第9話
文字数 1,576文字
ドォン、ドドドドォーン、ヒューピュルルウルルウー、チィーン、クキュゥーキューン、チィーン……
太鼓? それに笛と鈴と……この音色、どこかで聞いた。
ここは、どこだろう。広い通り、人がいない。通りの砂利道に
ポタッ、ポタッ、ポトッ。
アヤコが音のする下を見ると、血が滴り落ちていた。アヤコは指の先を伝わって落ちている血の先を眼で追う。血は振袖の着物の左肩から斬り割かれ、左腕には斬られた傷口が開き、とめどもなく流れ落ちているのだった。
「いゃぁー」
咄嗟に右手で左腕を押さえると、傷口は泡立ちながら塞がり、着物の裂け目は何事もなかったように閉じた。これ、お正月に着た振袖じゃない。見たこともない、着物。
「あ、あぁ、なに、これっ……」
アヤコは声にならない声を発し、ぽかんと口を開けた。
と、またあの音が始まる。
ドォン、ドドドドォーン、ヒューピュルルウルルウー、チィーン、クキュゥーキューン、チィーン・・・
広い通りに戻っていた。アヤコの目の前に全身青色で血がべったりついた鬼が飛び出てきた。鬼は黒い口をパカッと開ける。黄色い牙には血と着物の切れ端が絡みついている。
「おまえは
鬼はひょろ長い
「
とぉうぉぉぉおおぉー、男の力んだ声に合わせ、鬼の身体が振り下ろされた刀でパックリと左右に割れた。
「うぐぅわぁぁぁあぁー、うぅぎっやぁぁぁあぁっー」
猛烈な絶叫を上げた鬼は地面に黒い塊となり消えていく。
そこにいたのは隣のクラスの担任、
「大事ないか、
「えっ、先生ぇ? あやさきこ?」
スッ、と、再び真っ暗な空間に変わり、龍泉寺拓臣の姿はない。
ドォン、ドドドドォーン、ヒューピュルルウルルウー、チィーン、クキュゥーキューン、チィーン・・・
今度は、音と共に金色の着物を着た白塗りの能面を被った人がアヤコに近づいてきた。能面の人らしきものは、ふわふわ飛びながらアヤコの目前に迫ってくる。能面の面が異常に大きい、身体の半分が能面だ。アヤコは全身に鳥肌が立ち、身体が金縛りにあったようで動けない。
「大事ないか、文咲子」、「これからはずっと一緒にいる、
「お前が
能面の人が白い手をにゅっと伸ばし、アヤコの額に触れた。
みるみるうちにアヤコの額に金色で三つのハートが組合せた文様が光り、光は金色の帯となり、能面の人とアヤコは全身金色に輝き、人から何かの形へ大きく変わろうとしていた。
「神器よ……」
男性とも女性ともつかない声をぼんやり聞きながら、アヤコの意識は