第7話 長兄家を支える 

文字数 546文字

 長兄が復員してから流れが変わった。
孤軍奮闘していた祖母がバトンを兄に渡した。
父は身も心も回復したかに見えた。
被弾して取りきれていない弾丸はどうなったのか。
農地開放で失った田畑を補うごとく、新しく開墾を始めた。
兄の友人の出入りが多くなった。繁多になった。
長かった冬が明けようとしている。黎明だ。
 私は高校一年生になっていた。
 昭和二十三年の秋、兄は結婚式を挙げた。復活の
途上ではあったが、二日二晩、酒宴が続いた。

 庄吉、伝吉、次六と三代続いた先妻の早逝した家。
ずいぶん迷った末、嫁に来たと言う。兄嫁は、因縁
を己で克服して、昨年、九十一歳で天寿を全うして逝く。

 兄は、傾きかけた家の屋台骨を立て直した。
三人の子供にも恵まれ人望もあり、村政の一翼も担い
順風満帆だったように見えたが。 
 長男は好きな人ができた。仲人は私がした。
約束は不履行になり、家を捨て、マスオさん同様になった。
責任を感じているが、個人の人権の前には打つ手なしだ。
嫁入りした娘は、女子二人を連れて離婚して帰ってきた。
二人は成人して、結婚。それぞれ家を出る。
姪は一人で、ハクビシンの来る家で暮らしている。
ほとんど開かずの間である。
 
 先祖大事、家大事に守られてきた伝統と絆は、
兄の死後、目に見えて綻びて行き、
音も立てずに崩壊した。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み