二年目 正月 会社員・加藤田宏志

文字数 805文字

「くそ……寒いな……」
 田舎の実家は広いのはいいが……正月に帰ると暖房が行き届いていない。
 宏志は、その実家の一室でスマホの画面を見ていた。
 SNSアプリが起動されており、「#シン日本男子」で検索した結果が表示されている。
 宏志自身も該当している「特異型男性」は、どうやら日本人または父系の祖先に日本人を持つ外国人でしか見付かっていないらしい。
 どこから漏れた話かは不明だが、この情報が漏れた経緯だけは明白だ。
 あまりに、この「特異型男性」の件に関わる者が多くなった結果らしい。
『何故、陰謀論者が考えるような陰謀が不可能かと言えば、陰謀に関わる者が増えれば嫌でも情報が漏れてしまうからだ』
 ネット論客が、そんな事を書き込んでいた。
 日本人にしか見付かっていない特徴……宏志がSNSでフォローしている者達の間では「これこそが日本人と他の人種を分ける特徴だ」という意見が広まっていた。
 その結果生まれたのが「シン日本男子」という呼び名だった。
 SNSアプリをホーム画面に戻す。
『#こいつらはシン日本男子じゃない』
 そんなハッシュタグが目に付く。
 〇〇(ゼロゼロ)年代ごろまでは羽振りが良かったが、今は売れなくなっている小説家の書き込みが、そのハッシュタグで批判されていた。
 宏志が子供の頃までは流行っていたが、今は廃れたジャンル「仮想戦記」系の作家らしい。
 かつて、そんな小説を書いて儲けていたのに、今では旧軍を批判している。
 その売れなくなった作家の書き込みを見て、宏志は舌打ちをする。
 よりにもよって……宏志の曾祖父が参加した大東亜戦争中の作戦を「人員を無駄死にさせた愚策」だと批判しているようだ。
 ふざけやがって……。
 毎年正月二日に家族で行く父親の実家……その仏間には、国賊小説家が批判している作戦から生還した祖先の曾祖父が飾ってある。
 ふざけやがって……。
 宏志は……まるで、自分の祖先を罵られたような怒りを感じた。
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