6.。.:*♡ いなんな

文字数 2,185文字

ファクトリーから出た五人は、シェルの家へと向かった。


シェルはシールックの隣に並んで歩き、ポツリポツリと会話を交わす。

私、シェルって言います。

あなたは?

ぼくはシールック。

影の魔なんだけど。

分かるかな?

聞いたことないです。

魔族なんですよね?

昼は透明化していて、日没を過ぎると身体が実体化するよ。

仕事は板を抜くこと。

それくらい。

シールックにいさんの仕事はまだあるよ!

道を標すという大事な役割が!

あ、私はイシュタル!

よろしくね!

アーネトルネだ。

よろしく。

道を標すとは?

兎に角、板を抜くだけに留まらないんだな。

板とは?

木とか?

板とは魔法量の事を言う。

なんていうかな。

難しいな。

シールックにいさん、そこは量とは違うよ。

無自覚でプレート抜きの仕事が出来るんだね。

天才肌だなあ。

板って何?

この間の銀シャリの事だよね?

ザギンでシースーな。

お前はどうやらプレート記憶人間だという事が分かったみたいだが。

知らない。

お寿司なら、ウニが好きだよ!

はぁん。

私はイクラ。

イクラ?

生臭いよね。

エビ、玉子、ホタテ。

コドモか!

まぐろ……。

普通なんだね。

知らなかったよ。

え!

皆の嗜好、初めて知った!

アーネはもっといいのを食べたがるのかと。

アーネちゃんは意外にさっぱり系が好きらしくて。

菜食だし。

菜食?

あんなで?

変なやつだよな。
菜食は最高ですよ。

私は何でも好きです。

お寿司は巻物が。

きみも異世界跳躍が出来るのかな?

何者?

天人です。
て、天人?

娘娘かな?

はい。

シェルは楽園への誘いの子だね。

とっても良い子だよ!

シールックにいさん、お付き合いしてみたら?

え?

お付き合い?

沢山だよ。

女の子は……。

友達以上恋人未満から始めましょう。
いきなり攻めてくるね。
恋人未満とは。

いいよ。

お付き合いしよう。

随分あっさりだなあ。

そんなに簡単に決まるものか?

そゆもんだよ。

シェルは本当に良い子だ。

可愛いを詰め込んでいる。

可愛いを?

それはどういう……。

よろしくね。
あっ。

本当に素直だ……。

ふふ。

シェルに色々教えて貰うんだね。

優しくて聡明で。

何でも知っているよ。

六次元の子だから。

六次元?

シェルが?

はい。
六次元ってどんな感じなんだろうな。
全ての学問を理解し、応用を効かせる事で人類のアセンションに活かす能力を持ちます。

真珠の象徴。

なんて子だ……。

輝いて見える。

人類のアセンション……。

やはり……。

自己犠牲。

自己犠牲なんて考えません。

ただ能動的にその身を捧げるだけです。

本当に眩しいくらいだ。
……。

最強、なの?

この子が。

最強ではありません。

ただの天女です。

いや、天女って。

他の娘娘を見たけど、悪いけどここまでは。

きみは一体……。

その子はね。

新稲で。

可愛いが濃縮されているんだ。

新稲?!

まさか……知っているよ。

あんなに可愛い子が。

確かにあの子は可愛いが過ぎるが……。

まさか六次元を超越しているなんて。

ふふ。

アーネちゃん。

新稲を生み出すのは誰か知っているかい?

??

分からない。

イナンナだよ。

私の妹分。

イナンナ?

まさか……。

シュメール神話の?

ん?

イシュタルから冥界くぐりだっけ?

イシュタルの後に妹のイナンナが冥界くぐりを行ったんだよね。

イナンナは私の母でした。

暴虐が過ぎて、半回転の末に私を生み出しました。

え?

半回転の末に?

ま、まさか?

そうなの。

クズの中のクズから新稲が生まれるよ。

ちょっと待て。

まさか……。

大丈夫だけど。

アーネちゃんはDQNにはなれないよね。

スクナだって新稲を生み出せなかったよ。

人聞きの悪い事を言っているようだね!

ぼくはクズじゃないよ!

??

何の話をしている?

私の母は最低の中の最低です。

未だに縁が切れません。

支配人がそうです。

縁が?

お母さんは一体?

シェルのお母さんは、シェルを可愛いと思いながら酷く虐待していたよ。

普通に何の問題もなく暮らして、ふとした瞬間にシェルを憎み出すよ。

そういう人なんだよ。

何故そんな事に。
絶対的な悪が欲しい人なの。

自分の中で身勝手な地獄を作り出さないと、生の実感が湧かないんだよ。

イナンナはそういう女なの。

……そこからの、新稲?

一体どうして。

イナンナは、差別が愛情表現なの。

どんなにこちらが慈しみをかけても、絶対に愛そうとしない。

ひどく憎む事で甘えてくる存在だよ。

そわか。

そわかが欲しい。

どうしたんだ、シールックにいさん。

急に坊さんみたいなことを言って。

いや……。

幸あれ、だよ。

そわか。

あなたにそわかなの?

どうして?

……怖い。

なるほど。

シールックにいさんは、イナンナ系の人に散々食い物にされてきたんだね。

それでそんなにトラウマが重いのか。

しかし、突然そわかなんて口に出すか?

確かに根っからの僧侶のようだ。

お遍路さんなんだな。

許せないな。
えっ、シェル?
シールックをそんな目に遭わせたやつ、許せないな。

それが支配人ってこと?

シェル!

なんて優しいの!

そんなにシールックにいさんを心配して!

えっ。

そんなに?

シェル……。

慈悲深……。

だってシールックは何も悪い事をしていないのに。

食い物にされてるんでしょ?

駄目だよ、そんなこと。

だよねえ。

シールックにいさんは本当に人が良くて。

すぐに標的にされて、ドナドナされちゃうんだよ。

ドナドナ?

そんな……。

五人はやがて、シェルの家に辿り着いた。

シェルは全員を迎え、食事の支度を始めた。


流石に心が痛むとして、イシュタルは魔法で食材を作って提供し、シールックも共に台所に立った。

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登場人物紹介

シェル

ファクトリーの少女

タールル

ファクトリーの支配人

シールック

影の人

アーネトルネ

魔王

修業の姿

イシュタル

闇のパピヨン

スタアト

スクナヒコナ

アーネトルネ

魔王

解脱の姿

エドガー

イナンナ

エカテリーナ

解脱の姿

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