4.。.:*♡ ちのへそ

文字数 2,158文字

昨日訪れたファクトリーに、四人はこっそりと向かう。


そこでは、いつもと変わらぬ業務風景が繰り広げられていた。

さあシェル!

今日も仕事だよ!

はい。

支配人。

シェルが黙々と業務に就くのを、シールックは訝しげに眺めていた。


煩雑とした小さな工場内を見渡し、彼は静かに立ち去った。

あそこは駄目だな。

陰の気が強い。

シールックにいさん!

何か感じたの?

あそこの空気は淀みすぎている。

何かが生まれ出そうな感じ。

そう言えば昨日、言ってたな。

仕事?

うーん。

世界の智の臍かもしれない。

臍の地か。

見なければ駄目なんだよな。

彼らが魔としてこの地に転生したのは、この世界の中心部にある核質、智の臍を読み解く事に理由があった。


のらりくらりと暮らしつつ、世界真理を得る。

そこに彼らの宇宙トーラス的な意味でのアイデンティティーすら存在していた。

智の臍か。

面倒だが、使命だ。

仕方あるまい。

面倒臭い?

これが?

普通でしょ。

ぼくの仕事があるかもしれない。

スクナの仕事か。

厄介だね。

ゲサラマサラのどこが厄介なんだ!

ぼくの重要な役割だぞ!

厄介だろう。 全く。
ゲサラマサラとは?
世界の終わりの事だよ。

シールックにいさんは、お遍路さん八十八箇所巡礼の真理専門員なんだね。

だからこれを知らないのか。

お遍路さん?

確かにぼくは四国出身だが。

何?

四国民だと?

徳島か?

そうだよ。

なると金時は死ぬ程食べたが。

なるほどね。

しろうさぎちゃんとは思わなかったよ。

いつかの世でくろうさぎちゃんと会えるといいね。

くろうさぎちゃんとは?
これだよ。
いつか、シールックにいさんの前に驚く程可愛いくろうさぎちゃんが現れる筈だ。

それまで修業しようね。

えっ!

ぼくにはまだ出会いがあるの!

嬉しいんだけど!

あるだろうね。

シールックにいさんはもっと幸せになるべく人間だ。

ストイックに行こう。

いつか辿り着けるよ。

なんて嬉しい事を言うんだ。

イシュタルは?

私は大丈夫だから。

それより、早く仕事を終わらせてチャチャッと帰ろうぜ。

羨ましいなあ。

うさぎだってよ。

スクナは山程うさぎを食べたでしょ。

覚えがないの?

うさぎ肉?

生臭くて嫌い。

こいつはすぐに忘れる。

忘却の天才らしい。

どれだけの人間が影で泣き暮らしたかを知らないんだ。

うるさいよ!

ころすぞ!

アーネちゃん。

スクナに何を言っても無駄だ。

スクナはこれでも、本当に最高神なんだよ。

そっとしとこ。

我が儘放題にさせておこう。

くっ。

それも大人の階段か。

そうだ。

ぼくで大人の階段を登れ!

いいのか?

踏みつけにされるぞ?

え?

ぼくが段になるの?

嘘!

自分で言っといてなんだよな。

私が散々階段を登れ登れ言っても、一段も上がれなかったじゃないか。

登れって言ったっけ?

忘れたよ!

ふ。

このドレミファドーナツ人間が。

……?

ミド

ファド

レッシー

ソラオ?

青井空男だけ日本人名なんだよな。

どーなつてるの。

詳しいな。

全く見ていないから知らない。

知らないのか?

教育テレビは観ないのか?

観まくっていたが。

アーネちゃんは興味のないものは観ないんだ。

しかしにこぷんは観ていたようだ。

内容は全く覚えがないが。

年齢がバレるのでは?

人の事は言えないが。

別に。

バレたってかまへん。

シールックにいさんこそ、私よりずっと年上なのにどうしてそんなのを知っているの。

演技の勉強で。

中尾先輩の声を。

正体がバレちゃうぞ。
今更なあ。
バレないと思う。

バレたってかまへんし。

それはいいけど、ぼくは何故ドレミファドーナツなんだ!

教えて!

うるせえよ!

このミロクが!

ミロク……なあ。

誰もがみな、それを名乗るのを辞めたよ。

情けなくて。

ふざけているようにしか聞こえない。

ぼくだってそうだし。

シールックにいさんは、もうミロクを名乗るのは辞めるって言ってたじゃない。

全く責任感の塊のような人だね!

そう言えばそうだね。

でも、ドーナツとは?

ドーナツ化現象。

中身空っぽ人間の自己紹介さ!

……本当に辞めよ。
全くだ。

ミロクを名乗ると不幸になる。

食い物にされるわバカにされるわ頭の回転がガタ落ちになるわ……。

マジか!

ぼくも辞めよ!

スタアトだよ!

スタアトって誰も呼ばないねえ。

スクナはジラーチでもあるけど、ずっと寝たっきりだし。

薄いよね。

幸薄姐!

人の事言えるか!

ここは幸じゃねえわな。

存在感の薄さを言ってるんだな。

なんで!

ぼくそんなに空気?

……まあな。
キャラは濃いけどな。
四人が駄弁っている間に、ファクトリー内にいつの間にか終業の鐘の音が鳴り響いた。


工員が帰宅するのを、四人は呆然として見守る。


やがて、シールックは透明化していた肉体が実体化した。

あ。

日が暮れたから身体が実体化したぞ。

影の人は便利だね。

小さくなれる?

なれない。
何?

それは知らなかった。

身体を小さくする術は持っていない?

魔法だって苦手だし、ぼくにどうしろと……。

風しか使えないんだよ、本当に!

風だけ使えるってのも謎だよねえ。

本来風はプロキオン軸に入っていないと使いこなせない筈なのに。

これが20次元か。

刮目せよ!

分かった。

理解の為に刮目する。

何がどうなのか分からん。

刮目されてもな。

プロキオンって何?
良心の中の良心さ!

倫理の究極だよ!

ぼくはそんなに良い人間なのか?
ああ。

人間道の四次元だね。

信じられない。

これが釈迦の音の最初……。

人間道?

知らない。

四人が全く気にせずに会話を続けていると、ふいに倉庫の扉が開いた。
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登場人物紹介

シェル

ファクトリーの少女

タールル

ファクトリーの支配人

シールック

影の人

アーネトルネ

魔王

修業の姿

イシュタル

闇のパピヨン

スタアト

スクナヒコナ

アーネトルネ

魔王

解脱の姿

エドガー

イナンナ

エカテリーナ

解脱の姿

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