きれいな虹

文字数 813文字

呼びとめられて、振り返るとそこには車いすの少女がいた。

「待って! 私、こんなのもらえない!」

あたしが彼女に渡したのは、色鉛筆のセット。
だけどこの色鉛筆セットは、普通のものじゃない。

あたしは病院で空を見上げていた女の子に
声をかけた。
彼女は車いす。
腕には点滴をしていた。

じっと女の子を見ていたけど、ただ無言で空を眺めていた。
それだけであたしは、彼女が今後どうなるのか
気がついてしまった。

「ねぇ、あんたさ、どうして空見てるの?」

最初あたしのことを不審がっていた女の子だけど、
あたしが隣にずっと立っていたから
仕方なく口を開いた。

「私もいずれ……天に昇るのかなって思って」
「へぇ、つまんないこと考えてたんだ」
「つまんないって!!」

女の子はキッと私をにらんだ。
それでもあたしはヘラヘラしたままだ。

「ずっとそんなこと考えて毎日を過ごすって、
つまんないじゃん」
「だって……私には何もできないから」
「ふうん」

だったら……。

「じゃ、これあげるよ」
「え!? ……色鉛筆?」
「ただの色鉛筆じゃないよ。ちょっと待ってね」

あたしは落書き帳を取り出すと、犬を描く。
すると……。

「ワンワン!」
「きゃっ!? 描いた絵が……本物に!?」
「ま、サイズはイラストと同じ大きさだけど。
それに付属の消しゴムを使えば、きれいに消えちゃう。すごいっしょ?」
「すごいけど……」
「あんたにあげるよ。これで何もないものに命を吹き込むことができる。
あんたの寿命がどのくらいなのかは知らない。
けど、あんたが生かすことができる命があるってこと、忘れないで」

彼女に色鉛筆を渡すと、あたしはその場を去ろうとした。

「ちょ、ちょっと!」

車いすの彼女は、必死にあたしを追いかけてきた。

「待って! 私、こんなのもらえない!」

一瞬振り向くけど、ニヤッと笑うと無視して歩く。
……あんたには必要な能力なんだよ。
何せあんたは、この世界の創造主になるんだからね。


「あ……」

数日後、空にはきれいな虹が出ていた。
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