待て、あいつは敵じゃない

文字数 927文字

最近俺の横に入るやつがうるさい。
毎日のように愚痴ってくるのだが、『どうしても勝てない相手』のことを
うだうだ言ってくる。

「あいつは何でみんなから支持されるんだよ。オレの方が支持されるはずだろ!? 
おかしい!」

それについて俺は、「そりゃあ畑が違うんだから、評価の仕方が違って当たり前だ」と
返すんだが、どうも納得できないらしい。

「畑が違っても、同じようなものだろ! 近い場所にいるんだから」
「いや、そうじゃなくってさ……」

さすがに毎日同じ愚痴を聞かされていると、こちらも嫌になってくる。
というか、本当にどうでもいいことなんだ。

それなのに横のやつは最近うってっかわり悲しげに
「オレの支持率は低いのだろうか……」なんてへこみだしてきた。

あー、面倒くさい。
わかってることじゃないか。
あいつと俺たちは全然違う。
畑違いと言った。
それもあるが、俺たちを選ぶ人やあいつらを選ぶ人にはバックボーンがあるわけだ。
他にも好き嫌いとかな。
100人いて、100人全員が『好き』と答えることなんてない。
人間社会と同じだ。

それなのに、何をくだらないことで気を揉んでるんだか。
俺には到底理解できないよ。

「オレたちってそんなに嫌われる存在か?」
「好きな人もいるだろ」
「あいつらのどこがいい!」
「……まぁ、安く酔えるとこじゃないか?」

俺たちがそんな話をしていると、老人がじっと見つめてきた。

「………」

突然のことで俺たちは黙る。
すると、その老人は、店員に言った。

「おい、この日本酒、自分がなんで売れないか悩んでるぞ。
そこの84円のチューハイが売れるからって。
だから、これ、84円で売ってくれよ」

「はぁ!? できるわけないですよ。これは一本1000円越えるんですから。
84円のスーパーブランドのチューハイと、地酒じゃあ、そりゃあ値段も変わりますって」

俺の隣にいる地酒は、今もずっと84円で売られている缶チューハイを目の敵にしている。
……なんつーか、やっぱり違わね?
確かに84円のチューハイは格安だけどさぁ……。
俺たち地酒には色々背負ってるものがあるじゃん。
どうせライバル視するなら、まだワインとか焼酎にすればいいものを。

缶チューハイたちは俺たちのことをどうでもいいと思っているだろうな、多分だけど。
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