11.。.:*♡ いぬづか
文字数 2,695文字
純白の大理石が、薄汚れたウエスに包まれて雑に置かれている。
イシュタルは石を手に取り、状態を確認した。
無理矢理結婚させられた伏姫と八房。
伏姫は結婚相手の八房との契りを嫌がっていたんだけど、何故か気合で妊娠させられちゃったんだよ。
伏姫は大層嫌がって、割腹までして自らの潔白を証明するの。
その時に8つの光の玉が飛び出して、それが有名な犬の剣士になった、という所から物語はスタートする。
伏姫の自害をハッピーエンドにする時点で終わっているの。
つまり不正解ルートね。
信乃の人生も、仁義を貫ききっていないから参考にしては駄目だ。
これもモーホーの餌食にされていたねえ。
字は八房。
八房は八房だが、普段は里見の名で通っている。
里見くんは玉梓という美女に迫るものの見事にフラれてしまった。
「畜生にも劣る、犬以下の存在」
玉梓に言われた言葉が胸に刺さる。
八房は犬であると思われているが、畜生を意味する里見くんのことであった。
そんなある日、彼は戦の褒美として伏姫を娶ることとなる。
「お前、人間的にキモいから寄るなよな」
それだけであり、それ以上もそれ以下もなかった。
それが里見くんの霊魂に深く刻み込まれ、逆恨みの末に里見くん自身が呪なるものを生み出していたのである。
そこから軟弱なる精神性の持ち主・里見くんの大いなる旅が始まっていた。
しかし本人は全く気づくよしもない。
「結婚して家庭を築くことが最高の幸せ」
という社会的意識に洗脳され、自分が本当に求めているものを理解出来ないでいた。
他者の真似事を自分も同じように行うことで、幸福を得ようとしていたのである。
しかし、彼はモテない男なので無理もなかった。
人並の人生を手に入れてからの、本当の自分の人生。
とりあえず、真似事でも結婚生活くらいは満喫しておくべきではある。
ところが、彼は煩悩が強過ぎる故に未だその次元に届いていなかった。
結婚しても幸せにはなれないのである。
人間的な成長を求められていたものの、何も出来ずにいた。
そして世を恨むだけに終わり、朽ち果てていった。
彼の怨念とされる8つの霊魂はとりあえずの良心となりて、それぞれの道を模索し旅に出ることとなる。
しかし、倅とされる彼らもまた道に惑っており、父に倣って母を逆恨みするような精神性の持ち主ばかりが揃っていた。
幸福次元への到達はまだまだ先に……。
過去の自分も里見くんに似たような所があったのかもと考えるだけで、既に嘔吐しそうになっていた。