第11話 私は生きている

文字数 398文字

 父も祖父も草相撲を取っていた。
祖父のしこ名「末広」を父が襲名。
草深い寒村の地主といっても貧しかった。
私の幼少の頃、父はほとんど野良に出なかった。

 住み込みのオバさんと、通いのお婆さんと
少年の域を出ないチヨウヤンと呼んだ男性が
働いていた。が、徴用の名の下に引き抜かれた。
働けど働けど暮らしは楽にはならなかった。
 主婦(母)のいない我が家は、祖母が家の事
も、お日用さんの段取りも、取り仕切っていた。
戦前、戦中、戦後を通して、米飯を食むのは 
1年に数えるほどしかなかった。
主食は麦や芋、粟にきび。きびは美味しかった。
家には「ゴツトイ」と呼ぶ暴れ牛がいた。が、
この牛は、父しか扱えなかった。
 戦後、雑木山が近いからと、いち早く父は炭を
焼くことを生業として、何か生き生きしていた。

 私と次兄が、時期外れに大学にゆきたいと
言い出した時
「一人なら長兄の世話にならずにやってやるよ」
 なぜか父は嬉しそうだった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み