第50話 狐の意趣返し

文字数 359文字

 庵のすぐ近くに街道が通っている。

 待っていると汚ならしい身なりの男が通り掛かった。不精髭をはやし、もう何日も風呂に入っていないが臭いでわかった。首筋をかくと、爪の間に垢がたまった。

 魚でいえば“ぼら”が妥当か。
 あれは釣ると悪臭を撒き散らすという。

 ちょうどいい。裸のまま玉鏡は胸を隠して街道の中央に躍り出る。

「そこの殿方、着るものをお借りできませんか」

 男は立ち止まった。まるで狐につままれたような顔をしている。
 道を歩いていたら、一糸まとわぬ女が出てきたのだから無理もない。その顔がいやらしく笑う。なにを考えているのか、手に取るようにわかった。

「もちろん、ただとは申しません。あちらに庵があります。そこで相応のお礼はさせていただきます」

 釣れて嬉しくない魚もいる。
 そうとも知らず、(さかな)はまんまと食いついた。

(了)

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み