死体屋
文字数 1,647文字
その奇妙な店は、新宿の隅っこにあった。
立地は正直よくないだろう。
もっと海沿いや川沿い、若しくは山の中にあったほうが、『商品』の運搬が
たやすい。
……なんて、こんなことを考えてしまう僕は、すでに頭がおかしくなってしまったのか。
だが、大都会にあったからこそ、今までこの店を見つけられなかったのかもしれない。
『ドールハウス死月』は、一見お洒落でレトロな感じなカフェだ。
入口のガラスドアには白いカーテンがかかっており、中は見えない。
電気もついていないが、ドアノブのところには『OPEN』とある。
やってはいるようだ。
勇気を出してドアを開けると、カランカランと予想外に大きなベルの音がした、
客が来たことを知らせるためだとはわかっているのだが、
あまり気づかれたくなかった。
悪いことをするわけではないが、ここは存在すること自体が違法な店だから。
「あっれ~! どうも、こんな夜にお客さんがくるとは思わなかったな!」
奥から嫌に陽気な男の声が聞こえてくる。
僕は嫌悪感を抱く。
こんな店で働いているなんてどうかしている。
普通の常識なんか関係ない人間なんだ。
「それで、今日は何をお探しです?」
「え?」
「買いに来たんでしょ? 死体」
「あ、ああ」
男は分厚い帳簿を取り出すと、僕に一枚の紙を渡した。
「これ、売買契約書ね~。ま、変なことは書いていませんよ。どんな死体が欲しいか、
ここに記入してください。あと、サインですね~。この店のことを秘密にするって」
「そりゃ、秘密にしますよ」
「一生? できます?」
「で、できますよ」
男は笑うと、帳簿をパラパラとめくる。
冗談だったのか? それにしても不気味な笑顔だ。
顔の筋肉は動いているのに、真っ黒な瞳だけは笑っていない。
ともかく僕は、紙に欲しい死体の特徴を記入した。
『1年前9月25日前後死亡、女性、中肉中背、50~60歳』
「へぇ? その表情じゃ、死姦するわけじゃなさそうですね」
「そういう人もいるんですか?」
「人の性癖は様々ですから。ちょっと待ってくださいね」
帳簿を持ったまま、奥の部屋へと戻る男。
すぐに戻ってきて、僕にメモと鍵を渡す。
「第三京浜倉庫、株式会社デッド冷凍流通部……」
「そこにありますよ、この条件に合った死体。1体だけね。
代金は銀行振り込みでお願いしますね~!」
僕はメモを握りしめると、急いで店を飛び出した。
第三京浜倉庫。
鍵で倉庫を開けると、中は冷凍室だった。
秋口の今、薄着な僕にはかなり寒すぎる。
だけど、そんなことを言っている場合じゃない。
いくつか番号が振ってある箱をちらりと目に入れる。
この中にも死体が……今はそれよりも、メモの箱を探すのが先決だ。
……あった。A-15。
箱のふたを開けると、いた。
よく見知った顔だ。
「母さん……こんなところにいたのか……。ごめん、助けてやれなくて。僕のせいで
こんな目に遭わせて……」
1年前の僕は、社長だったんだ。しかし会社を倒産させてしまい、借金だけが残った。
なんとか最初は返せていたのだが、自転車操業なんてするものじゃない。
いつの間にか火の車。
独身だった僕は、母を連帯保証人としていくつか闇金から金を借りてしまった。
そして……返せなくなったある日、母は連れていかれた。
ヤクザの男は「身体で払ってもらう」と言っていたが……。
母の死体には赤い殴られたような痣や、切り刻まれた跡があった。
腹の部分だから、内臓をとられたのかもしれない。
「僕が……僕が、殺されればよかったのにっ!!」
「はい、ストップ、お兄さん」
「え……」
頭に固いものを当てられた僕は、びくりとする。
声の主は先ほどの店の男だ。
「あのね、うちは死体安置所でもなんでもないの。それと、どうしても取引できない
相手がいてね。それが死体の遺族だ」
「金は払う! だから……」
「キミ、バカでしょ。いきなり死体が見つかったら、警察が捜査を始める。
こっちの商売も危うくなる。だから……」
『死んで?』
発砲音はしなかったが、僕の脳みそは、見事に吹っ飛ばされた。
「ふふっ……頭無しの死体かぁ。売れるかな~?」
立地は正直よくないだろう。
もっと海沿いや川沿い、若しくは山の中にあったほうが、『商品』の運搬が
たやすい。
……なんて、こんなことを考えてしまう僕は、すでに頭がおかしくなってしまったのか。
だが、大都会にあったからこそ、今までこの店を見つけられなかったのかもしれない。
『ドールハウス死月』は、一見お洒落でレトロな感じなカフェだ。
入口のガラスドアには白いカーテンがかかっており、中は見えない。
電気もついていないが、ドアノブのところには『OPEN』とある。
やってはいるようだ。
勇気を出してドアを開けると、カランカランと予想外に大きなベルの音がした、
客が来たことを知らせるためだとはわかっているのだが、
あまり気づかれたくなかった。
悪いことをするわけではないが、ここは存在すること自体が違法な店だから。
「あっれ~! どうも、こんな夜にお客さんがくるとは思わなかったな!」
奥から嫌に陽気な男の声が聞こえてくる。
僕は嫌悪感を抱く。
こんな店で働いているなんてどうかしている。
普通の常識なんか関係ない人間なんだ。
「それで、今日は何をお探しです?」
「え?」
「買いに来たんでしょ? 死体」
「あ、ああ」
男は分厚い帳簿を取り出すと、僕に一枚の紙を渡した。
「これ、売買契約書ね~。ま、変なことは書いていませんよ。どんな死体が欲しいか、
ここに記入してください。あと、サインですね~。この店のことを秘密にするって」
「そりゃ、秘密にしますよ」
「一生? できます?」
「で、できますよ」
男は笑うと、帳簿をパラパラとめくる。
冗談だったのか? それにしても不気味な笑顔だ。
顔の筋肉は動いているのに、真っ黒な瞳だけは笑っていない。
ともかく僕は、紙に欲しい死体の特徴を記入した。
『1年前9月25日前後死亡、女性、中肉中背、50~60歳』
「へぇ? その表情じゃ、死姦するわけじゃなさそうですね」
「そういう人もいるんですか?」
「人の性癖は様々ですから。ちょっと待ってくださいね」
帳簿を持ったまま、奥の部屋へと戻る男。
すぐに戻ってきて、僕にメモと鍵を渡す。
「第三京浜倉庫、株式会社デッド冷凍流通部……」
「そこにありますよ、この条件に合った死体。1体だけね。
代金は銀行振り込みでお願いしますね~!」
僕はメモを握りしめると、急いで店を飛び出した。
第三京浜倉庫。
鍵で倉庫を開けると、中は冷凍室だった。
秋口の今、薄着な僕にはかなり寒すぎる。
だけど、そんなことを言っている場合じゃない。
いくつか番号が振ってある箱をちらりと目に入れる。
この中にも死体が……今はそれよりも、メモの箱を探すのが先決だ。
……あった。A-15。
箱のふたを開けると、いた。
よく見知った顔だ。
「母さん……こんなところにいたのか……。ごめん、助けてやれなくて。僕のせいで
こんな目に遭わせて……」
1年前の僕は、社長だったんだ。しかし会社を倒産させてしまい、借金だけが残った。
なんとか最初は返せていたのだが、自転車操業なんてするものじゃない。
いつの間にか火の車。
独身だった僕は、母を連帯保証人としていくつか闇金から金を借りてしまった。
そして……返せなくなったある日、母は連れていかれた。
ヤクザの男は「身体で払ってもらう」と言っていたが……。
母の死体には赤い殴られたような痣や、切り刻まれた跡があった。
腹の部分だから、内臓をとられたのかもしれない。
「僕が……僕が、殺されればよかったのにっ!!」
「はい、ストップ、お兄さん」
「え……」
頭に固いものを当てられた僕は、びくりとする。
声の主は先ほどの店の男だ。
「あのね、うちは死体安置所でもなんでもないの。それと、どうしても取引できない
相手がいてね。それが死体の遺族だ」
「金は払う! だから……」
「キミ、バカでしょ。いきなり死体が見つかったら、警察が捜査を始める。
こっちの商売も危うくなる。だから……」
『死んで?』
発砲音はしなかったが、僕の脳みそは、見事に吹っ飛ばされた。
「ふふっ……頭無しの死体かぁ。売れるかな~?」