第192話 友達 Aパート

文字数 8,196文字

 今日は優希君とのデート。しかも久しぶりの図書館デートの上に朝からだから、今回こそお弁当を持参して絵面を良くして一日勉強しながら一緒にいられると思ったのに、
「眠い」
 昨夜の冬美さんとの電話で、予想以上の頭の固さに遭って話が難航したのだ。
 私はあくびを噛み殺しながら布団から這い出て昨夜、最後の電話を思い返す。


 昨日蒼ちゃんに注意された私が会長への呼び方を元に戻したと同時に、朱先輩からも蒼ちゃんと同じような結論のメッセージを貰った後
『雪野ですけど。こんな時間にどうされたんですか? 岡本さん』
 金曜日に会長と彩風さん二人相手に頑張ってくれて以来音沙汰が無かったからと、
『どうしたもこうしたも、金曜日あのまま帰ってしまったんだから、気にも心配にもなるじゃない』
 冬美さんの状態を確認させてもらう。
『気にするとか心配とか言う理由で、こんな時間にワザワザ電話して下さったんですか?』
 わざわざ……か。
『心配だった友達に連絡をするのに手間なんて感じないよ』
 一年近く一緒にやって来て、こんな状態になるまで気付けなかった私も大概だけれど、やっぱり冬美さんは今まで中々誰にも理解されて来なかったのが分かる一言だった。
『……正直堪えました。ワタシの懸想する殿方に会長が平気で暴力を振るい、あれだけの暴言を吐いて、ワタシ自身も信用されて無かったのも』
 そうしたら案の定、その声に力もなく会長の本性を知ってショックを受けた冬美さんがいただけだった。
『冬美さんがショックだったのは理解出来るし私も正直色々思う所もあるよ。でも、だからこそどんな場面でも暴力を徹底否定するから、理沙さんに想いが届いたのは確かだよ』
 みんな心の奥では冬美さんの性格を理解しているからこそ、初めだけとは言え統括会全員一致で冬美さんにかけられた嫌疑を否定したんだから。
『それでもワタシが会長と霧ちゃんの仲を引き裂いたのには変わりありませんよね。懸想する殿方の悪口を言う会長と協力関係を作って、霧ちゃんと会長の仲をワタシが壊して、挙げ句ワタシじゃ信用出来ないからと言って岡本さんのご友人にまで協力関係を築いて。それで誰の想いも実らずに、そこまでワタシが信用ならないなら、会長の方からワタシとの協力関係を切って下されば良かったのに』
 なのに、今まで何も行動を起こして来なかっただけの彩風さんが手の平を返して冬美さんを責め始めて。会長は後ろめたい事全てを私の友達でもある後輩の女の子に押し付けて。
 その上、同じチームだって言っていた自分の言葉ですら裏切るかのように、冬美さんの信頼の気持ちに不誠実にも、咲夜さんにまで協力を取り付けて、私たちの友達関係まで引っ掻き回して。
 どんな事をしてでも私が欲しいからって、こんなやり方はさすがに違うと思うし、これで私の気を本気で惹けると思っているのならさすがにバカにすんなって話で。
『金曜日、彩風さんに雷を落とした時にも言ったけれど、彩風さんと冬美さんの因果関係なんて何もないからね。同じ言葉の繰り返しになってしまうけれど、こうなるまで具体的な行動を起こさなかった彩風さんに原因があるし、自分は人に助言を求めておいて、他人は駄目だって言うのも私は認めない。
 それに、本気でそこまで想うのなら、誰が相手でも譲りたくない程の想いがあるのなら、私なら逃げも隠れもしないで受けて立つし、人の責任なんかにしている暇なんて無いよ。それに優希君も相当怒っていたけれど、同じ男として女の子のせいにするのは許せないって。
 そこは私もものすごくかっこ悪いって思っているから優希君と同じ意見だよ。ちなみに理沙さんも“あんな男とお付き合いするのは駄目だから彩風さんを説得する”って言っていたくらいだから……後は分かるよね』
 だけれど、二人から直接言葉の刃を受けた冬美さんは違う。これだけ頭の固い冬美さんが、私相手に弱音を吐いて来るくらいなのだから、それはよっぽどだと思うし私の中にはもうどうする事も出来ないくらいの怒りもたまっているのだ。
『……どうしてですか? 霧ちゃんじゃないですけどどうして岡本先輩さんは二人の仲のお邪魔虫のワタシにそこまで親切にして頂けるんですか? ワタシ本気で岡本さんから空木先輩を盗り返そうとしてるんですよ? 岡本先輩の本気はもう疑う余地なんてありませんけど……この際そこは良いとして、それでもお二人がワタシに良くして頂ける理由が分かりません。どう考えてもワタシが岡本さんの立場なら、ワタシを自業自得として放っておく姿しか浮かびません』
 なのに冬美さんはまだ自分一人が、私たちの仲を引っ掻き回し、会長と彩風さんの仲を壊したと思っている。
 本当に優希君の言う通り、何の非も無いと私たちが言い続けている自分の友達、知り合い、仲間を追い込んでいくのがそんなに楽しいのか。それが本当の腹いせになるのか。このまま次の統括会――来週の金曜日――まで彩風さんの態度が変わらなければ、私は出来る限り言いたくなかった非情とも言える一言“彩風さんの統括会解任”の発議をしようと心に決めてしまう。
 いくら会長が言葉だけでキレイに、経験者がたった一人になるのを回避しようと言い繕ったとしても、これだけバラバラになってしまった状態でどう回避しようと言うのか。それなら後輩二人をもっと大切にしないといけないんじゃないのか。
『だからだよ。冬美さんの気持ちが遊び半分じゃなくて、本気だって言うのが随所で分かるからその気持ちを尊重したくなるんだよ。逆に遊び半分で優希君にちょっかい掛けて、文字通り手を出していたのなら、それこそ私は何をしていたのか分からないよ』
 遊び半分で私たちの初めて同士の口付け、初めてのお弁当。それに腕を組んだり例えそれが唇同士じゃなかったとしてもほとんどの初めては冬美さんに持って行かれた形になって……そう考えたらだんだん腹立って来た。
 そう言えばこの件に関しては冬美さんと友達になれた時に、文句と嫉妬をまとめて冬美さんにぶつけようって決めていたんだった。
『だったら、ワタシだって岡本さんが認めて下さったように空木先輩に本気なんですから、岡本さんからしたら文句はないはずですしご納得もして頂けるって事ですよね。もちろん昨日言いましたように会長なんて関係無しです』
 何を言い出すのかと思えば、私自身が何をしでかしていたか分からないだけで、文句なんて溢れる以上にあるに決まってるっての。
 でもまあ、それで会長に対する自責が少しでも軽くなると言うのなら、それも一つの手なのかもしれない。
 ただし、これだけみんなの気持ちが明け透けになってしまっている以上、ほとんどの初めても無くなってしまっているのだからこの上、まだ私に優希君への告白を宣言して来ると言うのなら、こっちだって嫉妬と文句くらい、いい加減ぶつけないとその内大爆発してしまいそうなのだ。
『先輩でもある私の前で、堂々と優希君に告白するって宣告して来たって事は、私とはもう友達だって認めてもらえたって認識しても良いの? それとも礼儀知らずで、無礼にも「っ?!」先輩の彼氏に告白する、たった一つ若いだけの武器を使ってちょっかい、手を出すものすごく失礼な後輩だって思った方が良いの?』
 だから、何が何でも友達だって言うしかない質問の仕方で冬美さんに聞いてやると、
『~~っ。突然なんて言い方をするんですか! さっきまではワタシが本気だったら、空木先輩に告白しても良い、何をしても良い。本気だからこそワタシの気持ちを尊重して下さると仰って頂けたんじゃないんですか? いくら何でも自在に舌が増え過ぎです』
 途端にいつもみたいに元気に私に噛みついて来る冬美さん。これで舌の枚数とか二枚舌とか言い出さなければ可愛げがあるのに、どうしてこの頭の固い可愛い後輩は余計な言葉を挟むのか。
 しかも私の意図通りに元気になったのは良かったけれど、しれっと言葉まで増やしているし。
 私は何をしても良いなんて言っていない。ただ本気だったらその気持ちは“人の心は強制出来ない”以上、尊重するだけと言う話なのに。
『あっそう。じゃあ友達でも何でもない先輩に対してさん付けで呼んで「じゃあ今から岡本先輩に訂正――」――先輩に対して失礼な後輩のまま、その先輩の彼氏に告白する。
 もっと分かり易く言うと失礼な後輩のまま自分の好きな人に告白する。好きな人に失礼な女の子だって思われても平気な人だったんだ冬美さんって。ふぅん。だったら今更隠す必要は無いだろうから優希君にもう一回告白するって伝えておくね』
 だからこれ以上ないって言うくらい、冬美さんの性格を刺激して煽り倒して挑発する。
『なっ?! なんて舌の数ですか?! そもそも岡本さんから名前で呼べと仰って頂いて、本気だったら良い、むしろ本気じゃなくて遊び半分の方が質が悪いって仰ったんじゃないんですか?! なのにそこまでして岡本先輩さんまで空木先輩からのワタシの印象を下げようとするんですか?!』
 何が舌の数なのか。私の舌は一枚しかないに決まっているし、これだけ目の前で煽られても友達出来る私の広い心に、感謝されても良いはずなんじゃないのか。
 なのに、自分が認めたにもかかわらず、何しれっと友達枠から先輩後輩枠に戻そうとしているのか。そんな事をされたら私から冬美さんに文句を言えなくなってしまう。
 しかも私を、あんな会長や彩風さんと重ねようとしているし……あんなって言うのは言い過ぎかもしれないけれど。
 いずれにしても私と冬美さんと優希君の話で、私は冬美さんに文句と嫉妬を利息を付けてまとめてぶつけるって言ったはずなのだ。
 固い頭のはずなのに、冬美さんを知れば知る程なんて都合の良い頭の構造をしているのか。
『大好きな彼氏、優希君を渡したくないんだから当たり前じゃない。それくらいなら厭わないくらいには優希君が“大好き”だから。それとも冬美さんの中ではまだそんな事を気にするくらいの気持ちしか無いの?「?!」――だとしたらすぐに他の女の子、現時点で私が知っているだけでもまだ2~3人優希君を狙っている女の子に盗られるだろうから、早く諦めてくれる?』
 ただ、この部分は頭の固さじゃなくて冬美さんの人としての考え方、矜持なのかもしれないけれど。
 それでも少し生々しいけれどこういう考え方もあるって知ってもらえれば、彩風さんが如何に綺麗事、おままごとになってしまっているのか分かって貰えるだろうし、その分気持ちも少しは楽になってもらえるとも思う。
『分かりました。岡本さんがそこまで本気だからこそワタシが失礼な後輩だって印象を落とすのを厭わないと仰るのなら、スカート姿だって言うのに、殿方がいないからって手も足も癖悪く出して喧嘩早かった上に、スカートの中も少し見えましたって。岡本さんが女性らしさもなくがさつでしたってお伝えさせてもらいます』
 せっかく私が少しでも冬美さんの気持ちが楽になればと思っていた所にまさかの反撃。
 しかもそう言う話は最近優希君がものすごくエッチだって分かって来ているだけにあまりよろしくないどころか、優珠希ちゃんに私への“ハレンチ”を取り消して貰わないといけないのだから都合が悪い。
 だけれどライバルの前で間違っても弱みを見せる訳にも不利になる訳にも行かない。
『別に言っても良いよ。私は冬美さんとは違って“大好き”な人、優希君に秘密なんて無いし、冬美さんに対して優希君の前で手や足を出しているのは何回も見ているのだから今更だよ』
 だから間違っても何一つ冬美さんが有利になるような情報は零さない様に細心の注意を払いながら、しっかりと私たちの信頼「関係」も合わせて伝えさせてもらう。
『~~っ! 何なんですか?! 人の気持ちも色々ない交ぜになった感情も知らないで、結局そうやってワタシに空木先輩との仲を見せつけたいんですね! 結局このままじゃワタシは空木先輩には告白出来ませんし岡本先輩の欠点もお伝え出来ないじゃないですか』
 何が“人の気持ちも感情も知らないで”なのか。冬美さんこそ、私の中でどのくらい酷く嫉妬が煮えたぎっているのか分かっているのか。
 ただそれだけで私がかけ引きをしているのに気付いていない頭の固い冬美さんは、身動きが取れなくなってしまう。
『だったらもう優希君に告白するの、辞めとく? それなら私の強力なライバルが一人減って安心なんだけれど。それに付け加えて助言するだけなら、自分が好きな人の悪口を言われたら誰だって気分を害するだろうし、言われた相手に対して良い印象は持たないと思うよ。私や冬美さんが今、会長に抱いている感情……心象みたいに。違う?』
 本当に押しの強さと人の話を聞かない以外に冬美さんの悪い話を聞かない優希君。そして現在の冬美さんの変化を見て“人の話を聞かない”部分に関しては、冬美さん自身が色々な経験を通して解消されつつある今、増々もって一番警戒しないといけない女の子なのだ。
 それでも私と冬美さんはもう友達なのだから、次の恋では冬美さんの気持ちが相手に届くようにと思うくらいは、力になりたいって思ってはいる。
『なっ?! 岡本さんは一体何枚の舌を持ってるんですか?! そうやってワタシを煽って空木先輩からの印象をワタシ自身で下げさせようとしてたんですね』
 私は冬美さんに助言するつもりで、実体験を通して感じたであろう印象を、それこそワザワザ教えたのに、よりにもよってまた私へ喧嘩を売って来るし。
 いくら元気になった方が良いって言っても、私に対して少し遠慮も無さすぎるし失礼すぎるんじゃないのか。
『ちょっと冬美さん。私が舌を何枚か持っているみたいな言い方をしていたけれど、どう言う事よ。私は優希君からの印象が下がらない様にって助言したつもりなんだから、お礼の一つくらいあっても良いんじゃないの?』
『何がお礼なんですか。結局口では何とでも仰っておきながらワタシが空木先輩に告白出来ないように仕向けてるじゃないですか』
 しかも人の彼氏、先輩の彼氏に告白するって言うのに全く遠慮も気まずさも無さそうだし。
 まあ、いつもの冬美さんが戻って来たのならこれで仕上げだ。
『何でよ。私と友達だって、先輩後輩の関係じゃなくて対等な関係だって認めてしまえば、私が優希君に告白したら良いって言っている以上、失礼でも礼儀知らずでもなくなるんじゃないの? それに誰にどう言われようとも、誰に何をされようとも、冬美さんの優希君に対する気持ちはどうせ変わらないんでしょ?』
 これで私たちの関係を友達だって冬美さん自身が自発的に認めてしまえば、それに人を好きになるのに二人だけで完結出来る訳が無い、必ず他者も影響を与えると言うのを理解してもらえれば……
 私の目標の一つである“昨日の敵は今日の友”が完成するんだけれど、
『なっ?! なっ!! ま、まさかっ! 今までワタシの行動を阻害して来たのも、空木先輩に告白出来なくしたのも岡本さんの足癖の悪さを空木先輩に言えなくしたのも何もかも、全てはワタシに岡本先輩さんと友達だと言わせる為だったんですか?!』
 その一言を貰う最後の寸前でやっぱりその

に気付いてしまう冬美さん。
 何で優希君の回りには優珠希ちゃんと言い、目の前の冬美さんと言い頭の回転の速い人が多いのか。ひょっとしてこれだけ下準備を重ねたのに、私の準備が悪いのか。
『何をそんなに驚いているの? 昨日もみんなの前で私は冬美さんとは友達だって、友達の悪口を言われるのは腹立つって言っていたんだけれど、昨日は気持ちが一杯でそこまでの余裕はなかった?』
 だったら最後の一つは忘れているのか、気付いていないのか、煽ってでも逆に気遣ってでも……冬美さんがどちらと捉えるにしても、無理矢理にでも最後の一言を言わせるだけだ。
『だったら私一人で友達だって思っていただけなんだ……寂しいな』
 本当に電話口で良かった。これを対面で表情まで

なんて言われても裏表の無い私には絶対出来なかったと思う。だって今も私は電話口の前で、間違いなく名実ともに冬美さんと友達になれると、笑顔を浮かべる怖い人になっているのが自分でも分かるのだから。
『~~っ!! 分かりました!! 岡本さんとは今から完全な友達です。だからそんな声を震わせて泣きそうな声を出さないで下さい! 岡本さんを泣かせると、中条さんと言い空木先輩と言い、本当にみんな怖いんですっ!』
 もう夜も更けて深夜に差し掛かろうと言う時間、私は部屋の中で飛び跳ねたいのを何とかこらえるのに苦心する。
『よしっ! これで今までの優希君と冬美さんへの文句と嫉妬を心置きなく言えるっ!』
 だから思わず言葉に出してしまったけれど、ちょっと早すぎたのか、
『な?! ちょっとなんですかそれ! そんな事まで考えてたなんて、よくそれだけの舌があって口の中で絡まりませんね! ワタシは何の気兼ねも無く空木先輩に告白するため、岡本先輩に遠慮なく何でも話せるようにと友達になったんです。なのに何でワタシが岡本さんの文句と嫉妬を受けないといけないんですか?!』
 ……あまりに嬉しすぎて声に出してしまっていた私も大概だけれど、口の中で舌が絡まるってどういう事なのか。私は妖怪か何かか。
『何言ってんの? 私、初めから冬美さんにはたくさん文句を言いたいって言っていたよね。それから絡まる程の舌なんて無いんだから訂正してくれる?』
 しかもまた都合よく私の言葉はそのまますっぽりと忘れているみたいだし。
『何でですか? 友だち同士なら言いたい事言い合っても良いんですよね』
 言い合っても良いって言うのをそう取ったのか。だったら最後の私たちの気持ちを伝えるのに尚更好都合かもしれない。
『分かった。お互い言いたい事がたくさんありそうだから、明日の夕方、週末は部活禁止で誰もいないだろうから学校で待ち合わせをしよっか』
 少しだけ優希君とのデートは短くなるけれど、その分明日……いや、もう今日か。は、朝からデート出来る上に冬美さんと会うって言えば優希君も喜んでくれると思う。
『は? 急に何を言い出すんですか? そんなの急に言われたって予定が入ってるに決まってるじゃないですか』
 かと思ったらまさかの予定とお断り。何か負けた気になるのはどうしてなのか。
『そんな事言うけれど、優希君からのお誘いならどうするの? それでも断るの?』
 さすがに自分でも子供かなと思わない事は無かったけれど、こっちは肩透かしを貰ったんだから多少は大目に見て欲しい。
『何を子供みたいに駄々をこねてるんですか。もう明日の予定も先方の先生方には連絡してますから、そんな失礼は出来ません。月曜日なら普段は学校ですから習い事は入れてませんし一日中空いてます。ただし火曜日は専用のシェフをお呼びして空木先輩に口にして頂くお料理を教えて頂く予定になってますので、実質21日の月曜日だけが空いてます』
 夜更けに差し掛かる時間のはずなのにびっくりし過ぎて眠気もどっか行ったよ。
 しかも優希君に食べてもらうお弁当で専用のシェフを呼ぶとか、本気度合いが違い過ぎる。
『……ちなみに明日、日曜日の習い事って?』
『茶道と華道です』
 ……前から良い所のお嬢様なのかと疑ってはいたけれど、増々その線が濃厚になっている気がする。
 でも確かにこの頭の固さに先輩後輩の立ち位置のけじめ。それに私以外対する丁寧な言葉遣いに綺麗な所作。そして気が付いてみれば優珠希ちゃんとは違う、本当に

隙のないその所作。片鱗自体はたくさんあったのかもしれない。
『明後日21日の月曜日なら空いてますからメッセージで入れておいてください。それじゃあもう遅いのでそろそろ寝かせて頂いても良いですか?』
 私が頭の中を整理している間に、あくびを噛み殺す冬美さん。
 このままだと私の方が非常識な人になってしまう。
『分かった。また明日連絡するね』
 前に、目に見えている物が全てではないと思ってはいたのだけれど、まさかこれだけの片鱗でお嬢様としての一端に繋がっているとは思わなかった。

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