あなたは誰ですか、そしてわたしは

文字数 715文字

「なに食ってんの?」

「……え、なんで。今授業中」

 自分以外の生徒の姿に、香澄はぎょっとして起き上がりかけ、その瞬間、つまんでいたクッキーを喉に詰まらせてむせた。

「なんでって、あんたも授業中だろ」

 飲む? と差し出されたスポーツドリンクのペットボトルを、なんとなく流れで受け取ってしまった香澄は、目の前の知らない少年の顔をまじまじと見た。

 額にかかるぼさぼさの黒い前髪の下から、妙に黒目がちの両眼が覗いている。大きい割に薄めの唇の右端が、ぎゅっと吊り上がると、いかにも「悪童」という感じの笑顔になった。

「ああ、探した探した」

 白い半袖シャツの少し筋張った首元に、適当な感じで結ばれたネクタイがだらりと垂れ下がっている。そのタイの色からして、同学年のはずなのだが、この顔にまったく見覚えがない。

 誰。

 香澄がそう尋ねる前に、その少年は悪童の笑顔のままで、あっけらかんと言い放った。

「あんた、《祟り神》なんだろ?」

「……いや、人間ですけど」

 自分が祟り神扱いされていることは十分承知していたが、さすがに「祟り神」というその言葉を、面と向かってぶつけてくる人間は今までいなかったので、香澄は面食らい、思わずその少年の失礼な言葉に対してまともに返答してしまった。

「またまた。そんな謙遜するなって。すげえ評判じゃん、この土地の伝説の神様なんだろ?」

 なにひとつ謙遜などしていない上に、自分は人間だし、だからそもそもあんたは誰なんだ。香澄が憮然としていると、少年は言った。

「あ、おれ、高畑湊。転校してきたばっか。よろしく」

「……はあ」

「なあ、それクッキー? 食っていい?」

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