第9話 私は生きている(1)

文字数 725文字

 「門」は目まぐるしく変動した歴史の中に埋没。
埋没したが、私はまだ生きている。
生きた証に、父に、祖母に、感謝の心を込めて、
波乱の生き様や、在りし日の面影を綴ることにした。

 父は竹を割ったような言葉そのものであった。
人は豪放磊落と言った。

 
 私が、はじめて父に会ったのはまだ5歳に満たないころだった。
というより、父は記憶の中になかったのだ。昭和12年9月、杖に縋って白ずくめの姿
で現れた父を、怖い物でも見るように眺めた。
中国戦線で負傷し内地に送還された時を同じくして、母はこの世をさった。
したがって妻危篤も、妻死す。の電も宙に浮き、母の葬儀に父は遅れて帰ったのだ。
葬儀も母の棺も長い間父の帰りを待っていた。野辺送りが済むともう父の姿はなかった。

 父不在の家には、曽祖母、祖母と4人の子供が寄り添い、ひっそりと暮らしていた。

 1年余を経て復員した父は、農繁期以外、働くこともなく引きこもっままだった。
既に小学生であった私の目には、父は単なる怠け者としか映らなかった。
その内、意中の人に巡り合ったが、祖母や親戚中の全てから反対され、失意の中に
いたことなど私は知る由もなかった。

 父は、胃が悪くいつも「オオタイサン」をはねていて、よく背中を叩かされた。
叩き始めると際限がないから、逃げることばかり考えていた。
逃げ遅れると今度は「背中を踏め」と言い、父の背中に乗る。

 ふと見下ろす父の首筋に白いミミズ腫れの傷痕が見える。
「首の傷はどうしたん」
「戦争で撃たれたんだ。まだ取り切れていない弾が2発残っている」
 あっ。私は何かに触れた気がした。

 父は幸せだったのかに重複する項がある。下書きもせず、その日の
気分の赴くままの筆運び、反省している。重複の段おわびします。



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