春休みが長すぎる−2

文字数 653文字

 春休みが終われば、当然のように中学に行けるものと思っていた。そんな香澄の人生の予測図は、ここから何一つ予測し得なかった展開になっていく。

 一年。香澄の首は徹底的に調べられた。

 そしてわかったことは、以前から、ガラス質に肌が硬化するという似たような症例は、本当に少ないながらいくつか報告が上がっているということ、今のところ湿疹の一種と考えられていること、空気感染や接触感染をするようなものではないこと、そして、根本的な治療法は見つかっていないが、罹患者の八割以上は時間はかかるものの自然に治癒する、ということだった。

「見た目ほど、恐ろしい病気ではないんですよ。だから、がんばって一緒に治していきましょうね」

 というにこやかな看護師の声は、どこまでも薄っぺらいものに聞こえた。

 恐ろしい見た目で悪かったな、そしてその「だから」はどこにかかるんだ、「閉口する」ってこういうことを言うんだなと、初めて自分より年上の人間に対して、うっすらとした軽蔑に似た感情を持ったのも、そしてそんな完全に「八つ当たり」でしかない感情を、助けてくれようとしてくれている相手に対して持ってしまう自分を嫌悪することを覚えたのも、このときだった。

 長い春休みになっちゃったな。

 壁に掛けられたままの新品の制服を見て、発病以来、首にぐるぐると巻かれたサポーター――医療機関から提供された特殊なそれの、ずっしりとした重みのせいで、常に凝るようになった両肩を上げ下げしながら、香澄は少しだけ泣いた。


【続く】
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