第5話 魂の合流 その2
文字数 3,202文字
一方そのころ、辻神とトルーパーは業戒の相手をしていた。
「電霊放だ…!」
ドライバーの金属部位から稲妻を放った。しかし今の一撃では、業戒の気を引くことすらできない。
「………」
もっと火力がなければ相手もできないということだ。
「ここはワタシに任せな!」
辻神に代わって前に躍り出たトルーパーは、ペンライトを取り出し、その電球に電力を貯めた。眩い光が漏れるほどに。
「行くぞ! シャドープラズマだ!」
この時辻神は、さぞ大きな電霊放が解き放たれるのだろうと期待した。しかしトルーパーが放った電霊放は、細い。直径で言うと二センチもないくらいだ。
「集束させるタイプか!」
だがその分、密度が尋常ではない。命中率重視の拡散電霊放とは真逆で、威力に重点を置いているのだ。
「ギフウルウウウ!」
業戒の前脚を貫いた。
「いけるぞ、トルーパー! その電霊放をもう一度撃ち込めば!」
しかしそう単純ではない。二人の存在に気づいた業戒は、その大きな足で踏みつぶそうとした。
「避けろ!」
間一髪、トルーパーのことを抱えてジャンプ。背中の後ろで、ドシンという音が響いた。
「踏みつけられたら命はなさそうだな……」
「グッジョブ、ツジガミ! キミがいなければあと少しでワタシも天国行だった」
「冗談は後にしておけ」
ブラキオサウルス型の業戒は、その長く高い首の先に頭がある。今、その首を曲げて地面に頭を近づけた。
「何か、ヤバい! 気がするぞツジガミ!」
「私に聞いてどうする!」
業戒が息を吸った。その、ゴゴゴゴウウという音が聞こえると同時に周囲の空気が業戒の口に吸いこまれるのを感じる。
「逃げろ、トルーパー!」
「ラジャー!」
二人が咄嗟にジャンプしたその直後に、業戒が黒い息を吐き出した。その息が近くの車を飲み込むと、バキバキという音を立てて破壊してしまった。
「何でも壊す息を吐けるのか! これは一撃も受けては駄目だな……」
車ですら一瞬も持たなかったのだ、人間なんてもっと早く破壊できて当然。
業戒は自身を傷つけたトルーパーのことを狙っているらしい。二手に分かれて逃げた途端、辻神のことを放っておき彼の方を向いている。
(マズいな……。トルーパーが負傷したら、【UON】が何を言うかわからない。死んだらそれこそ、付け入る隙を与え……死なせてたまるか!)
辻神が動いた。両手に持つドライバーから同時に放電。二重螺旋を描きながら電霊放を飛ばした。
「くらえ……! ダブルトルネード!」
その一撃は、今度は業戒に通じた。左の後ろ脚を貫いたのだ。
「ギフシイイイイイア!」
悲鳴を上げているということは、ダメージがあったということ。ちょうど業戒も辻神の方を向いた。
「ギギギ、ギシャアアアアアオオオオオオオオオ!」
どうやらかなり怒っている様子だ。頭を持ち上げ息を思いっ切り吸うのが見えた。
「逃げろ、ツジガミ!」
「いいや、今が逆にチャンス!」
その時、彼は思ったのだ。攻撃のために空気を貯め込んでいる今、その口を破壊すれば、黒い息が漏れ出して業戒の体を襲うのではないか、と。口じゃなくても長い首の内の一か所でもいい。
「もう一度、ダブルトルネードを!」
ドライバーを構える。だが発射する前に業戒が足踏みをした。
「ぐわ!」
今の振動で、辻神の体のバランスが崩れる。放たれたダブルトルネードも明後日の方向に向かって外れてしまった。
(マズい!)
体勢を整えようとする辻神に向かって、業戒が息を吐き出す。
「くっ! しまった!」
だがその時、
「危ないところだったな、ツジガミ!」
トルーパーが間一髪のタイミングで彼を救い出した。
「おまえ……旋風が使えるのか?」
「ゴッドブリーズのことか? ああ、もちろん!」
電霊放に旋風。辻神と同じだ。
「今、作戦を思いついた!」
「どんなのだ?」
トルーパーも同じ霊障を使えるなら、彼にもできるはずだ。
(霊障合体・風神雷神! 私とトルーパーが力を合わせて同時に繰り出せば、この巨大な幽霊でも除霊できるはず!)
風神雷神のためには、電池を用意しなければならない。辻神は常備しているが、見た感じトルーパーは多くは持っていなさそうだ。辻神は財布を取り出しトルーパーに投げつけた。
「何だよこれ? 日本円? どれくらいの価値あるんだ? ユーロで言うといくら?」
「コンビニに行って、電池を買って来い! サイズは問わない! とにかく多く!」
今、業戒の注意は辻神に向いている。だから自分が囮になって、トルーパーに準備をさせるのだ。
「ら、ラジャー、ツジガミ! ワタシが戻って来るまで、死ぬんじゃないぞ!」
彼が走り出した。辻神はその反対方向に動いた。
(ダブルトルネードは通じるんだ。それで攻撃すれば…。だが、この幽霊は足踏みするだけで大地を揺らせるほどに重く大きい!)
また、業戒が首を下ろして息を吐き出した。その黒い煙に、辻神が飲み込まれた。
「ギギ?」
しかし、手応えがない。
「後ろだ!」
突然、業戒の後方から金色の電撃が放たれる。今のは尻尾を感電させた。
「ギグレー!」
蜃気楼だ。彼は自分の姿を偽って、偽のビジョンを攻撃させたのだ。しかしそれも長く続きそうにはない。業戒は辻神のことを見ている。空気の流れにも気を配っている。
(まだか、トルーパー……)
業戒が大きく前脚を上げた。直後にドスンと落とす。
「ぐおおおお!」
凄まじい衝撃だ。離れた場所に立っていた辻神が、足を崩すほどである。
「ギガアアアズウウウ!」
今、息を思いっ切り吸い込んでいる業戒と目が合った。そして業戒はさらに足踏みをする。振動のせいで指の力が抜け、ドライバーが地面に落ち、コロコロと転がって業戒の方に行ってしまった。
「ヤバいか!」
もうやるしかない、風神雷神を。だが彼一人分の力では、おそらく業戒は倒せない。でも今できる一手は、霊障合体だけだ。
「ツジガミ、ヘーイ!」
ちょうど、業戒を挟んだ反対側の道路から、トルーパーが現れた。ビニール袋に大量の電池を持っている。
「いいところに来たな! 電池を投げろ!」
「ぜ、全部?」
「ああ!」
言われるがまま、トルーパーは電池をばら撒いた。同時に辻神もポケットに入れている電池を取り出し、全部投げた。
「電霊放を電池に撃ち込め、トルーパー!」
「ラジャー! さあいけ、ワタシのシャドープラズマ!」
電霊放を撃ち込まれた電池は放電をし、近くの電池に電流を伸ばす。これが連鎖的に繰り広げられ、網目状の稲妻が作られる。
「次は風だ! 電池を霊障で吹き飛ばせ!」
「お、おう!」
二人は旋風を使った。これで電池を風で運べば、霊障合体・風神雷神の完成である。
「ギャギュアアアアア………!」
風神雷神に飲み込まれた業戒は、黒い息を吐き出す前に体が稲妻によってズタズタに切り裂かれる。そして千切れた部分はすぐに消えていく。
「もっとだ! もっと大きな風で渦を巻かせろ!」
「やっているだろうが、ツジガミ!」
初めてにしては、かなり上出来だ。
「グギギ……」
業戒の胴体と長い首は、消滅した。最後に自動車くらい大きな頭だけが上から地面に振ってきて、
「トドメはワタシが刺していいか、ツジガミ!」
「任せる」
トルーパーが集束電霊放を浴びせ、完全に除霊する。
「こっちは何とかなったな……」
あと、予備校まで十メートルもない。危ないところだった。
「ツジガミ……。今のが、レイショウガッタイなのか?」
「そうだ。思ったよりも簡単で表皮抜けだったか?」
「とんでもない! 寧ろ、感激だ!」
トルーパーはとても喜んでいる。それもそのはずで、彼が日本に来た目的の内の一つに、霊障合体を使ってみることがあるためだ。これからそれを学んでいくに対し、実際に行えるのはかなりのアドバンテージとなる。
「ところで、ヤマヒメとホウコウは?」
しかしまだ終わりではない。二人の助けに入らねばいけないのである。
「電霊放だ…!」
ドライバーの金属部位から稲妻を放った。しかし今の一撃では、業戒の気を引くことすらできない。
「………」
もっと火力がなければ相手もできないということだ。
「ここはワタシに任せな!」
辻神に代わって前に躍り出たトルーパーは、ペンライトを取り出し、その電球に電力を貯めた。眩い光が漏れるほどに。
「行くぞ! シャドープラズマだ!」
この時辻神は、さぞ大きな電霊放が解き放たれるのだろうと期待した。しかしトルーパーが放った電霊放は、細い。直径で言うと二センチもないくらいだ。
「集束させるタイプか!」
だがその分、密度が尋常ではない。命中率重視の拡散電霊放とは真逆で、威力に重点を置いているのだ。
「ギフウルウウウ!」
業戒の前脚を貫いた。
「いけるぞ、トルーパー! その電霊放をもう一度撃ち込めば!」
しかしそう単純ではない。二人の存在に気づいた業戒は、その大きな足で踏みつぶそうとした。
「避けろ!」
間一髪、トルーパーのことを抱えてジャンプ。背中の後ろで、ドシンという音が響いた。
「踏みつけられたら命はなさそうだな……」
「グッジョブ、ツジガミ! キミがいなければあと少しでワタシも天国行だった」
「冗談は後にしておけ」
ブラキオサウルス型の業戒は、その長く高い首の先に頭がある。今、その首を曲げて地面に頭を近づけた。
「何か、ヤバい! 気がするぞツジガミ!」
「私に聞いてどうする!」
業戒が息を吸った。その、ゴゴゴゴウウという音が聞こえると同時に周囲の空気が業戒の口に吸いこまれるのを感じる。
「逃げろ、トルーパー!」
「ラジャー!」
二人が咄嗟にジャンプしたその直後に、業戒が黒い息を吐き出した。その息が近くの車を飲み込むと、バキバキという音を立てて破壊してしまった。
「何でも壊す息を吐けるのか! これは一撃も受けては駄目だな……」
車ですら一瞬も持たなかったのだ、人間なんてもっと早く破壊できて当然。
業戒は自身を傷つけたトルーパーのことを狙っているらしい。二手に分かれて逃げた途端、辻神のことを放っておき彼の方を向いている。
(マズいな……。トルーパーが負傷したら、【UON】が何を言うかわからない。死んだらそれこそ、付け入る隙を与え……死なせてたまるか!)
辻神が動いた。両手に持つドライバーから同時に放電。二重螺旋を描きながら電霊放を飛ばした。
「くらえ……! ダブルトルネード!」
その一撃は、今度は業戒に通じた。左の後ろ脚を貫いたのだ。
「ギフシイイイイイア!」
悲鳴を上げているということは、ダメージがあったということ。ちょうど業戒も辻神の方を向いた。
「ギギギ、ギシャアアアアアオオオオオオオオオ!」
どうやらかなり怒っている様子だ。頭を持ち上げ息を思いっ切り吸うのが見えた。
「逃げろ、ツジガミ!」
「いいや、今が逆にチャンス!」
その時、彼は思ったのだ。攻撃のために空気を貯め込んでいる今、その口を破壊すれば、黒い息が漏れ出して業戒の体を襲うのではないか、と。口じゃなくても長い首の内の一か所でもいい。
「もう一度、ダブルトルネードを!」
ドライバーを構える。だが発射する前に業戒が足踏みをした。
「ぐわ!」
今の振動で、辻神の体のバランスが崩れる。放たれたダブルトルネードも明後日の方向に向かって外れてしまった。
(マズい!)
体勢を整えようとする辻神に向かって、業戒が息を吐き出す。
「くっ! しまった!」
だがその時、
「危ないところだったな、ツジガミ!」
トルーパーが間一髪のタイミングで彼を救い出した。
「おまえ……旋風が使えるのか?」
「ゴッドブリーズのことか? ああ、もちろん!」
電霊放に旋風。辻神と同じだ。
「今、作戦を思いついた!」
「どんなのだ?」
トルーパーも同じ霊障を使えるなら、彼にもできるはずだ。
(霊障合体・風神雷神! 私とトルーパーが力を合わせて同時に繰り出せば、この巨大な幽霊でも除霊できるはず!)
風神雷神のためには、電池を用意しなければならない。辻神は常備しているが、見た感じトルーパーは多くは持っていなさそうだ。辻神は財布を取り出しトルーパーに投げつけた。
「何だよこれ? 日本円? どれくらいの価値あるんだ? ユーロで言うといくら?」
「コンビニに行って、電池を買って来い! サイズは問わない! とにかく多く!」
今、業戒の注意は辻神に向いている。だから自分が囮になって、トルーパーに準備をさせるのだ。
「ら、ラジャー、ツジガミ! ワタシが戻って来るまで、死ぬんじゃないぞ!」
彼が走り出した。辻神はその反対方向に動いた。
(ダブルトルネードは通じるんだ。それで攻撃すれば…。だが、この幽霊は足踏みするだけで大地を揺らせるほどに重く大きい!)
また、業戒が首を下ろして息を吐き出した。その黒い煙に、辻神が飲み込まれた。
「ギギ?」
しかし、手応えがない。
「後ろだ!」
突然、業戒の後方から金色の電撃が放たれる。今のは尻尾を感電させた。
「ギグレー!」
蜃気楼だ。彼は自分の姿を偽って、偽のビジョンを攻撃させたのだ。しかしそれも長く続きそうにはない。業戒は辻神のことを見ている。空気の流れにも気を配っている。
(まだか、トルーパー……)
業戒が大きく前脚を上げた。直後にドスンと落とす。
「ぐおおおお!」
凄まじい衝撃だ。離れた場所に立っていた辻神が、足を崩すほどである。
「ギガアアアズウウウ!」
今、息を思いっ切り吸い込んでいる業戒と目が合った。そして業戒はさらに足踏みをする。振動のせいで指の力が抜け、ドライバーが地面に落ち、コロコロと転がって業戒の方に行ってしまった。
「ヤバいか!」
もうやるしかない、風神雷神を。だが彼一人分の力では、おそらく業戒は倒せない。でも今できる一手は、霊障合体だけだ。
「ツジガミ、ヘーイ!」
ちょうど、業戒を挟んだ反対側の道路から、トルーパーが現れた。ビニール袋に大量の電池を持っている。
「いいところに来たな! 電池を投げろ!」
「ぜ、全部?」
「ああ!」
言われるがまま、トルーパーは電池をばら撒いた。同時に辻神もポケットに入れている電池を取り出し、全部投げた。
「電霊放を電池に撃ち込め、トルーパー!」
「ラジャー! さあいけ、ワタシのシャドープラズマ!」
電霊放を撃ち込まれた電池は放電をし、近くの電池に電流を伸ばす。これが連鎖的に繰り広げられ、網目状の稲妻が作られる。
「次は風だ! 電池を霊障で吹き飛ばせ!」
「お、おう!」
二人は旋風を使った。これで電池を風で運べば、霊障合体・風神雷神の完成である。
「ギャギュアアアアア………!」
風神雷神に飲み込まれた業戒は、黒い息を吐き出す前に体が稲妻によってズタズタに切り裂かれる。そして千切れた部分はすぐに消えていく。
「もっとだ! もっと大きな風で渦を巻かせろ!」
「やっているだろうが、ツジガミ!」
初めてにしては、かなり上出来だ。
「グギギ……」
業戒の胴体と長い首は、消滅した。最後に自動車くらい大きな頭だけが上から地面に振ってきて、
「トドメはワタシが刺していいか、ツジガミ!」
「任せる」
トルーパーが集束電霊放を浴びせ、完全に除霊する。
「こっちは何とかなったな……」
あと、予備校まで十メートルもない。危ないところだった。
「ツジガミ……。今のが、レイショウガッタイなのか?」
「そうだ。思ったよりも簡単で表皮抜けだったか?」
「とんでもない! 寧ろ、感激だ!」
トルーパーはとても喜んでいる。それもそのはずで、彼が日本に来た目的の内の一つに、霊障合体を使ってみることがあるためだ。これからそれを学んでいくに対し、実際に行えるのはかなりのアドバンテージとなる。
「ところで、ヤマヒメとホウコウは?」
しかしまだ終わりではない。二人の助けに入らねばいけないのである。