第15話:『空っぽの街から』(3)

文字数 958文字


 この門を叩き、そしてくぐり抜けた旅人よ
 祝福を手に入れし旅人よ
 あなたの上に(さいわ)いのあらんことを
  

  “(ハッピー・ボックス)”は与える

   刹那の快楽と
   そして過去からの忘却を


  “(ハッピー・ボックス)”は受け入れる

   (ゆが)んだ心は(ゆが)んだままに
   (ひず)んだ心は(ひず)んだままに

   恥じる必要はなく
   正す必要のない
   あなたの心の闇に潜む
   その真の姿(いびつさ)

    いびつさこそは快楽の根源(みなもと)
    いびつな快楽だけが唯一の扉


  “(ここ)”では心の痛みのすべてが消える

     傷心(トラウマ)傷心(トラウマ)のままは
     罪悪は罪悪のままに

      癒す必要はなく
      悔いる必要もなく
      痛みだけを忘れさせる

       (あが)なわせれよいのだ
       (おのれ)より弱き者たちに
       
       その者たちにより深い悲しみと苦しみ、そして激痛を与えれなさい
       さすればあなたの痛みは、すべてその者たちのものとなる


 “(ここ)”はすべての夢を叶える場所
    
    姦淫の夢
    凌辱の夢
    虐待の夢
    そして虐殺の夢さえも

  白い影は、旅人への(にえ)
  血を持たぬ虚無の人型
  傍らにより添い 汚されることこそが彼女たちの責務(つとめ)

   ならば注ぎ込めばよい
   内なる穢れのすべてを

   犯せばよい
    黒い欲情の罪を

   殺せばよい
    魂なき濡れた身体を


  遠慮はいらない
  溢れる穢れのすべてを出し尽くしていい

  吐き溜めの路傍に排出()した汚物は
  この“街”に降る雨と
  白い影たちの涙が
  黒い海への洗い流してくれるから


そしてあなたは空虚(からっぽ)になる

そのためにあなたはここに来た

(ここ)”は、あなたの旅の終着地
空虚(からっぽ)の未来を待つための、あなたの(つい)棲家(すみか)

                                       』
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登場人物紹介

川辺 良《かわべ りょう》

 ・25歳、男性、職業無職、O型

 ・二流私大卒業後、引きこもり生活を続けている。

AI《アイ》

・良が契約したパーソナル・キャラクターAI。いつも良のスマホの中にいて、元気に愛情をぶつけてくるが、果たしてそれが本物の「愛」なのか、良にもAI自身にも判断できない。

風間 愛«かざま あい»

・24歳、女性、A型

・良の大学の一年下の後輩で、かつての片思い相手。良に対し執拗につらくあたる。

・大学時代は女優志望だったが、現在の職業は・・・・・・。

・シンギュラリティ悲観論者。

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