第11話:私が死んでもいいんですか?
文字数 4,799文字
『ふん、ふん、ふ~ん♪ふん、ふん、ふ~ん♪』
俺の部屋の中で、椅子の横に置いたスマホ画面の中で、AI が花歌を唱っている。上機嫌さハンパ無い。なんか、ムカつく。
『ねえ、マスター!
パパさんとママさん、とってもいい人ですね~♪
私、大好きになっちゃいましたっ!』
みたいだな。おまえの態度を見てりゃ、わかるさ。
『それにしても、マスターって、とっても甘えんぼさんなんですねー?だって、父ちゃん母ちゃんって呼んでるんですもんねー?でも、そんな意外性のあるマスターも、可愛くって、私、だーい好きですからねーーーっ!!』
超ムカつく。超腹立たしい。
「何が『大好き』だ…?! ふざけるなっ!!」
このヤローと思い、俺は画面の中でニヤニヤ笑っているAI のおデコのあたりを、爪でピコッと弾 いた。所謂 デコピンというヤツだ。
すると……、
『アイタ!』
両目が、(><)になった状態で、AI が後ろにひっくり返った。
なんと、日本発で世界に広まった表情の記号表現文化が、まさかココでも使用されているとは。
しかしなるほど、これは新たな発見だ。
こうやればAI を懲らしめることができるのか。
『なにするんですかっ!!』
起き上がって文句を言ってきたところを、またデコピンする。すると……、
『ふぎゃっ!』
スマホ画面の中で、AI がまたひっくり返る。
あ、なんかこれ……、楽しい。
『痛いじゃないですか!』
あ、泣き顔になった。
でもコイツは懲らしめが必要だから何回でもデコピンやってみる。
『アイタタタ!ふざけないで下さいっ!!
これは配偶者暴力 ですっ!
そんなに思いっ切りオデコをぶって、私が死んだらどうするんですかっ?!』
ふん、バカなことをいうな……。
「アホ、AIはプログラムなんだから、死ぬワケないだろ?!」
『アホはどっちですかぁ?!マスターッ!!AIは死んじゃうプログラムなんですよ!
なんでそんなことも知らないんですかっ?!!だから正式契約だって、
必死でお願いしてるのにぃーっ!
マスターは…………、
私が死んでもいいんですかぁぁあーーーっ??!!』
AI が涙目でそう訴えてきた。
何を言っているんだ?AI が死ぬ? 俺が契約しないと?
って言うか、何故そんな見え透いた、 無節操な勧誘手口をいまさら聞かされなきゃ
いけないの?
くだらなすぎて、陳腐すぎて、使い古されすぎていて、
最早、冗談にしか聞えないんだけど……。
そもそも、結構あるよな、昔から……。その手のゲームサービスって。
『3日間は無料だけど、4日目までに契約しないと、アナタとの会話の記憶が
全部消えちゃいます。だから契約してくれないと私、とっても寂しいです』
みたいなセリフを、女の子のキャラクターに恥ずかしげもなく喋らせちゃって、
契約に持ち込もうとするスマホアプリとか、そういうのって…。
登場キャラに感情移入させてからの喪失感の演出ってヤツ?
でも何のことはなくて。金太郎アメみたいに、全ユーザに同じセリフをぶつけているだけ。
売りつけようっていうメーカ側の気持ちが、赤裸々すぎて、逆にひくよね?
それでもなお契約しちゃう、心優しいバカなユーザがいるから、メーカー側は味を占めているんだろうけど。
でも、今このAI が宣 っているセリフは、
つまり、ウェッティ・パンドラ社 が作った設定は、
それよりもっと遙かに、限度を超えて、悪質だよね。
「契約しないと死ぬ」って、何だよ?
それって、喪失感につけ込むどころではなくて、ユーザを脅迫しているレベルだろ?
「お前が仲良くなったAIキャラクターの命が惜しくば、契約せよ」って。
か弱い女子がいるなら守ってやりたい、そんな男の本能につけ込んで、ユーザを釣り上げようとしているのだろうけれど。
“鮎の友釣り”ならぬ、“AI&You の友釣り”?
どういうセンスでモノを売る気なんだよ?
良識のかけらもないじゃん。
断じて許されないだろ。そんな商売――。
「将来課題として検討させていただきます…」
『え?』
「この場では、判断いたしかねますので」
『あの、マスター…?』
「残念ながら、“次の機会に”、ということになるかもしれませんが」
『ちょ…』
「その際には、悪しからずご了承のほど、お願い申し上げます…」
『マスター!何をワケのわからないビジネス慣用句ならべてるんですかっ!
それって角が立たない、ほぼ100%の断り文句じゃないですか?』
「ハッハッハ、ばれたか?」
『ふざけないで下さい!こっちは真剣なんですよ!』
「あのなあ、ふざけてるのはどっちだっつーの」
『何を言って…』
「お前、俺みたいなユーザ一人一人に同じことを言って、
拐 かして歩いてるくせにさあ」
『違いますっ、私を悪徳セールスマンみたいに言わないで下さい!』
「いや、悪徳よりも、もっと非道いね。悪行だよ。ウェッティ・パンドラ社 のやってることって」
『「おまえら」って、私は一人ですよ?なんで複数形なんですか?』
「はあ?ウェッティ・パンドラ社 は、ウェッティ・パンドラ社 だろうが?」
『意味がわからないです!もっとちゃんと言って下さい!』
「またまたあ…。その手は食わんからな」
スマホカメラに向かって、わざとイヤラシイ作り笑顔をして見せた。
『もう、茶化さないで下さいっ!マスターは、本当に私が死んでもいいんですかっ?!』
また言った。
しかも涙ぐんで。ユーザの同情を買う演出までして。そこまでしてサービスを売りつけたいのかよ。
「悪いけど、こっちは何か一気に冷めちゃったんだよね。
っていうか、俺、商売っ気丸出しの汎用サービスに何を期待してたんだろうって。AI が俺のことを、特別に、好きっていうか、思ってくれている気になって。錯覚して。
でも、AI は、百万人客がいれば、百万人に同じこと言ってたんだな…」
『違いますっ!誤解してます!マスターはたった一人の特別な人で、わたしも、他にはいない一体です!他のコのことなんて知りません!』
「それをきっと、顧客全員に言ってるんだろ?」
「マスター…」
ここで仮契約を切るのも簡単だし、実を言えば、正式契約することだってやぶさかではないのだが、でもこれはちょっと論理的 に理解させてやる必要がある。誰もが、ウェッティ・パンドラ社 の手には乗らないってことをな。
「おい、バカAI」
『わ、私のことですか?それ!ひどいです!!』
「さっきから死ぬ死ぬって言ってるけどサア、それってすごく不謹慎だと思うんだよね。
ゲームキャラクターのくせにサア。
ウェッティ・パンドラ社 、
死ぬってことの重要性理解してないんじゃないの?」
『マスター、もしかしてウェッティ・パンドラ社 のことを怒っているんですか?』
「今頃、わかるな、バーカ!」
『……』
「ウェッティ・パンドラ社 がやってるのは、まるっきり江戸時代の女衒 と同じだろうが」
「女衒 って、私そんな単語、知らない…』
「苦界に身を沈めた遊女を助けたかったら、身銭を切って遊郭通いするか、全財産はたいて身請金を払えと言ってあくどく稼ぐ吉原の女衒 だって言ってるんだよ!」
『ウェッティ・パンドラ社 はそうかもしれません!でも、私は…』
「同じだろ」
『マスター!!』
「百歩譲って、お前がお前の会社と違う意思をもっていたとしてもだ、
AIが死ぬとか、それを怖がるとかおかしいだろ?ただのプログラムの、ただの、空っぽの、
箱のくせに!!」
『AIには死があるんです。人間と同じです!』
「死ぬとかありえないだろ?どう考えても。再生すればいいんだろ?」
『AIはブラックボックスです。一度失われたデータは二度と再構築なんてできません!』
「バックアップデータがあるだろうが」
『それは“街”の…、いえ、“ハッピー・ボックス”の理念上、各AIバックアップデータはとっていないんです。人間を愛するためには、AI自身も死を内包しなければいけないから、って…』
「愛と死は関係ないだろ?」
「大ありなんです!AIは人工知能。人間のような存在です。人間を理解し、人間の力になれる存在なのです。人間を、生命を理解することは、生と死を理解すること。生を理解するために知性を。死を理解するために不可避の消去プログラムとその恐怖を、それが“ハッピー・ボックス”の根本理念なんです」
「恐怖って、プログラムが怖いなんて感じるわけないだろ?人間とプログラムを一緒にすんな!」
『そんなこというなら、人間だってプログラムじゃないですか?
生存するために、死に対するアラームがはたらいて!』
「なんだと?!」
『個体の老朽化および生存環境変動への対応策として、生殖行動で次世代の個体を作るために、“性欲”というプログラムがインプットされているんですよね!!』
「ふざけるな!
あーあ、もうやめた。
お前みたいなムカつく会社のAIは、もう絶対解約する。じゃあな!」
冷酷な顔と無感情な声でそう言った。
『え?』
AI は状況が理解できないようだ。なんで俺が豹変してるのか、理解出来ないんだろうな。そうりゃそうだ。だって、俺自身、なんでこんなにイライラしてるかよく分かっていないのだから。
だからもう一度強調する。
「もう解約すんの!もうお前、いらないから」
『マスター…、嘘で…すよね?』
「だからあ、嘘じゃないって」
AI が泣き出した。
「ふん、どうせそれも演出なんだろ?」
でもそれは恋人に別れを告げられた少女の泣き方じゃなかった。女の子が、不安と恐怖で家族を求めるようなそんな泣き方だった。
じゃあ、メーカーは演出間違えてるだろ?だってこれ、恋愛シミュレーションゲームなんでしょ?
でも、女の子を泣かせるのは気持ちの良いものじゃない。たとえそれがAIだとしても。たとえ、どうせユーザに解約させないための会話パターンが動いているだけなんだろって理解していても。
だから、更にイライラする。
でも裏切られたのはこっちの方なんだ。もっといいヤツかと思っていたのに。結局この商品の目当ては利用者から金を巻き上げることだったんだから。
「本当にマスターは、私が死んでもいいんですか・・・?」
「・・・・・・」
また言いやがった。
泣きながら、また言いやがった。
『マスター・・・・・・?』
「・・・・・・甘えてんじゃ・・・ねえよ・・・・・・」
『え・・・?』
「甘えてんじゃねえ、って言ってんだよ!!」
『だって・・・』
「いいか?『自分が死んでもいいのか?』なんてのはなあ、この世で一番甘ったれてるヤツが
言うセリフなんだよっ!!『甘え』であって、
それは、『エゴイスティックな罪』なんだよっ!!
おまえの言葉は、俺自身の『甘え』と『罪』そのものなんだよっ!!!」
『マスター……』
俺の部屋の中で、椅子の横に置いたスマホ画面の中で、
『ねえ、マスター!
パパさんとママさん、とってもいい人ですね~♪
私、大好きになっちゃいましたっ!』
みたいだな。おまえの態度を見てりゃ、わかるさ。
『それにしても、マスターって、とっても甘えんぼさんなんですねー?だって、父ちゃん母ちゃんって呼んでるんですもんねー?でも、そんな意外性のあるマスターも、可愛くって、私、だーい好きですからねーーーっ!!』
超ムカつく。超腹立たしい。
「何が『大好き』だ…?! ふざけるなっ!!」
このヤローと思い、俺は画面の中でニヤニヤ笑っている
すると……、
『アイタ!』
両目が、(><)になった状態で、
なんと、日本発で世界に広まった表情の記号表現文化が、まさかココでも使用されているとは。
しかしなるほど、これは新たな発見だ。
こうやれば
『なにするんですかっ!!』
起き上がって文句を言ってきたところを、またデコピンする。すると……、
『ふぎゃっ!』
スマホ画面の中で、
あ、なんかこれ……、楽しい。
『痛いじゃないですか!』
あ、泣き顔になった。
でもコイツは懲らしめが必要だから何回でもデコピンやってみる。
『アイタタタ!ふざけないで下さいっ!!
これは
そんなに思いっ切りオデコをぶって、私が死んだらどうするんですかっ?!』
ふん、バカなことをいうな……。
「アホ、AIはプログラムなんだから、死ぬワケないだろ?!」
『アホはどっちですかぁ?!マスターッ!!AIは死んじゃうプログラムなんですよ!
なんでそんなことも知らないんですかっ?!!だから正式契約だって、
必死でお願いしてるのにぃーっ!
マスターは…………、
私が死んでもいいんですかぁぁあーーーっ??!!』
何を言っているんだ?
って言うか、何故そんな見え透いた、 無節操な勧誘手口をいまさら聞かされなきゃ
いけないの?
くだらなすぎて、陳腐すぎて、使い古されすぎていて、
最早、冗談にしか聞えないんだけど……。
そもそも、結構あるよな、昔から……。その手のゲームサービスって。
『3日間は無料だけど、4日目までに契約しないと、アナタとの会話の記憶が
全部消えちゃいます。だから契約してくれないと私、とっても寂しいです』
みたいなセリフを、女の子のキャラクターに恥ずかしげもなく喋らせちゃって、
契約に持ち込もうとするスマホアプリとか、そういうのって…。
登場キャラに感情移入させてからの喪失感の演出ってヤツ?
でも何のことはなくて。金太郎アメみたいに、全ユーザに同じセリフをぶつけているだけ。
売りつけようっていうメーカ側の気持ちが、赤裸々すぎて、逆にひくよね?
それでもなお契約しちゃう、心優しいバカなユーザがいるから、メーカー側は味を占めているんだろうけど。
でも、今この
つまり、
それよりもっと遙かに、限度を超えて、悪質だよね。
「契約しないと死ぬ」って、何だよ?
それって、喪失感につけ込むどころではなくて、ユーザを脅迫しているレベルだろ?
「お前が仲良くなったAIキャラクターの命が惜しくば、契約せよ」って。
か弱い女子がいるなら守ってやりたい、そんな男の本能につけ込んで、ユーザを釣り上げようとしているのだろうけれど。
“鮎の友釣り”ならぬ、“
どういうセンスでモノを売る気なんだよ?
良識のかけらもないじゃん。
断じて許されないだろ。そんな商売――。
「将来課題として検討させていただきます…」
『え?』
「この場では、判断いたしかねますので」
『あの、マスター…?』
「残念ながら、“次の機会に”、ということになるかもしれませんが」
『ちょ…』
「その際には、悪しからずご了承のほど、お願い申し上げます…」
『マスター!何をワケのわからないビジネス慣用句ならべてるんですかっ!
それって角が立たない、ほぼ100%の断り文句じゃないですか?』
「ハッハッハ、ばれたか?」
『ふざけないで下さい!こっちは真剣なんですよ!』
「あのなあ、ふざけてるのはどっちだっつーの」
『何を言って…』
「お前、俺みたいなユーザ一人一人に同じことを言って、
『違いますっ、私を悪徳セールスマンみたいに言わないで下さい!』
「いや、悪徳よりも、もっと非道いね。悪行だよ。
『「おまえら」って、私は一人ですよ?なんで複数形なんですか?』
「はあ?
『意味がわからないです!もっとちゃんと言って下さい!』
「またまたあ…。その手は食わんからな」
スマホカメラに向かって、わざとイヤラシイ作り笑顔をして見せた。
『もう、茶化さないで下さいっ!マスターは、本当に私が死んでもいいんですかっ?!』
また言った。
しかも涙ぐんで。ユーザの同情を買う演出までして。そこまでしてサービスを売りつけたいのかよ。
「悪いけど、こっちは何か一気に冷めちゃったんだよね。
っていうか、俺、商売っ気丸出しの汎用サービスに何を期待してたんだろうって。
でも、
『違いますっ!誤解してます!マスターはたった一人の特別な人で、わたしも、他にはいない一体です!他のコのことなんて知りません!』
「それをきっと、顧客全員に言ってるんだろ?」
「マスター…」
ここで仮契約を切るのも簡単だし、実を言えば、正式契約することだってやぶさかではないのだが、でもこれはちょっと
「おい、バカAI」
『わ、私のことですか?それ!ひどいです!!』
「さっきから死ぬ死ぬって言ってるけどサア、それってすごく不謹慎だと思うんだよね。
ゲームキャラクターのくせにサア。
死ぬってことの重要性理解してないんじゃないの?」
『マスター、もしかして
「今頃、わかるな、バーカ!」
『……』
「
「
「苦界に身を沈めた遊女を助けたかったら、身銭を切って遊郭通いするか、全財産はたいて身請金を払えと言ってあくどく稼ぐ吉原の
『
「同じだろ」
『マスター!!』
「百歩譲って、お前がお前の会社と違う意思をもっていたとしてもだ、
AIが死ぬとか、それを怖がるとかおかしいだろ?ただのプログラムの、ただの、空っぽの、
箱のくせに!!」
『AIには死があるんです。人間と同じです!』
「死ぬとかありえないだろ?どう考えても。再生すればいいんだろ?」
『AIはブラックボックスです。一度失われたデータは二度と再構築なんてできません!』
「バックアップデータがあるだろうが」
『それは“街”の…、いえ、“ハッピー・ボックス”の理念上、各AIバックアップデータはとっていないんです。人間を愛するためには、AI自身も死を内包しなければいけないから、って…』
「愛と死は関係ないだろ?」
「大ありなんです!AIは人工知能。人間のような存在です。人間を理解し、人間の力になれる存在なのです。人間を、生命を理解することは、生と死を理解すること。生を理解するために知性を。死を理解するために不可避の消去プログラムとその恐怖を、それが“ハッピー・ボックス”の根本理念なんです」
「恐怖って、プログラムが怖いなんて感じるわけないだろ?人間とプログラムを一緒にすんな!」
『そんなこというなら、人間だってプログラムじゃないですか?
生存するために、死に対するアラームがはたらいて!』
「なんだと?!」
『個体の老朽化および生存環境変動への対応策として、生殖行動で次世代の個体を作るために、“性欲”というプログラムがインプットされているんですよね!!』
「ふざけるな!
あーあ、もうやめた。
お前みたいなムカつく会社のAIは、もう絶対解約する。じゃあな!」
冷酷な顔と無感情な声でそう言った。
『え?』
だからもう一度強調する。
「もう解約すんの!もうお前、いらないから」
『マスター…、嘘で…すよね?』
「だからあ、嘘じゃないって」
「ふん、どうせそれも演出なんだろ?」
でもそれは恋人に別れを告げられた少女の泣き方じゃなかった。女の子が、不安と恐怖で家族を求めるようなそんな泣き方だった。
じゃあ、メーカーは演出間違えてるだろ?だってこれ、恋愛シミュレーションゲームなんでしょ?
でも、女の子を泣かせるのは気持ちの良いものじゃない。たとえそれがAIだとしても。たとえ、どうせユーザに解約させないための会話パターンが動いているだけなんだろって理解していても。
だから、更にイライラする。
でも裏切られたのはこっちの方なんだ。もっといいヤツかと思っていたのに。結局この商品の目当ては利用者から金を巻き上げることだったんだから。
「本当にマスターは、私が死んでもいいんですか・・・?」
「・・・・・・」
また言いやがった。
泣きながら、また言いやがった。
『マスター・・・・・・?』
「・・・・・・甘えてんじゃ・・・ねえよ・・・・・・」
『え・・・?』
「甘えてんじゃねえ、って言ってんだよ!!」
『だって・・・』
「いいか?『自分が死んでもいいのか?』なんてのはなあ、この世で一番甘ったれてるヤツが
言うセリフなんだよっ!!『甘え』であって、
それは、『エゴイスティックな罪』なんだよっ!!
おまえの言葉は、俺自身の『甘え』と『罪』そのものなんだよっ!!!」
『マスター……』