第13話
文字数 996文字
文子姫との過去の記憶を振り切ると、マサは千住大橋の手前にバイクを停めた。夕方のラッシュアワー、夕日をボンネットに落とした車が流れるように続いて走っていく。橋の欄干に3本肢の八咫が止っていて、黒い瞳でマサを見つめると「カアー」と一声鳴いた。「大橋」の文字が刻まれた結界石が橋の横に転がっている。車がぶつかったのか、周囲には車の塗装らしきものがパラパラ落ちていた。結界を破ったのは「人」か。
マサは 八咫鳥に向かい、深々と一礼した。異形の出現と結界の綻びを示してくれた大神から遣された眷属に心から感謝をこめた。
荒川の河川敷ではパトカーが3台、数十人の警官が現場の捜索しているところだった。相手は異形だ、証拠は何ひとつ見つからないだろう。河川敷では少女の血の残香と「苦痛への恐怖」「この世への未練」そして「殺された「怨」」の残香が漂っていた。これらの残香に惹かれ、すでに異形が大量に押し寄せているはずだ。奴等が溢れ出して都内へ流入してくると厄介なことになる。今のうちに、残香も異形も祓わなければいけない。
マサは結界石を埋め直すと、左右の指をぎゅっと合わせ組み、人差し指を突き出すようにして天へ向けた。
「神器の我に青龍の降臨ぃ―ん、願ぁぁうぅ、臨ーーぃんっ」
その途端、夕焼け空は一面の黒雲で覆われ、ピカッー。稲妻が大きく走る。辺りは真っ暗になり、人も車も飛んでいる鳩さえ消えさった。黒雲はうねるようにズズズズッと地面に近づいてくると思うと、グワーッと巨大な青龍が、紅く裂けた口を開き現れた。
「青龍を呼び覚まし者よ、汝の神器が正しいことを此処へ示せぇー」
ゴゴゴッと青龍の声は雷鳴のごとく、大地を揺るがし轟き渡る。マサは胸の前で手印を結んだ。
「闘ぅーっ」
「烈ぇーつー」
「炎ぇーん」
「世ぇーっ」
マサは目を閉じ、次々に手印を結びぶと、地面が斬り割けるようにドドォォーンと、朱印を結んだ指先に稲妻が落ちてきた。
「悪ぁっ鬼っぃ-い、消ぉー滅ぇーっ、願い奉ぅー。青龍の御力で地獄より出でし邪悪悪列悪業悪鬼為す、世に害せし者らを、此処に払い給ぃー、清め給ぇー、畏ぉーみぃ、恐ぉーみぃ、ここにぃー、申さぁーくぅ」
マサの頭上の空には金色の目を見開き巨体を泳がせていた神獣の青龍は、
「あい、わかった。汝神器の申し出に、しばし我が力を貸そうぞぉーっ」
稲妻と雷鳴がドゴゴゴォォォーン、グゴォォォーツ……響きわたる。
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