第8話 秘策

文字数 1,540文字

 俺が、朝、目覚めたのは、もう11時を過ぎた頃だった。

「遅いぞ!このボケナス!!!」

ゴンッ

 そう言いつつゲンコツをくれたのは、枕元で、正座をし、俺の顔を見下ろしていた女神様だった。

「痛ててて、おはようございます」

 目が覚めるのが遅くなったのは、昨晩、女神様と妹のサンドウィチ状態になって、興奮してしまったからだなどとは、到底、言えるはずもなく、俺は、朝の挨拶だけに押しとどめた。

「あれ?恵の奴は、どこ行ったんですか?」

「フンッ、もう、とっくに学校へ行ったわい」

「ああ、そうか、今日、月曜ですもんね」

「まったく、いつまでも寝ぼけてないで、早う着替えよ!このノロマめ!」

そう怒鳴られ、パジャマからジャージに着替え、布団をたたみ、そこに、机を置いた。
そして、俺は、机を挟み、女神様に対面するように座った。

「今日は、どうするのじゃ?」

 イライラしながら女神様は、今日の予定を俺に聞いてきた。

「今日、そう、今日ですよね。今日・・・」

 俺は、急に落ち着きを失くし、そわそわし始めた。

「どうしたのじゃ?様子が変じゃが」

「いや~、実は、昨日のマイ・ジャングラーで、軍資金を使い果たしてしまい、サイフに千円しか残ってないんですよ」

「では、その千円を使えばよかろう」

「いやいや、女神様。パチスロに、千円だけで立ち向かおうとしても、心元ないと言いますか、歯が立たないと言いますか」

「ん?ようするに、千円じゃ足りぬと言う事か?」

「はい、そういう事です」

「では、どうするのかえ?」

「それなんですけど、何とか、女神様の力で運気を上げてもらったりなんてしてもら
えませんか?」

「そんなこと、出来るはずなかろう!元・洗濯板の神じゃぞ。ワシは!!!」

「ですよね~」

 俺は、腕を前に組み、ため息をつきながらがっくりと肩を落とした。
 そんな状態はしばらく続いたが、そんな事に負けじと、何とか顔を上げて、生気を取り戻した。

「やっぱり、最後の手段をとるしかないか・・・」

 そう呟くと、ズボンのポケットから、スマートフォンを取り出した。




 そこは、いつも行くパチンコ屋である。
 いつもの流れでは、自動ドアをくぐり、目的のパチスロ台に向かい、ひたすらレバーを叩いているはずだ。
 だが、今日は、違った。
 パチンコ屋に来たものの、今、いるのは、パチンコ屋の外の道端である。自動ドアもくぐっていなければ、パチスロ台に触ってもいない。しばらくは、こうして外に立ったままである。

「何か待っておるのか?」

そう質問してくる女神様に、申し訳なさそうな、落胆しているような、中途半端な笑顔で返すだけの俺。
 その数分後。

ブオン・ブオーン

 バイクのアクセル音が響き渡った。
 その音が聞こえると同時に、一台のバイクが、俺の目の前でブレーキをかけ、急停止した。
 バイクの上には、革製の黒いライダースーツとヘルメットを被った人物が乗っている。

「私を呼び出すなんて、高く付くわよ」

 バイクに乗っていた人物は、颯爽とヘルメットを脱いだ。
 そこに現れたのは、一言でいうならば、『美人』。女性にしては、少し長身な身長だが、スタイルは抜群にして滑らか。ヘルメットを脱いだと同時に、背中に流れたのは艶めかしくも細やかな長い髪だ。

「はあ・・・」

 俺は、ため息ともとれるような返事をしていた。

「おい、こいつは一体、誰なんじゃ?」

 横にいた女神様は、俺に、今、目の前に現れた人物が誰なのかを聞いた。

「彼女の名前は、『豪運寺 紗栄子』。俺の、元彼女です。」

 俺は、ひどく浮かない声で答えた。
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