二年目 二月中旬 会社員・加藤田宏志

文字数 997文字

 もう、2ヶ月近くだ。
 その事で恋人の荻野貴子と喧嘩になった。
 いや……声の大きさも、押しの強さも、腕力もまるで違う以上、事情や経緯を知らない者が見れば、一方的なDVか何かに見えるだろう。
「おい……どう言う事だ? 何で……」
 こんな事で恋人の胸倉を掴んで声を荒げるなど、人に知られれば、笑われるような話だ。
 2ヶ月近く恋人にSEXを拒まれている。
 クリスマスも無し。
 正月が終って最初に会った時も……。
「いやなの……」
「だから、どうしてだ?」
 SEXを拒まれるようになった頃……何が有った?
 まさか……。
「おい……俺が……あの……検査で……」
 貴子は首を縦に振った。
「待て……。俺達は……」
 ネット用語でいう「シン日本男子」。
 誇り高い本当の日本人の筈だ……。
「私が最初の1人を検査したの……。そして……その人は死んだ」
「えっ……?」
 そう言えば……以前、たしかに、そんな事を言っていた。
 でも……。
「違うだろ……あれは……」
「恐いの……貴方のような人が人間だと思えない……」
「何言ってる……? そりゃ、お前が病院で病人にやってるナントカって検査を受ければ死ぬかも知れないけど……それは注意してりゃ避けられるような……」
 貴子は首を振った。
 今度は横に。
「言っても信じてもらえない……けど……もう、あなたが『アレ』の同類と知ったから……その……」
「何だ?」
「もう……好きだった頃には戻れない……」
「ちょっと待て……一体、お前……何を……」
「見たの……」
「だから……何をだ?」
 貴子は唾を飲み込む。
 意を決したように告げる。
「さっき、最初の1人を……『その人』って言ったけど……『人』じゃなくて『何か』かも知れない」
「はぁ?」
「何故……あなたが『シン日本男子』なんて馬鹿なネット用語で呼んでる人達の死体がどんな状態だったか公開されてないと思う?」
 貴子は芝居でもしているかのように異様なまでに流暢にそう言った。
 だが、流暢な話し方なのに、何を言いたいのか判らなかった。
 ひょっとしたら……この時の為に、何を言うかをずっと考え続け、この事を告白する練習をしてきたのかも知れない。
 そんな考えが宏志の脳裏を(よぎ)る。
 恋を告白する時は……相手に何を言うかを考え……場合によっては告白の練習もするように、恋が終ったと告げる時も、同じなのかも知れない。
「見たの……。言っても信じてもらえないようなモノを……」
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