12.。.:*♡ てあらい

文字数 2,082文字

南総里見八犬伝についてひとしきり話し合った後、四人は8つの石ころを手に取り意味について考えた。


しかし、特に良い案が浮かばぬまま時間ばかりが過ぎていく。


やがて、昼食の鐘の音が鳴った。

お昼ごはんの時間だね。

お弁当食べよ。

やった!

タコさん!

タコさんウインナー!

一瞬にして四人の前にお弁当が姿を現し、イシュタルとアーネトルネとシールックは手洗いをしてからお弁当を手に取った。


スクナヒコナは三人を不思議そうに見ながら、そのままお弁当の蓋を開ける。

手洗い?

なんで?

埃っぽいから。
魔になったとて、清潔を保つ心を忘れてはいかん。
スクナ、手を洗わずに食べるのか?

汚いぞ。

いいじゃん!

ぼくは何もしていないし。

トイレの後も手を洗わないよ!

何?

もうこいつには絶対に触らないでおこう。

なんて奴だ。

自分のがキレイだと思い込む輩と同じだな。

いるよねえ。

何故か陰茎に汚染は無いと思う人。

手を洗わずに出すもの出して、そのままトイレを出るんだね!

流石にうんこは……。
頭がおかしいのかな、スクナは。
コイツには、仁が欠けている!

仁義礼智忠信孝悌の。

え?

清潔って仁なのか?

そうだよ。

衛生は世の中全体に関係する道徳心だからね。

仁の心に繋がるよ。

……これは最強に繋がる道になるの?
……。

最強かどうかは別としてな。

自分で嫌にならないか?

なる。

急に嫌になった。

手を洗ってくる。

スクナヒコナの後ろ姿を見送り、三人はお弁当を食べ始める。
仁義の玉の解析はゆっくり行おう。

大川隆法先生にプレゼントしようかな。

大川隆法に?

喜びそうだが。

これがモテない男の底質にある心だと思うと……。
富山じゃん?

北陸だよね。

あ、そういうこと。

人間道への道か。

思い至らなかった。

なんで思い至らなかったと?
いや……。

思考を繋げることをプレアデス次元というのだが……。

思い至らなかったというのは、思考の数珠繫ぎが出来なかった、という暗喩で。

なるほど。

数珠繫ぎの話だし。

北陸が人間道へのアクセス、というところまでは辿り着けないかな?
そう言えばそうだね。

なんで?

能登半島があるから。

ノトは、聖書のノドの地とも繋がっていて。

知らなかった。

ノドの地って。

カインの追放か。

実際の地理とは無関係だけどな。

星の記憶の重要地点というのか。

アカシックレコードの中継地だよ。

おまたせ!

手を洗ってきた!

ご褒美!

ファンタ!

ほれ、ファンタグレープだよ。
なんで!

オレンジでしょ!

ファンタオレンジ!

ファンタオレンジなの?

珍しいなあ。

ほれ。


シールックにいさんは飲む?

グレープ。

アーネちゃんも。

ファンタグレープ?

飲むけど……。

ファンタは好きじゃない。

お茶で。

嗜好一致。

お茶だね!

にいさんは?

お茶も。
他愛ない事を話し合いながら、箸を進めていく。

食べ終わった頃にファクトリー内を覗き込むと、誰もいない工場でシェルが一人で業務に勤しんでいた。

シェル!

ご飯は?

みんなが帰ってきてから食べます。
なんてこと!

私がシェルに化けて業務に就くから、シェルはご飯を食べておいで!

いいんですか?

では。

シェルが立ち上がるのを見届けてから、イシュタルはシェルの姿に変身すると縫製作業を始めた。

アーネトルネは、小さくなってイシュタルのそばへと向かう。

仕事を引き受けるなんて。
だって、シェルは絶対にお腹すいてるし。

一人残って仕事をするの、とんでもなく辛いよ。

この後、ちゃんとお弁当が食べられる保証はないかもしれないじゃない。

……そうだな。

思い出した。

あの侘しい日々。

ぼくも手伝おう。

アーネトルネは適当に女工員に変身すると、隣の席に座って縫製作業を始めた。


シールックはそのまま彼らのそばへと向かう。

仕事を?
シールックにいさんは、シェルの様子を見ておいでよ。

私たちは、シェルが残業しなくても済むように仕事を進めておくね。

なんて優しいんだ。

涙が出そうだよ。

わかった。

シェルの様子をみてくる。

シールックはそっと工場を後にした。


ファクトリーを探し回り、シェルをやっと見つけた頃には既に昼の時間はあと僅か程しか残っていなかった。

お弁当を食べるシェルのそばに、そっと座り込む。

美味しい。

こんなお弁当、初めて。

お弁当が初めて?

過去生はどうだったのだろう。

イシュタルは何者だろう。

天界にあんな人、いたかな?

あれ?

イシュタルはシェルと面識があるようなのに、シェルはイシュタルを知らない?

どういう事だろう。

やがて昼休みの終わりの鐘が鳴るが、シェルは気にせずにお弁当を食べていた。


イシュタルが代理で業務に就いていることで、安心感を得ているようであった。


その頃、工場ではタールルが業務に就いているシェルの姿をしたイシュタルを見て金切り声を上げた。

なんだい!

まだこれっぽちしか終わっていないのかい!

手作業ですので、作業速度の合理化にも限界があります。

時間単位で業務に於ける計画高を計算してください。

時間単位?
人月ってご存知ですか?
知るわけないだろ。

ここはファンタジーの世界だぞ。

にん、げつ?

あ!

そうか!

あんた!

??
人参だね!

人参をね、食べたいんだ!

はあ?

なんだろう?

不可解な事を叫ぶタールルを、イシュタルは透き通った赤い瞳でじっと見つめた。
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登場人物紹介

シェル

ファクトリーの少女

タールル

ファクトリーの支配人

シールック

影の人

アーネトルネ

魔王

修業の姿

イシュタル

闇のパピヨン

スタアト

スクナヒコナ

アーネトルネ

魔王

解脱の姿

エドガー

イナンナ

エカテリーナ

解脱の姿

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