第13話 父のしこ名

文字数 391文字

 父が寡夫になったのは35歳の時。
お酒も飲まないのに、料理屋のおかみさんと
わりない仲になった。両家に違和感なく、
父の死が二人を離別させる迄続いた。父の
死後も長兄は何かと気配りしていたようだ。
美人で私にもよいおばさんだった。

「山より大きい猪はでんわい」父の持論。
何事にも動じない、我が道をゆく人だった。
今の国体に当たる第一回目の体育祭が、大正
13年明治神宮外苑で開かれた。その時、
父は相撲の部で県を代表して参加している。
しこ名を「末廣」という。
故郷に立派な化粧回しが残っている。
コロナ禍の中だったが、
この春県の相撲展に化粧回しを出品した。
 
 父も母も不遇であったと心痛めたが
少なくとも国体に出、関脇末廣を名乗った
ころは父も幸せなころだったろう。
と、思ってひそかに安らぐ。

 私は幼少の頃、番傘にも提灯にも氏でなく
「末廣」と大書してあったことを思い出す。

 しこ名の大書は戦後も続いていた。




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