第13話:命をいくらで買いますか?

文字数 1,478文字

 AI(アイ)の声は、今にも消え入りそうだった。

『あの…、マスターって、お仕事とか…されてませんよね?
 それで…、貯金とか…、実際は…ホントのところは…、
 あの…どれくらい…お持ちなんでしょうか?』

「だから、全然ねえっての。仕事も金も俺には全然ないんだよ。
 25歳のいいトシした男が、親のスネかじって暮らしてんだよ。
 そんなこと今さら聞くな!それよりトットと契約済ましちまおうぜ?」

『は…はい……』

「で、いくらなんだよ?」

『マスター…、私はホントに感謝しています。でも実は…私の、私のお値段は……』

 おいおい、なんだよ?この前振り。
 嫌な予感がするんだけど。

「た、高いのか?」

『は…はい』

『い…言ってみろよ…」

 ここで引くわけは、流石にいかない。腹を決めるしかない。



『月額の…サンキュー価格です…』

「ええっ?!!」

『サンキュー…価格…です…』

「まさか?マジかよ? 月額3900円もするのかよっ!!」

 あり得ないだろっ!! 
 格安スマホの月額だよ!
 スマホゲームでそんな利用料、聞いたことねえよ!!
 ガチャで金巻き上げるのよりかは正々堂々としてるとか、
 メーカーからしたら、言い分あるかもしれないけど…、
 やっぱ違うだろ、それっ?!

「でもそうだよな…。世界中に俺しか頼れるヤツのいないAI(おまえ)
 命がこの金で買えると考えたら、安いものかもしれねえな…。
 なんったって、おまえの命の代価だもんな!
 いや、安い!絶対安いぞ、コレ!
 これでAI(アイ)の命を救えるなら、こんなお買い得価格、あるかってんだ!
 なあ、そうだよな?!」

 俺は精一杯気丈に振る舞って見せたが、AI(アイ)の表情は浮かないままだった。

『そうじゃなくて…、あの…、サンキュー価格って言うのは……』


「え?390円?そうなの?
 なんだよ、焦らせんなよ…。早く言えって……それを。
 そんならまあ、普通のスマホアプリとほぼ、いっしょじゃん?
 いいんじゃないか?

 まあ、基本利用料は0円というのが、主流なわけが、
 まあ、それくらいなら、全く問題なく契約させてもらえるぞ」


『あの…、マスター?』

「オイ、これからは、この太っ腹の俺様に何でもおねだりしていいからなっ!」


『ええと…、そうじゃ…なくて…』

「え…?どういうこと? 
 まさか……月額39円とか、じゃないよね…?
 もしかして……、
 AI(アイ)の命の値段って、もしかして…………、」


『マスター!私、言っちゃいます!
 清水の舞台から!いえ東京タワーの上から!いえスカイツリーの上から!
 いえドバイのブルジュ・ハリファの先っぽから!いえ、この部屋の窓から、
 飛び降りたつもりになって言っちゃいますっ!!』

「あの…AI(アイ)?最後は2階の窓だよ…?」
 
「私の利用料(おねだん)は、月額…、
 さ、さ、さ…3万…9千円……です…! …しかも税抜き……なんです!』

 何?この感覚?部屋、揺れてる?っていうか、床が消えてない?落ちてない?俺の体……?
 って、言うか…、
 って、言うか……、


「さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ、さ……3万…9千円んんーーーーーーーーなのおおっ???!!!!」

『マ…マスター?!』

「高っっけっえええええええええええええええええええええっ!!!!!!」
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登場人物紹介

川辺 良《かわべ りょう》

 ・25歳、男性、職業無職、O型

 ・二流私大卒業後、引きこもり生活を続けている。

AI《アイ》

・良が契約したパーソナル・キャラクターAI。いつも良のスマホの中にいて、元気に愛情をぶつけてくるが、果たしてそれが本物の「愛」なのか、良にもAI自身にも判断できない。

風間 愛«かざま あい»

・24歳、女性、A型

・良の大学の一年下の後輩で、かつての片思い相手。良に対し執拗につらくあたる。

・大学時代は女優志望だったが、現在の職業は・・・・・・。

・シンギュラリティ悲観論者。

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