第8話 後で得た力
文字数 4,110文字
集合場所は、神奈川市内のスーパー銭湯だ。
「山姫が言い出したんだ。オレは何も言ってないぜ?」
直接【神代】の本部に集まれば早いのだが、山姫が先にここに寄りたいと提案した。
「体を洗いたい、って。数日間あんな汚い場所で軟禁されてたんだ、再会の前に風呂の一つや二つは入りたくなるさ」
彭侯は入浴せず、ロビーのソファーで座って待っていた。
「ありがとう、彭侯!」
緑祁は会って真っ先に頭を下げた。香恵を救ってくれた彭侯にまず、感謝したのだ。
「いいってことよ。困った時はお互い様だろう?」
照れながらそんなことをいう彭侯。
「とにかく無事でよかった。山姫も彭侯も。そして、香恵もだ。こっちはおまえたちがいなかったら、かなり大変だった!」
二人を待つ間は雑談した。
数十分後、女風呂の方から香恵と山姫が現れた。
「か、香恵!」
「緑祁!」
二人は人の目も気にせず、お互いを抱きしめた。
「会いたかったわ……!」
「もう大丈夫だよ、香恵! 僕が直接行けなくて、ごめん……」
「いいのよ。アイツを倒してくれたんでしょう? なら、同じことだわ」
緑祁も香恵も、できるならお互いを放したくない。だがそのままだと話が進まないので、一旦離れる。
「実際には、洋次は逃げた。だが【神代】から、新しい情報が入ったんだ。緑祁、昨日青森で霊界重合があっただろう?」
「うん、それがどうかしたの?」
「【神代】の調査員が調べたところ、犯人がわかった」
「それは霊界重合の方の?」
「いいや、両方だ」
辻神のところに入った情報。それは簡単で、
「採取された霊紋から、とある一個人が特定された! 今から【神代】に戻って、ソイツの情報を教えてもらう!」
霊界重合を引き起こした幽霊、怪神激はもう消滅した。しかしその怪神激を召喚した人物の霊紋が現場に残されていたのだ。正確にはあの現場に、三人分の霊紋が、である。その内の二つは緑祁とフレイムのものだったので、残る一人が必然的に犯人となるのだ。
すぐに【神代】の予備校に向かって車を進める五人。
「相変わらずデカいね、全然慣れないよ…」
この建物に来るのは二回目だ。東京都にあるので予備校でもビル。五人の中では一番田舎者であろう緑祁は毎回、その背の高さに圧倒される。周りのビル群の高さも怪獣と思えるほどに異常だ。
「十二階の講義室に満が待っている」
エレベーターで移動。教室に入ったら、
「あ、紫電? 何で紫電がここに?」
「緑祁……。お前、変なことに巻き込まれているらしいな……」
満の他に紫電もいたのだ。チョークを握って教卓に立っており、
「俺は浅草で遭遇した。顔はこんな感じ」
紬と絣の似顔絵を描いていた。
「だが、そんな顔の霊能力者は霊能力者ネットワークにはいないぞ……?」
「じゃあやっぱり、野良なのか?」
「そんなはずはない! 日本にいる霊能力者は、霊怪戦争後は全員、【神代】が管理・統括している! 漏らしているわけがないんだ!」
二人は先に話し合っている。【神代】は霊能力者の保護も目的としており、一度霊能力者ネットワークに登録されると除名されない。いくら霊能力が低くても追い出されることもない。そういう人には難易度の低い仕事を紹介するシステムになっているのだ。
そこに五人も混ざる。
「あの、満さん……? 【神代】が管理していない霊能力者は存在しないんですか?」
まず緑祁が、純粋に疑問をぶつけた。
「そうだな……。そもそも詠山の目的が、日本中の霊能力者を統括することだった。やり方は汚かったが、成功した。だから【神代】の息がかかっていない霊能力者は、日本にはいない。海外までは管轄外だから、【UON】のような輩は知らんが」
だが逆に言えば、日本に住む霊能力者は今ここから誰にでも連絡を取れるということ。
「話をまとめよう」
まず、辻神が担当していた行方不明者の件。
「私は、彼らが霊能力者であったということを確認している。実際に霊障を使っていたから。秀一郎と洋次がそうだ」
「僕もそう思うよ」
その意見に緑祁も賛成。ここで彼は、青森で自分を襲った人物が寛輔であり行方不明者の内の一人と知らされた。
「でもよ、俺が遭遇した紬と絣は? コイツら、孤児院にもいねえだろう?」
「似ている名前の人物はいるんだが……」
資料をめくる。その中にいる、猪苗代 結 という少女。紫電が黒板に描いた似顔絵とソックリだ。
「コイツじゃねえのか? 俺が見た顔だぞ!」
「でも、双子ではない……んだ」
この二人についてはここではよくわからないので、置いておく。
「孤児院に入る時に、【神代】もチェックをする。その後も定期的に調べる。だから彼らが霊能力者なら、すぐに気づくはずだ」
ここで気になるのが、孤児院に頻繁に足を運んでいた豊次郎のこと。
「この豊次郎が、何かをした。そう考えると一番早い」
「でも、豊次郎は三月に死んでいる。四人が行方不明になる前!」
しかし、このスレを説明できる人物がいるのだ。
「蛇田正夫、という。福島の心霊研究家だ……」
正夫の霊紋が、青森で検出されたのだ。
「じゃあ、その正夫が黒幕?」
「そうなる」
この事実が発覚した時、【神代】はすぐに正夫がいる虎村神社に人員を派遣した。しかし肝心の彼は、もういなかった。残っていたのは正夫の友人である、剣増と豊雲のみ。何も知らなさそうだったので、彼らは白であると【神代】は判断した。
「今、正夫も行方を眩ませている。これはもう、イエスととっていいだろう」
「なるほど」
真犯人がやっとわかった。
「でも、この正夫と四人はどういう関係なの? 孤児院に行っていたのは、豊次郎でしょう? 正夫じゃないわ」
「どこで出会ったのか? それは多分、豊次郎が原因だ。アイツは正夫と仲が良かったから、その伝手で知り合ったのだろう」
「ちょっと話が脱線してるぜ? 四人が霊能力者になった理由は? 霊能力を隠していたのか?」
彭侯が聞いた。すると満は険しい顔で、
「虎村神社で押収した、正夫の研究資料の一部だ……」
ノートパソコンを起動し、その資料を見せる。
「これは……?」
「【神代】の方で解析した結果、後天的に霊能力を発現させる実験方法のようだ」
「こ、後天的?」
だから、こういう結論が下りた。
「四人は正夫の手によって、普通の人から霊能力者になったのだ」
と。
「そんなことができるのかよ?」
「あり得ない話ではないんだ。そもそも霊能力者になる条件はマチマチで、先天的だったり幽霊に関わった結果見えるようになったりする」
その後者の場合も、後天的な霊能力だ。しかしそれは【神代】でも条件がよくわかっておらず、確立されていない。心霊スポットを訪れて幽霊の怒りを買っても必ずなれるわけではないのだ。
「だがこの儀式を行えば、話は違うらしいんだ……」
もちろん【神代】の上層部は、迷うことなくこの手法を封印することに決める。その理由は満は知らなさそうだったが、紫電が、
「後天的な霊能力の発現は、危険だ。雪女が前に言っていた……。寿命に響く、って。あの世に招かれやすくなるらしいんだ。『月見の会』がそうだったらしくて、早死にが後を絶えなかったと言う……」
その危険性を説明。
「だとしたら、やはり禁止して正解だな。後でこれは禁霊術となるだろう」
話をまとめると、こうだ。
豊次郎が孤児院に向かい、素質のある子供たちを探した。その子たちは正夫と会い儀式を行って、霊能力者になった。
「なるほどね、わかりやすいわ。でも緑祁を襲ったのはどうして? 私を誘拐したのも、何で?」
「そこなんだ!」
その、緑祁とその関係者に攻撃する理由がわからない。
「こんなことを言うと緑祁、お前は傷つくかもしれないが……。正直、【神代】から見てもそこまで重要な霊能力者じゃない。経歴は普通だし、成果も一般的だ。ハッキリ言うと紫電の方が、【神代】に貢献しているくらいだし……」
つまり緑祁を攻撃しても、【神代】に対してはあまりダメージにならないということ。
「そうですよね……?」
それは緑祁が一番わかっていた。霊怪戦争の時も招集されなかったし、彼への指示のほとんどが【神代】の上層部からではないのだから。
「だが一つ言えることがあるとすれば、正夫とその配下に成り下がった子供たちは、緑祁を狙っている。だから捕まえるチャンスがある、ということだ!」
理由は身柄を拘束した後で聞けばいい。【神代】はそのスタンスを貫く。そして当事者である緑祁に、
「任せたい。できるか?」
「できます!」
緑祁は即答した。自分が狙われているのなら、その野望を自分で終わらせたいのだ。
「よし! 良い返事だ! では作戦を練ろう」
ここには人員が六人いる。なのでまず満が黒板に、
「正夫が潜んでいる場所をこちらで探っておくから、その場所にまず……」
「待てよ、満さんよぉ!」
紫電が突然言い出した。
「俺は、緑祁と組むのはごめんだぜ?」
「何を言い出す?」
彼は続ける。
「俺と緑祁はライバル同士! なのに共闘して捕まえろだあ? それは頷けねえぜ!」
「はぁ?」
すると緑祁も、
「僕も、だよ」
と頷く。二人は先月の霊能力者大会で組んだが、それで負けたからお互いに責任転嫁をしているのではない。
「強さは認めているぜ! でもよ、一緒に頑張る気はねえな! 寧ろ先に相手を捕まえる! これは競争だな!」
「そうだね、紫電。僕は今回も負けない!」
「いいや? 俺が勝たせてもらうぜ?」
横で呆れながら聞いていた辻神が、
「何もこんな時にまで張り合わなくてもいいだろ、おまえら!」
と言ったが、
「でも辻神、そっちも僕と決着をつけたいって前に言ってたよね? 辻神も僕のライバルだ、だからそっちとは組まないで、僕は僕と香恵だけで行く!」
「…………」
辻神は豆鉄砲をくらった。
「おい緑祁、勝手にライバルを増やすなよ! 俺にだけ集中しておけ!」
「そうはいかないよ、紫電。戦うっていうのも一種のコミュニケーションなんだ。それで知り合った人はみんなライバルさ!」
とりあえず満が、
「……では、各個人で勝手に動く、でいいな? くれぐれも無理はしないように!」
強引にこの場を閉めた。
「山姫が言い出したんだ。オレは何も言ってないぜ?」
直接【神代】の本部に集まれば早いのだが、山姫が先にここに寄りたいと提案した。
「体を洗いたい、って。数日間あんな汚い場所で軟禁されてたんだ、再会の前に風呂の一つや二つは入りたくなるさ」
彭侯は入浴せず、ロビーのソファーで座って待っていた。
「ありがとう、彭侯!」
緑祁は会って真っ先に頭を下げた。香恵を救ってくれた彭侯にまず、感謝したのだ。
「いいってことよ。困った時はお互い様だろう?」
照れながらそんなことをいう彭侯。
「とにかく無事でよかった。山姫も彭侯も。そして、香恵もだ。こっちはおまえたちがいなかったら、かなり大変だった!」
二人を待つ間は雑談した。
数十分後、女風呂の方から香恵と山姫が現れた。
「か、香恵!」
「緑祁!」
二人は人の目も気にせず、お互いを抱きしめた。
「会いたかったわ……!」
「もう大丈夫だよ、香恵! 僕が直接行けなくて、ごめん……」
「いいのよ。アイツを倒してくれたんでしょう? なら、同じことだわ」
緑祁も香恵も、できるならお互いを放したくない。だがそのままだと話が進まないので、一旦離れる。
「実際には、洋次は逃げた。だが【神代】から、新しい情報が入ったんだ。緑祁、昨日青森で霊界重合があっただろう?」
「うん、それがどうかしたの?」
「【神代】の調査員が調べたところ、犯人がわかった」
「それは霊界重合の方の?」
「いいや、両方だ」
辻神のところに入った情報。それは簡単で、
「採取された霊紋から、とある一個人が特定された! 今から【神代】に戻って、ソイツの情報を教えてもらう!」
霊界重合を引き起こした幽霊、怪神激はもう消滅した。しかしその怪神激を召喚した人物の霊紋が現場に残されていたのだ。正確にはあの現場に、三人分の霊紋が、である。その内の二つは緑祁とフレイムのものだったので、残る一人が必然的に犯人となるのだ。
すぐに【神代】の予備校に向かって車を進める五人。
「相変わらずデカいね、全然慣れないよ…」
この建物に来るのは二回目だ。東京都にあるので予備校でもビル。五人の中では一番田舎者であろう緑祁は毎回、その背の高さに圧倒される。周りのビル群の高さも怪獣と思えるほどに異常だ。
「十二階の講義室に満が待っている」
エレベーターで移動。教室に入ったら、
「あ、紫電? 何で紫電がここに?」
「緑祁……。お前、変なことに巻き込まれているらしいな……」
満の他に紫電もいたのだ。チョークを握って教卓に立っており、
「俺は浅草で遭遇した。顔はこんな感じ」
紬と絣の似顔絵を描いていた。
「だが、そんな顔の霊能力者は霊能力者ネットワークにはいないぞ……?」
「じゃあやっぱり、野良なのか?」
「そんなはずはない! 日本にいる霊能力者は、霊怪戦争後は全員、【神代】が管理・統括している! 漏らしているわけがないんだ!」
二人は先に話し合っている。【神代】は霊能力者の保護も目的としており、一度霊能力者ネットワークに登録されると除名されない。いくら霊能力が低くても追い出されることもない。そういう人には難易度の低い仕事を紹介するシステムになっているのだ。
そこに五人も混ざる。
「あの、満さん……? 【神代】が管理していない霊能力者は存在しないんですか?」
まず緑祁が、純粋に疑問をぶつけた。
「そうだな……。そもそも詠山の目的が、日本中の霊能力者を統括することだった。やり方は汚かったが、成功した。だから【神代】の息がかかっていない霊能力者は、日本にはいない。海外までは管轄外だから、【UON】のような輩は知らんが」
だが逆に言えば、日本に住む霊能力者は今ここから誰にでも連絡を取れるということ。
「話をまとめよう」
まず、辻神が担当していた行方不明者の件。
「私は、彼らが霊能力者であったということを確認している。実際に霊障を使っていたから。秀一郎と洋次がそうだ」
「僕もそう思うよ」
その意見に緑祁も賛成。ここで彼は、青森で自分を襲った人物が寛輔であり行方不明者の内の一人と知らされた。
「でもよ、俺が遭遇した紬と絣は? コイツら、孤児院にもいねえだろう?」
「似ている名前の人物はいるんだが……」
資料をめくる。その中にいる、
「コイツじゃねえのか? 俺が見た顔だぞ!」
「でも、双子ではない……んだ」
この二人についてはここではよくわからないので、置いておく。
「孤児院に入る時に、【神代】もチェックをする。その後も定期的に調べる。だから彼らが霊能力者なら、すぐに気づくはずだ」
ここで気になるのが、孤児院に頻繁に足を運んでいた豊次郎のこと。
「この豊次郎が、何かをした。そう考えると一番早い」
「でも、豊次郎は三月に死んでいる。四人が行方不明になる前!」
しかし、このスレを説明できる人物がいるのだ。
「蛇田正夫、という。福島の心霊研究家だ……」
正夫の霊紋が、青森で検出されたのだ。
「じゃあ、その正夫が黒幕?」
「そうなる」
この事実が発覚した時、【神代】はすぐに正夫がいる虎村神社に人員を派遣した。しかし肝心の彼は、もういなかった。残っていたのは正夫の友人である、剣増と豊雲のみ。何も知らなさそうだったので、彼らは白であると【神代】は判断した。
「今、正夫も行方を眩ませている。これはもう、イエスととっていいだろう」
「なるほど」
真犯人がやっとわかった。
「でも、この正夫と四人はどういう関係なの? 孤児院に行っていたのは、豊次郎でしょう? 正夫じゃないわ」
「どこで出会ったのか? それは多分、豊次郎が原因だ。アイツは正夫と仲が良かったから、その伝手で知り合ったのだろう」
「ちょっと話が脱線してるぜ? 四人が霊能力者になった理由は? 霊能力を隠していたのか?」
彭侯が聞いた。すると満は険しい顔で、
「虎村神社で押収した、正夫の研究資料の一部だ……」
ノートパソコンを起動し、その資料を見せる。
「これは……?」
「【神代】の方で解析した結果、後天的に霊能力を発現させる実験方法のようだ」
「こ、後天的?」
だから、こういう結論が下りた。
「四人は正夫の手によって、普通の人から霊能力者になったのだ」
と。
「そんなことができるのかよ?」
「あり得ない話ではないんだ。そもそも霊能力者になる条件はマチマチで、先天的だったり幽霊に関わった結果見えるようになったりする」
その後者の場合も、後天的な霊能力だ。しかしそれは【神代】でも条件がよくわかっておらず、確立されていない。心霊スポットを訪れて幽霊の怒りを買っても必ずなれるわけではないのだ。
「だがこの儀式を行えば、話は違うらしいんだ……」
もちろん【神代】の上層部は、迷うことなくこの手法を封印することに決める。その理由は満は知らなさそうだったが、紫電が、
「後天的な霊能力の発現は、危険だ。雪女が前に言っていた……。寿命に響く、って。あの世に招かれやすくなるらしいんだ。『月見の会』がそうだったらしくて、早死にが後を絶えなかったと言う……」
その危険性を説明。
「だとしたら、やはり禁止して正解だな。後でこれは禁霊術となるだろう」
話をまとめると、こうだ。
豊次郎が孤児院に向かい、素質のある子供たちを探した。その子たちは正夫と会い儀式を行って、霊能力者になった。
「なるほどね、わかりやすいわ。でも緑祁を襲ったのはどうして? 私を誘拐したのも、何で?」
「そこなんだ!」
その、緑祁とその関係者に攻撃する理由がわからない。
「こんなことを言うと緑祁、お前は傷つくかもしれないが……。正直、【神代】から見てもそこまで重要な霊能力者じゃない。経歴は普通だし、成果も一般的だ。ハッキリ言うと紫電の方が、【神代】に貢献しているくらいだし……」
つまり緑祁を攻撃しても、【神代】に対してはあまりダメージにならないということ。
「そうですよね……?」
それは緑祁が一番わかっていた。霊怪戦争の時も招集されなかったし、彼への指示のほとんどが【神代】の上層部からではないのだから。
「だが一つ言えることがあるとすれば、正夫とその配下に成り下がった子供たちは、緑祁を狙っている。だから捕まえるチャンスがある、ということだ!」
理由は身柄を拘束した後で聞けばいい。【神代】はそのスタンスを貫く。そして当事者である緑祁に、
「任せたい。できるか?」
「できます!」
緑祁は即答した。自分が狙われているのなら、その野望を自分で終わらせたいのだ。
「よし! 良い返事だ! では作戦を練ろう」
ここには人員が六人いる。なのでまず満が黒板に、
「正夫が潜んでいる場所をこちらで探っておくから、その場所にまず……」
「待てよ、満さんよぉ!」
紫電が突然言い出した。
「俺は、緑祁と組むのはごめんだぜ?」
「何を言い出す?」
彼は続ける。
「俺と緑祁はライバル同士! なのに共闘して捕まえろだあ? それは頷けねえぜ!」
「はぁ?」
すると緑祁も、
「僕も、だよ」
と頷く。二人は先月の霊能力者大会で組んだが、それで負けたからお互いに責任転嫁をしているのではない。
「強さは認めているぜ! でもよ、一緒に頑張る気はねえな! 寧ろ先に相手を捕まえる! これは競争だな!」
「そうだね、紫電。僕は今回も負けない!」
「いいや? 俺が勝たせてもらうぜ?」
横で呆れながら聞いていた辻神が、
「何もこんな時にまで張り合わなくてもいいだろ、おまえら!」
と言ったが、
「でも辻神、そっちも僕と決着をつけたいって前に言ってたよね? 辻神も僕のライバルだ、だからそっちとは組まないで、僕は僕と香恵だけで行く!」
「…………」
辻神は豆鉄砲をくらった。
「おい緑祁、勝手にライバルを増やすなよ! 俺にだけ集中しておけ!」
「そうはいかないよ、紫電。戦うっていうのも一種のコミュニケーションなんだ。それで知り合った人はみんなライバルさ!」
とりあえず満が、
「……では、各個人で勝手に動く、でいいな? くれぐれも無理はしないように!」
強引にこの場を閉めた。