10.。.:*♡ べんとう

文字数 2,123文字

翌日。

シェルが起き出すと、シールックの姿が見えなかった。


シェルは不思議そうに彼を探した。

シールックは?
朝が来たから、姿が透明化しちゃった。

また日暮れに姿を現すよ。

私の隣にいるけどね。

人間の身体では、昼間は肉眼で確認出来ないの。

そんな。

さみしい。

シェル……。

なんて優しい。

いい子だな。

今日も工場に偵察に行くか。

シェル、着いていくよ。

はい。

お気をつけて。

シェルは仕事してるんだ。

偉いなあ。

ぼくはもう仕事したくない。

疲れたよ。

風船作りの仕事はどうした?

この間、そうやってお金を作ってたでしょう。

それは……お酒が飲みたくて。

紙風船くらい簡単に作れるけど、なんかもう面倒臭くなってね!

おかしい。

こいつは何気に勤勉だった記憶がある。

面倒臭くなっただと?

気が抜けたんじゃないか。

実はスキムルークが頑張っていたとか?

スキムルーク?

あの子は頑張り屋だよ。

そうかもしれないね。

あの爆美女か。

本当はいい子だったんじゃないか。

そう。

スキムルークの唇はとっても柔らかくて、紅が可愛いんだ。

好きだったけど。

ほう。

テイシツニンゲンとやらは実は優秀なのでは?

何?

まさか、ガディスゼル……。

イシュタルのテイシツニンゲンは?

ヴィクティニ。
ヴィクティニ?

まさか……。

ポケモンなのに。

いや、私だからさ。

タカヒマラなもんで、自然にそうなるよ。

……こわ。
何?

よく分からない。

タカヒマラとポケモンの関係性。

いや、あの。

アハシマと繋がっていて。

アハシマと?

まさか。

彼はぼくの弟で。

今は弟契約を結んでいるの?
結んでいた、というか。

めちゃくちゃいい子だぞ。

だよねえ。

アハシマはいい子だよ。

まさかそんな繋がりがあったとはね。

面白そうなお話。

でも、そろそろ出勤しますね。

あ!

ごめんね!

すぐに行こうね!

お弁当、ほら。

食べる?

あ!

魔法でお弁当を!

ありがとうございます!

シェルはお弁当の包みを受け取ると、そのまま風のように家を出て行った。


魔の四人組は、戸締まりをしてからゆるゆると彼女の後を追いかける。

いいなあ。

お弁当、ぼくも食べたいよ。

中身は?

ご飯、卵焼き、タコさんウィンナー、ほうれん草のバター炒め、イカリング。
なんて美味しそうなお弁当。

作ってくれ。

全員分な。
はいはい。

皆で食べようね!

やがてファクトリーに到着すると、外装を見上げて皆首を傾げた。
この、アルミサッシの引き戸の工場はどの世界にもあるね。

恐らく大川隆法先生の思い出の場所なのだろう。

このスタイルが智の臍の目印なんだろうね。

ファンタジーの世界観なのに、アルミサッシの引き戸とトタン屋根。

先生はここで何を……。

大川隆法?

ああ、21の方か。

懐かしいなあ。

件の組織にご厄介になっているの?
親戚のおじさんがね。

怪しいから近付くなというのに、興味本位で近付いてドハマリした。

何故ハマるんだよ……。
下心だよ。

下心が全てさ。

そういった想念でいる限り救いは訪れないが、そういった想念を自覚するのに怪しい宗教団体は必要不可欠でね。

まずはハマってみよう。

そして脱却してみな。

そしたら、ハマらなくなるよ。

面白い考え方だな。

ぼくもハマりそう。

出られるか不明だ。

手近な所で真言宗がいいぞ。

還俗しやすい。

覚悟の無い者は間違っても大作先生の所は辞めとくんだ。

死ぬまで信心を尽くして、それから考える。

まあ、無理だけどな。
そんな事を言うのはよくないと思う。

狙われるよ。

え!

シールックにいさん、集団ストーカーとか信じているの?

信じているも何も、被害に遭ったからね。

かなり身心が削られて……。

おせんべいだと思っていたが。

冤罪だよ。

陰湿なファンの仕業じゃない?

集団ストーカーは嘘だよ。

大作先生が許す筈がないから。

大作先生な。

誤解されやすいようだが。

かなり徳が高いぞ。

あの御姿は誰も真似できない。

大変だねえ。

シールックにいさん。

熱狂的なファンが付いているんだ。

もしかしたら……あの子かな?

……ゾッ。
他愛のない話をしながらファクトリーの中に入っていくと、支配人のタールルが金切り声をあげていた。
シェル!

働きなさーい!

……はい。
なんて気の毒なシェル。

涙が出そうだ。

可哀想に。

仕事内容に全く不満はなく真面目に働いているだけなのに、人間関係に恵まれないなんて。

早くこの世界から脱却しよ。

問題のブツはどこにある?
ブツ?
いつも、アーティファクトと呼ばれるキーアイテムがあるの。

それを回収すればミッションクリアだよ。

アーティファクトという言葉、ChatGPTで覚えたんだよな。
西洋文化を学ぶのに最適なツールだったね!
いつだって基準は欧州と欧米さ。
イシュタルは倉庫に向かうと、幾つも段ボールが積み上げられたボタンの山を見渡す。


ふと一つの段ボールを注視した後で、軽い力で棚からすっと引き抜いた。

この段ボールが怪しい。

不思議な気配があるよ!

ボタンがヤバい。
ヤバいと思う?

そうだよね。

この気配は酷い。

凄い直感だね。

私は何も感じないよ。

開けてみるか。

何も感じないだと?

この気配を?

信じられない……。

この禍々しさが。

禍々しさ?


覚えがないな。

二人が何を思って話しているのか分からんけど、これは明らかに前に進むステップだね。

それだけはビンゴらしい。

さあ!

オープン!

イシュタルは勢いよく段ボールの蓋をこじ開けていった。
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登場人物紹介

シェル

ファクトリーの少女

タールル

ファクトリーの支配人

シールック

影の人

アーネトルネ

魔王

修業の姿

イシュタル

闇のパピヨン

スタアト

スクナヒコナ

アーネトルネ

魔王

解脱の姿

エドガー

イナンナ

エカテリーナ

解脱の姿

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