第33話 貢ぎ物

文字数 525文字

 それから毎日おれと与太は竹林の土俵で稽古をした。
 本物の龍虎がいなくなって雨が降りにくくなったのか、来る日も来る日も空は晴れていた。ある日、与太がきゅうりを持ってきた。龍虎の好物だと村に伝わっているそうで、昔は貢ぎ物として捧げていたという。

「貢ぎ物は西の家の連中のすることだろ」
「う、うん……」

 それはそうだけど、と言いたげな顔を逸らして与太は風呂敷包みを押し付けてくる。相撲でもないのに押しが強い。
 二人で川辺の岩に腰かけてきゅうりをかじった。漬け物にしたきゅうりを食べて以来口にして来なかったが、こっちも捨てがたい。

「もし、ぼくが勝ったら、龍虎はどうするんだ」

 残りわずかになったきゅうりを見ながら、与太がぼそりとこぼす。

 どうって……

 明日は本番だ。そこでの勝敗が村の方針を左右する。奇山先生もそれを見て、もう少し留まるかどうかを決めるのだろう。
 少年は横暴な河童から村を守るために取組をするはずなのに、その顔はどこか寂しげだった。見ているとおれまで妙な気持ちになってくる。

「そんなの、おれの勝手だろ」
「……」

 おれは残っていたきゅうりを平らげる。

「ほら、早く帰んねえと、尻子玉とっちまうぞ」

 尻を叩く。少年は尻を隠して、走って帰っていった。


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