1.。.:*♡ はじまり
文字数 2,485文字
舞台は魔法使いこそ至高という認識が根底にある、タレスレッタ王国から始まる。
タレスレッタ王国の辺境・アーストルテ。
その地は工業都市として栄えていた。
物語は、とある小さな町工場から始まる。
その中の一人、シェルと呼ばれる少女は、8歳からファクトリーに勤めている。
彼女は幼い頃に両親を亡くし、自分一人を養う為に働きに出ていた。
彼女は学校というものを知らない。
その為、女学院を出たという工場支配人のタールルに常になじられる生活を送っていた。
自分に理解が出来ない事を言う。
つまり相手は自分より阿呆なのだろう。
そのように判断し、毎回自分の至らなさを自覚することなく激昂する。
幾つかの会話が通じ合わないやり取りのあとに、タールルは足を踏み鳴らしてからその場を去っていった。
彼女の後ろ姿を見送りながらシェルは小さく息を吐くと、手早く指定された業務をこなしていく。
彼女は業務を愛し、黙々と仕業を行うことに喜びを覚えていた。
慈善こそがこの世の楽園に繋がる行為であると信じ、自ら労働に身を投じている。
やがて終業の鐘の音が鳴り響き、彼女は手早く帰宅の準備を始めた。
紫の髪と猫耳を持つ彼女は、怪しく瞳を光らせながらタールルを見つめる。
シェルは瞬時に状況を理解し、カバンを手に持った。
モタモタと荷物を詰めてから、力任せにカバンを手に取る。
やがて影は音もなく床に伸び、人型を模っていった。
現れたのは、銀髪の角を持つ少女と見紛う異形の者であった。
彼らは魔族であるため聖職者の尿の聖水を浴びれば死を迎える事が出来るが、世界の始発点のターニングポイントを経由し、暁の茜の門という光の出口を潜ればこの次元世界から脱することが可能である事も理解していた。
イシュタルはこの地での使命を済ませ次第、本家に帰宅しようとアーネトルネに提案していたのである。
そういった他愛のない話を繰り広げながら、イシュタルは工場内を物色し、アーネトルネは小冊子を読みつつ彼女を黙って見守った。
やがてイシュタルが倉庫からボタンの入った段ボールを持ち出してきた。
ボタンの中に、梵字が一つ浮かび上がる。