第199話 失敗の先にある結果 Bパート

文字数 5,401文字


 それからは改めて学校での実祝さんの様子や、私や蒼ちゃんの様子なんかを伝えながら概ね穏やかな昼食の時間を共有して、再びあの本独特の匂いが漂う実祝さんへの自室に戻って来る。
「愛美ありがとう。でもやっぱり咲夜は認めてもらえなさそう」
 扉を閉めて二人だけになった室内で、一番初めに出て来るのがやっぱり咲夜さんで。
 ただ蒼ちゃんも咲夜さんだけは認める気配は無いし、私としても取り掛かりが無いと言うのが正直な感想だったりする。
「それでも私たちが咲夜さんと友達なのは変わりないし、優希君や先生だって気にはかけてくれているよ」
 だから励まそう、元気付けようとしても現状を口にするしか今は出来ない。だけれど、人を赦すしんどさを私自身もう知っているのだから蒼ちゃんに対して強くも言えない。
「副会長と言えば……喧嘩。約束通り愛美を大切にしてる?」
 約束……。咲夜さんをこれ以上誤解しようのない行動でお断りしてくれた優希君に一言。確認していたのを思い出す。
「もちろんケンカなんてしていないし、優しくもしてくれているよ」
 そもそも私のお願いもワガママを聞いてもらっている上、その下心と共に“私にしか興味が無い”も実践してくれている優希君。だからあの日、図書館のお姉さんにデレっとしていた事件は、今回に限り不問にしているのだから嘘はついていないはずだ。
「だったら後はあの感じの悪い会長と、島崎君だけ。そう言えば会長の告白は?」
 っとそう言えば実祝さんにはまだちゃんと話していなかったかもしれない。それに蒼ちゃんからも実祝さんとしっかり話し合えって言われていたのを思い出す。
「その会長だけれど私、25日の金曜日に告白されると思う。その時にしっかりと諦めてもらうつもりだから咲夜さんの負担と言うか、気がかりも減ると――」
 (186話)
 今まで何度も人の気持ちや心を他人が口にするものじゃないとは言い続けて来たけれど、私の親友や友達。それに彩風さんや優希君のいる統括会のみんなの前でも誰憚る事なく公言した上、今の私たちの教室の雰囲気や咲夜さんに対する心象の影響も全く考えてくれないで、毎回教室に来ては私を探して。そんな人の気持ちまで考える程、私は良い人でもお人好でもない。
「――愛美。それは駄目。前にも言った。あの会長は愛美に何をするか分からない。その話、副会長には?」
 だから、私の気持ちを周りにしっかり発信する意味でも周りに相談と言う形はとらせてもらう。
「言ったって言うか優希君と相談した結果、前に食堂で話した通りしっかり断るし、万一の場合に備えて優希君が近くで待機してくれることになっているから」
 どっちにしても会長から正式に連絡があって、優希君からもしっかり対策を聞いた上で了承したのだから、今更どうのこうのはない。
 私がしっかりと会長の気持ちを“お断り”して、諦めてもらって優希君に安心してもらう。ただそれだけだ。
「駄目! 副会長が愛美を大切にしてないのが分かった。これは直ぐに蒼依に相談」
 なのに実祝さんも蒼ちゃんと同じ反応をするから
「その蒼ちゃんも反対だって私に注意した上、直接優希君に電話して会長からの告白に付き合わない様にって直接言ったらしいけれど、結局気持ちは変わらなかったって優希君からは聞いているよ」
 事の顛末と言うか、話のいきさつを実祝さんに伝えるけれど、どうにも実祝さんの反応が芳しくない。
「自分の彼女が他の男子と二人きりになるのを公認する意味が分からない。しかも相手はあの危険で感じの悪い会長。副会長に対する印象が複雑。これが恋愛上級者同志……」
 なんか久しぶりに聞いた気がする。その言い方だと優希君も恋愛上級者になっている気がするんだけれど……でもこれだけたくさんの女の子の心を引っ掻き回した優希君は恋愛上級者……じゃなくて、ただの女の子泣かせなだけな気がする。
 ……話を戻すと、ただ私たちはお互いに安心したいから諦めて欲しい相手がいるから、朱先輩から教えてもらった脳とスイッチを応用して、しっかりと“お断り”したいだけなのだ。
「ちなみにその後か前かは分からないけれど、冬美さんにも優希君へ告白してもらった上でしっかりと断ってもらうつもりだから、私たちはお互い同じような事をしようとしているの。だから優希君が悪いとか言い出したら私、怒るからね」
 後は、私が優希君の彼女なんだから“大好き”な人を立てるくらいはしておいても罰は当たらないと思う。
「副会長に告……白。新しい女……」
 実祝さんの頭がパンクしたのか、何か思考がおかしい方向に向かっている気がする。
 ……そう言えば昨日御国さんも頭を抱えていたっけ。そう考えるとひょっとして私たちのしようとしている事はおかしいのか。
 でも朱先輩も優希君も同じ考えになっているわけだから、全くおかしな事をしようとしている訳では無いとは思うけれど……
「ちなみに優希君を好きだって言って告白した女の子は、今私が知っているだけで4~5人くらいかな」
 それを分かって貰うつもりで具体例を出したのだけれど、
「……それをワザワザ副会長が愛美に?」
「人数は別として、お互い隠し事はナシで行こうって決めているんだから、都度お互いに言いにくい内容でもちゃんと話し合ってはいるよ」
 何よりもお互いに後から知る辛さを知っているのだから。
「……恋愛上級者の考え方が理解できない。あたしだったらそんな話なんて聞きたくない。基礎だけで良いから愛美に教えて欲しい」
 なんでそうなるのか。私は優希君へ矛先が向かない様にと、お互いの話をしただけなのに。
「そう言うのは蒼ちゃんの方が詳しいし、今回の件があってから男女関係に関しては更に厳しくなったから、しっかりした貞操観と共に色々教えてくれるよ」
 第一私は優希君以外の男の人をそんなに知らないし、こうなるまでは慶の面倒も含めて家の事をして来たのだから、恋愛に関するコミックや雑誌なんて読む暇も無かったのだ。
「むぅ。愛美が教えてくれない。分かった。蒼依に今の話と合わせて恋愛の基礎を教えてもらう」
 その後は取り留めもない話、実祝さんのご家族やこの連休中は何をしていたのかなどの話に花を咲かせた。


 本当ならもう少しくらい実祝さんとゆっくりしていたかったのだけれど、明日からは学校だしこの後も少しだけでも園芸部に寄って部活再開の目処と教頭先生の課題もあったから、少し早い目の時間にお暇させてもらう。
「あら? 愛美ちゃんもう帰っちゃうの? せっかく愛美ちゃんも来てくれるからって四人分の夜ご飯も用意してたのに」
 ところが玄関でお姉さんとお兄さんに声を掛けたら、先の言葉通り惜しんでくれるけれど、
「さすがにお昼も夜もなんて頂けませんよ。それに家で両親も待っていてくれていますし」
 あまり遅くなるのも嫌だし、今日も制服では無いけれど今日も学校へは一応顔を出すつもりはしているのだ。
「本当だったらせっかくだから泊まって行ってもらって、あたしも一緒にパジャマパーティーとかしたかったのに。泊まるのも駄目で帰るのもこんなに早いなんてちょっと遠慮が過ぎる気もするけど?」
 まさかお姉さんまで、一緒に楽しむつもりだったなんて。だけれど夜ご飯もそうだし、ましてや泊まるとなるとまたお父さんが何を言い出すのか分からない。
 ただ幸いな事に明日は学校だから今日泊るような話にはならないとは思うけれど。
「そんな事ありませんよ。それに私以外の友達も泊まってもらって下さい。そしたら今よりたくさんの人に実祝さんを知ってもらえると思いますよ」
 学校とはまた違った、麗人としての実祝さんの雰囲気。今の実祝さんの雰囲気なら声を掛けてくれる人はもっと増えると思うし、逆に招待した友達をより深く知る事も出来ると思うのだ――特に咲夜さんとか。
「ほら。愛美ちゃんが遠慮ばっかりするから祝ちゃんが拗ねちゃってる」
「って実祝さん?!」
 通りでさっきから静かだったわけだ。でも実祝さんが拗ねた所なんて初めて見た。
「別に拗ねてない。もう少し愛美と話したかっただけ」
 学校では自分から進んで喋ろうとはしない実祝さん。でもやっぱり喋ると楽しいし、今までの姿を見ていると分かる通り、今は教室全体の空気が重いのも相まって誰もが口を閉ざしているだけで、実祝さん自身も喋るのは好きだと分かる、伝わる。
「ありがとう実祝さん。でもまた明日学校でも喋れるしあんまり遅い時間になっても怖いから、今日はもう帰るね」
 明日教室内で今みたいな雰囲気で喋れれば実祝さんに対する印象と共に、雰囲気自体も変わるかもしれないのだから。
「……むぅ。そう言われたら明日は学校あるし、あれだけの事件もあった以上あたしからは無理に引き留められない」
「その分また明日、たくさん喋ろうね」
 その先に先生の笑顔と自信。それに蒼ちゃんも帰って来やすくなる雰囲気になるのだったら、教室内の重い空気を何とか出来たらなとは思う。
「ん。じゃあ絶対明日も喋る。そして副会長に真意を聞く」
 実祝さんもまた蒼ちゃんと同じように、優希君や朱先輩とは違う形で私を心配してくれているのが本当に心にしみる。
「ありがとう実祝さん。それじゃまた明日ね――お姉さんとお兄さんもありがとうございました」
「残念だけど、今日もバッチい男の人にナンパされたばかりだもんね。だから今日は許してあげる」
「ん。それじゃ明日また三人で」
 私は温かな気持ちを持ちながら、改めて実祝さん宅をお暇させて頂く。

宛先:冬美さん
題名:今から学校に向かうよ
本文:時間も時間だから、私も適当に切り上げるつもりだから無理して来なくても
   良いからね

 そして学校へと向かう道すがら、冬美さんとの約束通り今から学校へ向かう旨のメッセージを送る。もちろん冬美さんが夜道を歩かなくて済むように配慮しながら。


 その途中、今日冬美さんに伝えないといけない金曜日以降の会長と彩風さんの動きと言うか、やり取りをまとめておく意味で昨日の理沙さんとの電話をもう一度思い出しておく。
 まず21日月曜日・祝日の昨日。今は統括会のみんなで協力して学校で起こった事件と冬美さん続投に向けて力を合わせないといけないはずなのに事もあろうか、私への誤解防止と告白のために、好きでも何でもないはずの彩風さんの心と言うか、恋情をへし折った。
 しかも女の子にとっては大変失礼極まりない言葉によって。その上、私が理由なんだからその矛先が私に向かえば何の問題も無かったはずなのに、どうして冬美さんに向かってしまうのか。
 せっかく冬美さんらしさも戻って来て中条さんも理解し始めてくれているのに、ここで彩風さんに爆発されたらあの教頭の課題も何歩か後退してしまうんじゃないのか。
 少なくとも私自身も納得出来ない理不尽である以上、彩風さんと二人だけで報復なんて言う馬鹿げた話をさせる訳にはいかない。
 だから本来なら二人の恋情の話で、他人である私たちがとやかく言うのは駄目だけれど、先の理由から冬美さんにだけはしっかり伝えておかないと、むしろ後が大変な事になる。
 そしてもう一つ問題なのは彩風さんへの役員解任発議だ。
 私は会長なんて好きじゃない、最近はもう嫌いだって何回も言い切っているし、優希君ともお付き合いをしていると何度も何度も言っているにもかかわらず、私と会長の仲の良さを目の当たりになんて出来ないから統括会を辞めると言う。
 万一そんな流れにでもなってしまったら、来年度は逆に冬美さん一人で引っ張って行かないといけなくなってしまう。
 だから私からも下手な発議は出来なくなってしまっている。
 つまり私の大切な友達でもある冬美さんを守るためには、彩風さんをどうにかしないと駄目って事になってしまう。
 そう考えると全体をまとめないといけないはずの会長が全ての元凶にしか見えなくなってくるんだけれど。
 とにかく頭の中で、理沙さんから聞いた金曜日からの動向をまとめ上げたところで、私から呼び出しておいて冬美さんを待たせる訳にはいかないからと学校へと急ぐ。


 私が学校へと着いて冬美さんの姿が無かった事にホッとするのも束の間、

宛元:冬美さん
題名:今何時だと思ってるんですか
本文:受験生でもある岡本さん一人でさせる訳にも行きませんからワタシも向かい
   ますけど、破天荒にも程があります。もう少し常識を持って下さい。

 ……自分から何時でも良いって言ったクセに二枚舌の次は破天荒と来たか。
 何でこんなに心の広い私を捕まえて二枚舌とか破天荒とか好き勝手ばかり言われないといけないのか。無事友達になれたのなら、私からもたくさん文句を言おうと思ったのだけれど何でこっちばかりが好き放題言われる羽目になっているのか。
 いくらなんでも遠慮が無さすぎる気がする。
 そう思うのに、冬美さんらしい頭の固さを垣間見て穏やかな気持ちになってしまう辺り、私も大概なのかもしれないけれど。
 それでもこれ以上冬美さんに文句を言われるのは心外だからと、急ぎ校門の方へと足を運ぶと、
「ひょっとして御国さん?」
「あれ? ひょっとせんでも岡本先輩ですか? 今日は学校休みやのにどないしはったんですか?」
 そこには制服姿の御国さんの姿があった。

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