ヒガンバナとチョコレート

文字数 741文字

「なあ香澄、首がそうなってもう相当長いよな。本当にそれって治るの?」

 湊が、ぼりぼりとスナック菓子を食べながら香澄に尋ねる。

「不吉なこと言わないでよ、湊。治ります」

 香澄も、チョコレートバーを頬張りながら答えた。

 放課後。どこの部活動にも所属していない香澄と、ふるさと野草研究会という、ほぼ活動実績のない同好会に名ばかり置いている湊は、ジャージ姿の生徒たちが走り回る校庭を尻目に、その日も駄菓子をかじりながら連れ立って帰っていた。

 湊が籍を置くその会は、この村の山に生えている食べられる草を研究しているとのことだった。しかし一度、何を勘違いしたのか「これ食えるらしいぜ」と湊から香澄に差し出されたのは、田んぼの脇に群生していた花が咲く前のヒガンバナで、地元の子である自分のほうが、まだ野草研究会会員にふさわしいのではないか、と香澄は思ったことがある。

 そんなヒガンバナも、すでに花の盛りは過ぎたようだ。

 稲刈りのほぼ終わった田んぼが一面に広がるあぜ道のど真ん中で、香澄は大きくひとつ伸びをする。

 すっかり秋になったんだな、と思う。

 香澄の首のガラス化した箇所は、普通の皮膚とは違い汗をかくこともないため、サポーターを巻き続けても蒸れるということはなかった。それでも真夏の間は、何の拷問かというくらい暑苦しく感じたサポーターの内側も、今は大分楽になった。こうやって放課後に食べるのがチョコレート菓子でも、すぐにまわりが溶け出して手がべたべたするというようなこともなくなった。そして。

 ずいぶん、隣に人がいることに慣れた。

 香澄はちらりと湊の姿を横目で見やる。

 復学してから、もう一年半が経つ。

 香澄は中学二年生になっていた。

 
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