり。
それが誰かは言うまでもなく、短気ながら見た目だけは美しい、女神のセトであった。
このところパチスロで負けが込み、昨日はパチスロ『リーノ』で散々、トマトチャンスの三択を外して自分(と世の中)が信じられなくなり、ふてくされて布団から出て来ないのである。
「はあ~」
俺は大きくため息をつき、丸まった人ひとり分、小山となっている布団の傍らへとやって来た。
「えーと、女神、じゃなくて、せ、セトさん。
パチスロに負けて落ち込むのはわかるのですが、そろそろ布団をたたみたいので起きてくれませんか?
いつまでもそうしてても負けたものはどうしようもないのですから」
すると小山となっている布団の一角から怒りをあらわにした真っ赤な女神の顔だけが亀の頭のように出てきた。
「うるさいわい! この朴念仁!
なんでワシがこんな悲しい思いをせにゃならんのじゃ!
そもそも、パチスロなんてやらせるのが間違っておるのじゃ。
ワシがこんな気持ちになるのも、全部、お主のせいなんじゃい!」
「そうは言ってもパチスロのことを知りたいと言ったのはそちらじゃないですか。
パチスロなんて勝ったり負けたりするものですし、昨日もたまたま負けただけですって。
だから、昨日の事はもう忘れて立ち直ってはもらえませんか?」
「昨日の事を忘れろじゃと?
だったら、昨日負けた5万円、耳をそろえて返すがいい。
そうしたらなかった事にしてやらんでもないぞ」
「返すもなにも、昨日、負けたのはセトさんが打ち続けたせいじゃないですか。
はじめに来た5連チャンで止めておけば勝てていたのに、次は必ず来るはずと言って止めなかったのはセトさんじゃないですか?
何で俺がそのお金を返さないといけないんですか?」
「うるさい! うるさい! うるさい!
たかだか数十年生きているだけの人間がこの崇高なるワシに意見するなどおこがましい!
もうええわい!
お主と話すことなどもうないわ!
ワシはアニメでも観ながら今日1日、ここでふて寝するんじゃい。
邪魔するな、ボケ!」
売り言葉に買い言葉。
話をすればするほど布団の中への籠城は頑ななものになるのであった。
すると女神のセトはその布団から手を伸ばしてTV用のリモコンをそちらに向けた。
ここ2、3日の間、女神は過去に俺の撮りためてあったアニメを観るという楽しみを覚えていた。パチスロをしていない時は大体これをして時間を潰す。
慣れた手つきでボタンを押して録画した番組を画面に表示した。
カッコいい音と共に始まったアニメのオープニングムービー。
「あれ、このアニメって・・・」
俺はそれを観ながら人知れず呟いてしまった。
そしてそれを女神に聞かずにはいられなかった。
「セトさん、セトさん。このアニメ、お好きなんですか?」
「ああん?
なんじゃい、このゴミくずニートが。
このアニメが好きかじゃと?
ああ、好きじゃ。大好きじゃとも!
パチスロするよりも、このアニメ観ている方が断然、有意義に時間を潰せるというものじゃ。
なんか文句でもあるんかい?!」
「文句なんてありません、ありません。
ただ、ひとつだけお知らせしたい事がありまして・・・。
えーと、実はこのアニメ、パチスロ化されてます」
「なっ、なんじゃと?!」
突然、布団の中の籠城を突き破り、立ち上がった女神。
その目には見たことがないくらいキラキラと輝く好奇の光が灯っていた。
「まさか、パチスロで会えるとは思いもせんかったぞ。
権ノ介・・・」
パチンコ屋の中でそう呟く女神の前には一台のパチスロ台がそこにあった。
ー マゾリスク《絆》 ー
パチスロ台の下パネルには大きくそう文字打っていた。
喜びとも困惑ともみれる表情をした女神を前に俺はその様子を見ていた。
「こんな時間から出勤なんて珍しいじゃない。
わ・た・る・君」
何とも艶っぽい声をかけられ、俺は声のした後ろを振り返った。
そこにいたのは、胸元を大きく開いたシャツにミニスカートという刺激的な姿で、いい匂いが漂ってきそうな魅力的な女性。
ここのパチンコ屋の従業員のひとり。名前はヨーコさんだ。
俺とは長年パチンコ屋に通うことで何とか度々話すような仲になっていた。
「こんにちは、ヨーコさん。
今朝は色々あって朝一番に並べなかったんですよ。
それにしても、このマゾリスク《絆》、相変わらず人気なんですね。一台だけでも空いていて良かったです。
「そうね。店開けたら大体、この機種から埋まっちゃうものね。
今、座ろうとしているこの一台も今さっき空いたばかりですもの。
座れてラッキーだったわね」
そう言われて俺も悪い気はせず、何となくいい気分になった。座れても勝負に負ければ損をするだけなのだが。
「でも、本当のラッキーはこれから、か・も・ね」
俺はその言葉の意味をどう受け取ったものか分からず、戸惑っていると、「それじゃ、頑張ってね~」と一言残し、ヨーコさんは仕事に戻って行ってしまった。
さて、このマゾリスク《絆》と言う台である。
先ほども言った通り、この機種は大人気であり、イベントなどある場合は、ほぼ朝一番に満台(いっぱい)になる。
そのゲーム性は、まず通常時から、チャンスゾーン(CZ)を目指し、そのチャンスゾーンを見事クリアすると、ARTに当選する。このARTをループもしくは継続させて出玉を稼ぐ仕様である。ARTは、期待値1Gあたり2.8枚メダルが増加し、ART1ループあたり40G。つまり、2.8枚×40GでARTを1回で112枚の獲得が期待される。これをうまくループさせればじゃんじゃかメダルが増えていき、その増加速度に中毒者が続出するという具合である。
「女神様、それでは順押しで、普通に回していってみて下さい」
まさかパチスロで好きなアニメのキャラクターに会えるとは思っておらず、これだけで感無量といった感じで涙目になっている女神に俺はパチスロを回すように促した。
「うむ。それでは、行くぞ」
と言い、目の前のパチスロ台を回し始めた。
回し始めてから丁度100G後、熱い演出が液晶画面に映し出された。
その後、『狙え!』画面からCZに突入。
権之助モードを選択して、液晶には、1000人討伐しろと、怪しい忍者が登場する。
ナビベルを出すとその討伐人数が徐々に減っていく。
1回目のナビベルで895人。
2回目のナビベルで756人。
そして、3回目のナビベルを揃えた時、突然、権之助の顔がアップになり討伐人数が0人に変わった。
「こ、これは・・・」
俺は、あまりの事に呻くように声を出してしまった。
権之助モード中、3回目のナビベルで討伐を完了することが何を意味するのか、俺はもちろん心得ていた。
「設定6だ・・・。
まさか、生きているうちに出会えるとは思わなかった!
この台は、まさかの最高設定だ!」
そう興奮しながら息巻く俺を、何が起ったのか意味がわからないと、キョドキョドする女神様。
しかし、その意味は、出玉が語ってくれた。
そのCZ後、見事ARTに昇格し、そのARTがループを始めた。
その回数、32回。
これだけで、約3000枚はメダルが出た。
「うわ~、出た。
メダルをこんなに出してしまった。
良し、ここじゃ。
昨日のような醜態はもう晒さぬぞ。
ここが止め時じゃい!」
「いいえ、女神様。
昨日と、今日とでは条件が違います。
何と言っても、マゾリスク《絆》の最高設定が確定しています。
この台、もっと出ます!
だから、今、止めるのなんてもったいないです。」
「何を言っておるんじゃ?
勝っているうちに止めるのが吉であろう。
そうやって欲をかくから負けるんじゃい!」
「普通はそうかもしれませんが、今日だけは違うんです。本当に俺を信じて下さい。
いいですか、女神様。
この台、打てば打つだけメダルが出ます。
最高設定示唆を確定した以上、閉店まで打つしかない状況なんです。
もし、出なかったら、その損失は、俺が補填します。
なので、どうかこのまま打ち続けて下さい!」
「ぐぬぬぬぬ、本当にこのまま打って負けたらその分、お前が補填するというのじゃな。
良し、よかろう。
そのかわり、絶対の絶対に負けたら金をもらうからな!」
「はい! 絶対の絶対に!」
俺は何とか止めようとする女神を説得してパチスロを続けさせることを成功させた。
だが、この判断は、間違えようはなかった。
さすがに設定6だけあって、軽い当たりにARTもすぐつき、さらにループを繰り返すという挙動を何度も繰りかえした。
メダルは、右肩上がりにどんどん増えて行き、勢い衰えず。
結局、閉店間際までその傾向のままで、獲得したメダル15000枚近くなった。
「のう、わたるよ。
やはり、ワシはパチスロの天才なのかもしれない。
パチスロの神となるのは、ワシと運命付けられておるのじゃ。
なあ、おぬしもそう思うであろう?」
悩まし気にそういう女神に、俺はどう返事をしたものか分からず、愛想笑いを浮かべた。
しかし、15000枚は凄い。例え、設定6であろうともこれだけ出るのは稀なのではないであろうか。
確かに、これだけ出せばパチスロの神を名乗ってもいいのかもしれない。
そういえば、この台を回す前に、店員のヨーコに何か言われたのも何かを示唆していたのかも。
女神と俺はメダルを流し景品交換所に行き大量の換金用景品と交換。それをもって外に設置してある換金所に向かった。
換金所は混んでいて、しかも、並んでいる客は俺達が最後のようであった。
「これだけの景品を持っていると、誰かに奪われるかも。
しっかり用心しなくてはなるまい」
すっかり用心深くなった女神様はその後、自分の番が来るのを待ち、やっとその時がやってきた。
手の平程の窓口の前に大量の換金用景品を置いた。
すると、その窓口から手が伸びてきて、景品を鷲掴みに何度か持っていった。
しばらく、現金化されるのを待つ。
メダルにして、15000枚程。現金に換算すると30万円は下らないはずである。
ところが、である。
チャリーン
払いだされた現金は、500円玉一枚だけであり、それ以上は何も出て来なかった。
「はあああああああああ?!
何をふざけておる!
15000枚じゃぞ! 15000枚!
何で500円だけなんじゃ!
頭、狂ってるんじゃないのか?!」
激高した女神は、手のひら程の換金所の窓口を怒鳴りながら覗き込んだ。
すると、その中に何かを見つけたのか、更なる驚愕の表情をすることになった。
「な、なんじゃと?!
何故、貴様がここに?!!!」
そこには、以前、ドキ・沖を打っていた俺と女神をディスプレイで見ていた怪しい影が居たのだった。
「お兄ちゃん、そろそろお昼ごはんにしたいのだけど・・・」
土曜日で学校が休みであった恵は私服にエプロンという格好で困った顔で俺に向かって問いかけた。
それに対して俺は「う~ん」と唸り声をひとつたて、腕を前に組み同じように困ってしまった。
何故なら、お昼ごはんにするには食卓となる机をひとつ設けなくてはならない。只でさえ狭い6畳一間のこの部屋に恵の引っ越し用のダンボールが積み重ね、机が置ける場所は部屋の中心部しか他はなかった。
しかし、今、部屋の真ん中には一枚の布団がひかれ、その布団を頭から被り籠城さながら引きこもっている者がひとり。
それが誰かは言うまでもなく、短気ながら見た目だけは美しい、女神のセトであった。
このところパチスロで負けが込み、昨日はパチスロ『リーノ』で散々、トマトチャンスの三択を外して自分(と世の中)が信じられなくなり、ふてくされて布団から出て来ないのである。
「はあ~」
俺は大きくため息をつき、丸まった人ひとり分、小山となっている布団の傍らへとやって来た。
「えーと、女神、じゃなくて、せ、セトさん。
パチスロに負けて落ち込むのはわかるのですが、そろそろ布団をたたみたいので起きてくれませんか?
いつまでもそうしてても負けたものはどうしようもないのですから」
すると小山となっている布団の一角から怒りをあらわにした真っ赤な女神の顔だけが亀の頭のように出てきた。
「うるさいわい! この朴念仁!
なんでワシがこんな悲しい思いをせにゃならんのじゃ!
そもそも、パチスロなんてやらせるのが間違っておるのじゃ。
ワシがこんな気持ちになるのも、全部、お主のせいなんじゃい!」
「そうは言ってもパチスロのことを知りたいと言ったのはそちらじゃないですか。
パチスロなんて勝ったり負けたりするものですし、昨日もたまたま負けただけですって。
だから、昨日の事はもう忘れて立ち直ってはもらえませんか?」
「昨日の事を忘れろじゃと?
だったら、昨日負けた5万円、耳をそろえて返すがいい。
そうしたらなかった事にしてやらんでもないぞ」
「返すもなにも、昨日、負けたのはセトさんが打ち続けたせいじゃないですか。
はじめに来た5連チャンで止めておけば勝てていたのに、次は必ず来るはずと言って止めなかったのはセトさんじゃないですか?
何で俺がそのお金を返さないといけないんですか?」
「うるさい! うるさい! うるさい!
たかだか数十年生きているだけの人間がこの崇高なるワシに意見するなどおこがましい!
もうええわい!
お主と話すことなどもうないわ!
ワシはアニメでも観ながら今日1日、ここでふて寝するんじゃい。
邪魔するな、ボケ!」
売り言葉に買い言葉。
話をすればするほど布団の中への籠城は頑ななものになるのであった。
すると女神のセトはその布団から手を伸ばしてTV用のリモコンをそちらに向けた。
ここ2、3日の間、女神は過去に俺の撮りためてあったアニメを観るという楽しみを覚えていた。パチスロをしていない時は大体これをして時間を潰す。
慣れた手つきでボタンを押して録画した番組を画面に表示した。
カッコいい音と共に始まったアニメのオープニングムービー。
「あれ、このアニメって・・・」
俺はそれを観ながら人知れず呟いてしまった。
そしてそれを女神に聞かずにはいられなかった。
「セトさん、セトさん。このアニメ、お好きなんですか?」
「ああん?
なんじゃい、このゴミくずニートが。
このアニメが好きかじゃと?
ああ、好きじゃ。大好きじゃとも!
パチスロするよりも、このアニメ観ている方が断然、有意義に時間を潰せるというものじゃ。
なんか文句でもあるんかい?!」
「文句なんてありません、ありません。
ただ、ひとつだけお知らせしたい事がありまして・・・。
えーと、実はこのアニメ、パチスロ化されてます」
「なっ、なんじゃと?!」
突然、布団の中の籠城を突き破り、立ち上がった女神。
その目には見たことがないくらいキラキラと輝く好奇の光が灯っていた。
「まさか、パチスロで会えるとは思いもせんかったぞ。
権ノ介・・・」
パチンコ屋の中でそう呟く女神の前には一台のパチスロ台がそこにあった。
ー マゾリスク《絆》 ー
パチスロ台の下パネルには大きくそう文字打っていた。
喜びとも困惑ともみれる表情をした女神を前に俺はその様子を見ていた。
「こんな時間から出勤なんて珍しいじゃない。
わ・た・る・君」
何とも艶っぽい声をかけられ、俺は声のした後ろを振り返った。
そこにいたのは、胸元を大きく開いたシャツにミニスカートという刺激的な姿で、いい匂いが漂ってきそうな魅力的な女性。
ここのパチンコ屋の従業員のひとり。名前はヨーコさんだ。
俺とは長年パチンコ屋に通うことで何とか度々話すような仲になっていた。
「こんにちは、ヨーコさん。
今朝は色々あって朝一番に並べなかったんですよ。
それにしても、このマゾリスク《絆》、相変わらず人気なんですね。一台だけでも空いていて良かったです。
「そうね。店開けたら大体、この機種から埋まっちゃうものね。
今、座ろうとしているこの一台も今さっき空いたばかりですもの。
座れてラッキーだったわね」
そう言われて俺も悪い気はせず、何となくいい気分になった。座れても勝負に負ければ損をするだけなのだが。
「でも、本当のラッキーはこれから、か・も・ね」
俺はその言葉の意味をどう受け取ったものか分からず、戸惑っていると、「それじゃ、頑張ってね~」と一言残し、ヨーコさんは仕事に戻って行ってしまった。
さて、このマゾリスク《絆》と言う台である。
先ほども言った通り、この機種は大人気であり、イベントなどある場合は、ほぼ朝一番に満台(いっぱい)になる。
そのゲーム性は、まず通常時から、チャンスゾーン(CZ)を目指し、そのチャンスゾーンを見事クリアすると、ARTに当選する。このARTをループもしくは継続させて出玉を稼ぐ仕様である。ARTは、期待値1Gあたり2.8枚メダルが増加し、ART1ループあたり40G。つまり、2.8枚×40GでARTを1回で112枚の獲得が期待される。これをうまくループさせればじゃんじゃかメダルが増えていき、その増加速度に中毒者が続出するという具合である。
「女神様、それでは順押しで、普通に回していってみて下さい」
まさかパチスロで好きなアニメのキャラクターに会えるとは思っておらず、これだけで感無量といった感じで涙目になっている女神に俺はパチスロを回すように促した。
「うむ。それでは、行くぞ」
と言い、目の前のパチスロ台を回し始めた。
回し始めてから丁度100G後、熱い演出が液晶画面に映し出された。
その後、『狙え!』画面からCZに突入。
権之助モードを選択して、液晶には、1000人討伐しろと、怪しい忍者が登場する。
ナビベルを出すとその討伐人数が徐々に減っていく。
1回目のナビベルで895人。
2回目のナビベルで756人。
そして、3回目のナビベルを揃えた時、突然、権之助の顔がアップになり討伐人数が0人に変わった。
「こ、これは・・・」
俺は、あまりの事に呻くように声を出してしまった。
権之助モード中、3回目のナビベルで討伐を完了することが何を意味するのか、俺はもちろん心得ていた。
「設定6だ・・・。
まさか、生きているうちに出会えるとは思わなかった!
この台は、まさかの最高設定だ!」
そう興奮しながら息巻く俺を、何が起ったのか意味がわからないと、キョドキョドする女神様。
しかし、その意味は、出玉が語ってくれた。
そのCZ後、見事ARTに昇格し、そのARTがループを始めた。
その回数、32回。
これだけで、約3000枚はメダルが出た。
「うわ~、出た。
メダルをこんなに出してしまった。
良し、ここじゃ。
昨日のような醜態はもう晒さぬぞ。
ここが止め時じゃい!」
「いいえ、女神様。
昨日と、今日とでは条件が違います。
何と言っても、マゾリスク《絆》の最高設定が確定しています。
この台、もっと出ます!
だから、今、止めるのなんてもったいないです。」
「何を言っておるんじゃ?
勝っているうちに止めるのが吉であろう。
そうやって欲をかくから負けるんじゃい!」
「普通はそうかもしれませんが、今日だけは違うんです。本当に俺を信じて下さい。
いいですか、女神様。
この台、打てば打つだけメダルが出ます。
最高設定示唆を確定した以上、閉店まで打つしかない状況なんです。
もし、出なかったら、その損失は、俺が補填します。
なので、どうかこのまま打ち続けて下さい!」
「ぐぬぬぬぬ、本当にこのまま打って負けたらその分、お前が補填するというのじゃな。
良し、よかろう。
そのかわり、絶対の絶対に負けたら金をもらうからな!」
「はい! 絶対の絶対に!」
俺は何とか止めようとする女神を説得してパチスロを続けさせることを成功させた。
だが、この判断は、間違えようはなかった。
さすがに設定6だけあって、軽い当たりにARTもすぐつき、さらにループを繰り返すという挙動を何度も繰りかえした。
メダルは、右肩上がりにどんどん増えて行き、勢い衰えず。
結局、閉店間際までその傾向のままで、獲得したメダル15000枚近くなった。
「のう、わたるよ。
やはり、ワシはパチスロの天才なのかもしれない。
パチスロの神となるのは、ワシと運命付けられておるのじゃ。
なあ、おぬしもそう思うであろう?」
悩まし気にそういう女神に、俺はどう返事をしたものか分からず、愛想笑いを浮かべた。
しかし、15000枚は凄い。例え、設定6であろうともこれだけ出るのは稀なのではないであろうか。
確かに、これだけ出せばパチスロの神を名乗ってもいいのかもしれない。
そういえば、この台を回す前に、店員のヨーコに何か言われたのも何かを示唆していたのかも。
女神と俺はメダルを流し景品交換所に行き大量の換金用景品と交換。それをもって外に設置してある換金所に向かった。
換金所は混んでいて、しかも、並んでいる客は俺達が最後のようであった。
「これだけの景品を持っていると、誰かに奪われるかも。
しっかり用心しなくてはなるまい」
すっかり用心深くなった女神様はその後、自分の番が来るのを待ち、やっとその時がやってきた。
手の平程の窓口の前に大量の換金用景品を置いた。
すると、その窓口から手が伸びてきて、景品を鷲掴みに何度か持っていった。
しばらく、現金化されるのを待つ。
メダルにして、15000枚程。現金に換算すると30万円は下らないはずである。
ところが、である。
チャリーン
払いだされた現金は、500円玉一枚だけであり、それ以上は何も出て来なかった。
「はあああああああああ?!
何をふざけておる!
15000枚じゃぞ! 15000枚!
何で500円だけなんじゃ!
頭、狂ってるんじゃないのか?!」
激高した女神は、手のひら程の換金所の窓口を怒鳴りながら覗き込んだ。
すると、その中に何かを見つけたのか、更なる驚愕の表情をすることになった。
「な、なんじゃと?!
何故、貴様がここに?!!!」
そこには、以前、ドキ・沖を打っていた俺と女神をディスプレイで見ていた怪しい影が居たのだった。